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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年6月号

障害者権利条約政府報告を見て

本條義和

障害者権利条約の政府報告が公表された。精神障害者家族の唯一の全国組織である全国精神保健福祉会連合会(みんなねっと)としては物足りないというのが率直な感想である。

(1)目的(権利条約第1条)及び定義(権利条約第2条)

障害者の定義については、2011年に改正された障害者基本法(第2条)や障害者差別解消法に、機能の障害だけでなく「障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態」と社会モデルの概念を取り入れたことは評価したい。しかしながら、精神保健福祉法上の定義は相変わらず「統合失調症、…その他の精神疾患を有する者をいう。」と医学モデルである。また、障害者総合支援法においても3障害それぞれの法律(精神障害の場合は精神保健福祉法)において別々の定義が行われている。

さらに、権利条約第19条「自立した生活及び地域社会への包容」に関する政府報告では「…精神障害者保健福祉手帳制度が設けられており、手帳所持者に対して各種の支援策が講じられている。」とあり、障害者手帳の有無で障害を判断している。手帳の有無で判断するのは、障害者雇用促進法(雇用率算定)も同様である。雇用率の算定対象となるのは障害者手帳所持者となっている。障害福祉関連法だけでなく、国内法すべてにわたって見直す必要がある。

(2)意識の向上(権利条約第8条)

権利条約第24条の教育では、障害児に対する教育について書かれている。しかし、権利条約第8条「意識の向上」に、「教育制度の全ての段階(幼年期からの全ての児童に対する教育制度を含む。)において、障害者の権利を尊重する態度を育成すること。」と明記されている以上、あらゆる教育段階において障害のあるなしにかかわらず、すべての児童生徒に教育すべきである。この精神疾患を含む心の健康教育は、障害児者の人権啓発とともに、精神疾患等に関する正しい知識を身に付けさせることは精神疾患患者の未治療期間の短縮となり、精神障害者の回復を早めることにもなる。さらに、精神疾患に至らなくとも、心に不調を感じた時にも対処方法を身に付けられるという効果もある。

以上のようなことから、義務教育段階からの心の健康教育は大切である。また、教職員に対する研修も必要といえる。オーストラリアの精神保健プログラム、マインドマターズなどが参考となる。

(3)身体の自由及び安全(権利条約第14条)

精神保健福祉法には、措置入院(精神保健福祉法第29条)や医療保護入院(同法第33条第1項及び第2項)等、精神障害者について本人の意思によらない入院制度を定めている。この法律に定める入院制度は、精神障害者であることのみを理由として適用されるわけではなく、「精神障害のために自傷他害のおそれがある場合又は自傷他害のおそれはないが医療及び保護が必要な場合であって、入院の必要性について本人が適切な判断をすることができない状態にある場合に適用されるものである。」としているが、これは明らかに、権利条約の趣旨とは異なる。確かに、強制入院(措置入院)の場合は、自傷他害に限っていることは事実である。しかし、自傷他害行為を行なった者は、精神障害に限らない。それにもかかわらず、精神障害者の場合だけ措置入院となるのは差別ととらえられても仕方がない。

また、医療保護入院の場合も、権利条約でいう非自発的状態とは異なる。非自発的とは、意識不明や心神喪失で全く意思決定や意思表明ができない場合である。しかし、医療保護入院の場合は、本人の意思に反する入院であって、本人は拒否ないしは留保という意思表示をしているものである。

また、医療者の医療的判断から見て明らかにおかしな判断だとしても、患者に判断能力がないとみなしてはいけない。精神機能が低下してきている人ほど意思決定支援を尽くしていく必要があるという視点が欠けている。すなわち、障害者本人の判断能力だけに着目するのではなく、医療従事者や福祉職等による社会的支援ないし合理的配慮の欠如が、一種の社会的障壁ともなることを忘れてはならない。

なお、医療保護入院については、保護者の同意はなくなったが、家族の同意要件が残った。家族会としては、家族の同意要件は廃止すべきとの考えであるが、それは家族に対する説明を求めないということではない。少なくとも、一般医療と同様に本人と家族に対する説明と承諾が必要であり、一般医療と同等にしてほしいということである。そして、単に入院時だけでなく入院中においても、治療方針、治療方法、入院期間及び入院治療に代わる治療方法などの説明が必要である。

本人の意思確認が難しい場合でも、家族の同意(改正前は保護者の同意)などを要件とすべきでなく、他職種チームの医療的判断と権利擁護上の判断を要件とすべきである。

(4)家庭及び家族の尊重(権利条約第23条)

権利条約第23条に関する政府報告では「我が国は、憲法第24条において婚姻の自由を規定している。」とあるが、民法770条には裁判上の離婚として5項の記載がある。その第4項には配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがない時とあるのも精神障害者に対する差別ととらえることができる。改正を要すると考える。

(ほんじょうよしかず 全国精神保健福祉会連合会理事長)