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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年6月号

データを重視して説得力のあるものを

佐藤久夫

パラレルレポートのスケジュール

国連の障害者権利条約関係のサイトによると、2016年5月6日現在の批准国・地域は163、初回締約国報告の提出は93、国連からの事前質問事項は48、それへの締約国の回答は37、出された総括所見は40となっている(41掲げられているが実質40)。この3-4月の障害者権利委員会で採択された7か国への総括所見が5月6日時点ではまだアップされていないので、正確には47である。

141番目の批准国の日本はすでに初回報告期限を迎えた。初回報告数は141を超えるべき時点だが前記のように93であり、多くの国が第35条を守っていない。

より重大なのは、初回報告を出した93か国に対して事前質問事項が48であり、40以上が残っていることである。年2回のセッションで、合計14か国への総括所見と、14か国への事前質問事項を採択するという現在のペースのままでは、日本が急いで94番目の報告となっても3年ほどの順番待ちとなる。この国際監視システムは、障害者基本法にはない条約の強みの一つなので、迅速な審査ができるような体制整備が望まれる。

いずれにせよ、日本に対する事前質問事項の本格的な準備が始まるのは3年目に入ってからとなろうから、パラレポの作成は丸2年の期間で行うことになると思われる。まもなく日本からの報告が届き、8-9月のセッションで日本を担当する委員が決まると予想されるので、その委員と密接に連絡を取りながらスケジュールを決めることになろう。

パラレポの意義と作成に際しての工夫

筆者は、国連・障害者権利委員会の総括所見がパラレポによって決定的な影響を受けた実例を、韓国とドイツについて、特に条約の1、5、19、27条を取り上げて紹介した1)

これはある意味で当然で、締約国は実施状況とその成果を報告する立場、国連と障害者団体は条約の完全実施を求める立場である。そのため、パラレポなしでも総括所見は厳しめの勧告となる。しかし、パラレポが説得力を持って条約の内容・水準と現状の落差を指摘し、具体的で基本的な法・政策課題を提起しなければ、総括所見は抽象的な勧告に終わる可能性が高い。逆に具体的な勧告を生み出すと、次回の審査のポイント(つまり締約国が次回報告すべき点)は、その勧告の実行のために具体的にどんな措置が執られたかとなるので、国・政府は政策の改革を強く迫られる。

ドイツのパラレポの中心は「ドイツ障害者権利条約連帯」によるものであった。これはパラレポづくりのために全国レベルの78団体により結成されたもので、障害者団体を中心にしつつ、福祉団体や労働組合も参加した。

パラレポでは、この78団体のすべては、一本にまとまったパラレポを出すことに賛同したが、個々の評価や提言のすべてについて全団体が一致して賛同しているわけではない、と断っている。まさに小異を捨てて大同につく、といえる。

また、パラレポではすべての障害者を平等に扱う視点から、特定の機能障害を強調しないようにした。しかし同時に、分かりやすくするために特定の機能障害を例示することもあり、その際には「連帯」メンバーの多様性が描かれるようにしたという。さらに、慢性疾患のある人を条約では障害者としているので、その理解に従った。

日本障害者協議会(JD)の取り組み:障害者権利条約のパラレルレポートに関する資料

JDでは60の加盟団体にアンケートを行い、条約の条項ごとに意見・要望・データを収集し、また「第1回政府報告案」(パブコメの対象となった報告案)に対する各団体の意見などを整理収集した。これらの意見等と政府の案とを対比して一覧した「資料」をJDホームページの「各種提言・調査報告」のコーナーに紹介した。

たとえば、「第8条 意識の向上」では、「内閣府による平成24年度「障害者に関する世論調査」によれば、障害者週間を知らないと答えた者が71.4%、障害者権利条約を知らないと答えた者が81.5%に及び、政府等による啓発活動が不十分であることが明らかである。」という意見が掲げられている。一方、「政府報告案」では、政府・自治体が行なっている多様な啓発活動が紹介されているのみであった。

また、「第13条 司法手続の利用の機会」で、「2007年9月25日、佐賀市において、自閉症と知的障害のある青年が、5人の警察官に取り押さえられて、命を落とすという事件があった。何かに誤解して混乱している場合に、障害のない人であれば言葉によって説明することで落ち着くことができるが、自閉症があると障害ゆえに言葉で説得することが困難なこともある。青年を押さえつけた5人の警察官のうちの一人でも自閉症に気づいてくれていたら青年は命を落とさずにすんでいたのではないかと思われる。」という紹介がある。このような事例データも重要な課題があることを国連に知ってもらうために欠かせない情報であろう。

(さとうひさお 日本障害者協議会理事・政策副委員長)


【参考文献】

1)佐藤久夫「パラレポの効果 韓国の場合」、すべての人の社会、2015.6、p6-7、同「パラレポの効果 ドイツの場合」、同、2015.7、p8-9。