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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年6月号

国連人権メカニズムを徹底的に活用する

関口明彦

日本は障害者権利条約(CRPD)を含めて8つの人権条約を批准している。CRPDがその前文d項で想起している人権条約で日本政府が批准しているものは、以下の6つである。

社会権規約、自由権規約、人種差別撤廃条約、女子差別撤廃条約、拷問等禁止条約、子どもの権利条約。

各人権条約は、それぞれ人権条約機関を持っている。CRPDには障害者権利委員会がある。条約の締約国は、定期的に人権条約機関に対して政府報告を提出する義務がある。審査の際には、政府報告のみならず、国連機関等の国際機関やNGO団体などが提供した情報も参考にする。そして、審査の結果、人権条約機関は総括所見という文書を採択し、その中で、締約国に対し、勧告という形で人権条約の履行について改善すべき点を指摘することになる。

全国「精神病」者集団(JNGMDP)は、これまでに自由権規約委員会、拷問等禁止委員会、女子差別撤廃条約の人権条約機関に対してパラレルレポートを提出してきた。

これとは別に、日本政府が批准していない選択議定書や受諾宣言に基づく個人通報制度がある。国連障害者権利条約特別委員会議長だったドン・マッケイによれば、CRPDにおいて選択議定書を受け入れれば、単に個人通報ができるのみならず、自由権と同時に社会権についても国際的な司法判断の対象になるという。1日も早い批准を望むばかりだ。その他に手段は4つある。

1つめは人権理事会(HRC)の普遍的定期的審査(UPR)を利用する方法だ。NGOは利害関係者として、次の活動ができる。UPRに際し、人権状況の情報提出、作業部会への出席、UPRでなされた勧告を政府が履行するようなフォローアップ活動である。

2つめはHRCに対する通報手続を利用する方法だ。大規模かつ信頼できる証拠のある一貫した形態の人権侵害については、HRCに対して申立てをすることができる。これは日本の精神障害者が置かれている状況を考えると、真剣な検討に値する。

3つめは特別手続(スペシャルプロシージャー)を利用する方法だ。特別手続とは、特定の国の人権状況あるいは特定の人権に関わるテーマについて、各国を対象とした調査や監視を行い、勧告や報告書の公表を行うHRCのメカニズムだ。

これには33の分野がありワーキンググループや特別報告官が任務保持者としてHRCによって任命されている。任務保持者に調査や訪問を要請できるほかに、個別の人権侵害に対応する特別手続が存在し、人権侵害に関する情報を持っている場合、通報をすることができる。通報があると、特別手続で、通報に基づいて調査を行うか否かを判断し、調査を行う場合、通報対象となった人権侵害について関係する政府に通知書を送付し、情報提供を求めたり、対応策を講じるよう要請したりすることがある。通報をきっかけに、関係する政府に対して勧告が出されることもある。これは、条約に基づく個人通報(ハードプロシージャー)を批准していない日本でも可能だ。現在JNGMDPは、恣意的拘禁に関するワーキンググループに通報を申し立てる準備とワーキンググループの日本訪問を実現させる運動に関与している。

4つめは人権条約機関に対する、直訴だ。これは内容によっては取り上げられることがあり、ハードプロシージャーに対してソフトプロシージャーと呼ばれる。精神保健福祉法の検討結果が見えない中、具体的なパラレルレポートはまだ討議していないが、JNGMDPが提出したパブリックコメントは、以下である。

1.行動制限

6.御意見の該当箇所:パラグラフ105、障害者権利条約第14条

7.御意見の内容:本パラグラフにおいては、精神保健福祉法第36条に規定された精神障害者に対する行動制限に関する報告がなされていない。

8.御意見の理由:障害者権利条約第14条は人身の自由に関わる規定であり、本パラグラフにおいて精神保健福祉法第36条の精神障害者に対する行動制限に関する報告をすべきである。

2.障害者虐待防止法の範囲

6.御意見の該当箇所:パラグラフ110、障害者権利条約第16条

7.御意見の内容:本パラグラフにおいては、障害者虐待防止法の適用範囲について報告がなされていない。

8.御意見の理由:障害者権利条約第16条は虐待防止に関わる規定であり、本パラグラフにおいて障害者虐待防止法の適用範囲に教育機関と精神科病院が含まれていないことを報告し、救済可能な範囲等を明示すべきである。

3.骨格提言の実施状況

6.御意見の該当箇所:障害者自立支援法違憲訴訟の基本合意と骨格提言を出した、とする記述。

7.御意見の内容:骨格提言をどのように反映し、どれくらい実施されたのかを、明示すべきである。

8.御意見の理由:骨格提言は、CRPDの批准に向けた国内法整備の一環という政策上の位置づけであり、その反映は障害者権利条約の実施状況に係るものであり詳細の報告が求められるためである。

4.総論

政府報告は、制度の説明に終始しており、CRPDの実施状況を報告する体をなしていないといわざるを得ない。そのため、部分修正を重ねたところで結局のところ国際社会からの非難を免れない内容となっている。

CRPDが人権条約であることに焦点を当てていきたい。また、すでに出されている人権条約機関からの総括所見を守らせなければならないと強く思う。可能な国連人権メカニズムをすべて活用していきたい。

(せきぐちあきひこ 全国「精神病」者集団運営委員)