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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年6月号

パラレルレポート「法律の前にひとしく認められる権利」における国内の動向

田中正博

パラレルレポートとして提案する際に重要なのは、権利条約の規定を単純に当てはめないことと考える。政府報告に対しては批判的な視点も必要だが、何が課題で、今後、どのような方向付けで権利条約が求めているところを目指していくのかという視点も重要であり、建設的に物事を進めていく視点であると考えている。その視点で当会としては、第12条「法律の前にひとしく認められる権利」における国内の動向について言及したい。

政府報告では、日本国憲法第13条と障害者基本法第3条で、基本原則としての障害者の個人の尊厳についての規定に触れている。民法第3条でも、「私権の享有は、出生に始まる」旨規定し、すべての人が権利能力を有することとされ、障害者であることを理由とした制限は設けていない。そして、各論としての成年後見制度に触れ、「認知症、知的障害、精神障害など(以下、障害等)の理由で判断能力の不十分な者を保護し、支援するための制度として、本人の判断能力の程度に応じて、後見、保佐及び補助の3類型を利用することができる。」としている。

当会としては「法律の前にひとしく認められる権利」を考える際に、政府報告の中の成年後見制度で記載されている、障害を理由にした「障害等の理由で判断能力の不十分な者を保護」という文言が考え方の基本とされている点を改めていく必要があると考えている。基本の考え方は、「障害等の理由で判断能力が不十分であっても、意思決定支援を受けながら主体的な人生を過ごせるようにさまざまな支援を活用する。」とされるべきである。

政府報告では「成年後見人は、本人の意思を尊重しその身上に配慮する義務を負い(民法第858条)、これにより、本人の権利、意思及び選好の尊重が図られている。」としている。判断能力の不十分な者を保護することが成年後見の基本の考え方のために、民法では「本人の意思を尊重しその身上に配慮する」としながらも、成年後見では「判断能力の不十分な者を保護し、支援する」ことから対応が始まってしまう。結果として、主体を後見人が担ってしまうことに問題がある。また、補助開始の審判の際に、本人の同意が必要となる補助の活用は、保佐とともに、後見と比べると著しく利用状況が少ない。後見制度に偏りがあると指摘される由縁である。

他方で、国内では必要な情報の提供や助言等を行う「基本相談支援」等を通して、本人の意思を尊重し利用意向を確認するサービス等利用計画やサービスを提供する際に、本人の主体を尊重して個別支援計画が、徐々にではあるが個別の主体を尊重し始めている。

政府報告では「成年後見制度の利用に要する費用について補助を受けなければ成年後見制度の利用が困難であると認められるものに対し、当該費用を支給する事業が実施されており、2014年度には1,360の市町村において当該事業が実施された。」となっているが、サービス利用の観点から成年後見制度を利用している実態は少ない。サービス利用時に成年後見が果たす役割について、計画相談等との関係も含めて整理が必要である。

第12条「法律の前にひとしく認められる権利」を、国内の実情を検証する際に、まずは、本人の意向を尊重する制度へとシフトする方向感の確認が大事だと考えている。

現行の成年後見制度が財産管理重視で、本人の生活支援や意思決定への支援は求められていない。後見人の価値観、意見が被後見人に押しつけられ、被後見人の希望が取り入れられない。あるいは、成年後見を使わなくてもよい事例があるのではないか等、成年後見制度の利用の促進よりもその再検討、見直しが必要という視点を重視する声がある。

一方で「本人に取り返しのつかない不利益を及ぼす重要事項の決定には、成年後見制度による権利擁護が必要であり、権利条約の理念に適っている。」との意見もある。そのため「意思決定をする事項の中には、簡単な行為から高度な法律行為まであり、内容を理解できない事項については意思決定できない。」との考え方を、意思決定を支援する際の限界の壁にしない必要がある。本人の意思の確認、本人の意思に沿った決定は難しいものであり、中長期的な課題となるものも多いが、まずは、広くモデル事例を蓄積しながら、意思決定支援を促進すべきである。

政府報告には、障害者政策委員会からの指摘として「意思決定の支援及び法的能力の行使を支援する社会的枠組みの構築が急務である。また、成年後見制度のうち、(中略)代理人が本人に代わって意思決定をする場合にも、法の趣旨に則り、できる限り本人の意思を尊重するよう制度運用の改善を図る必要がある。」とされた。

平成28年3月23日に、「成年後見制度の利用の促進に関する法律」が成立した。改善策になり得るかについて意見が錯綜しているが、検討される段取りとなっている。本人の意思の確認が困難であり、やむを得ず代理決定をする場合でも、成年後見を限定的なもの、最後の手段として位置付け、意思決定支援も含めた制度運用の改善を図るべきである、等の課題が整理されるか、推移を注視する必要がある。

意思決定支援は、わが国では未成熟である。本人の意向を生活の場、人生設計の場、生命に関わる場という3層構造に沿って意思決定支援するためのガイドラインが作成された。これを相談支援専門員研修や、サービス管理責任者等研修などに取り入れ、意思決定支援が日常的に活用され、それをチェックする段取りが始まったばかりである。

(たなかまさひろ 全国手をつなぐ育成会連合会統括)