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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年6月号

障害のある女性の立場から
―複合差別の解消にむけた取り組みを

臼井久実子・米津知子

障害女性などの働きかけの結果、女性差別撤廃委員会(以下、CEDAW)は今年3月、日本政府に総括所見(以下、勧告)を出した。その内容は、政治的及び公的活動、意思決定の地位における障害女性の参画のためにクオータ制を含む暫定的特別措置をとること、雇用分野の調査を実施しジェンダー統計を実施すること、DVを含む暴力被害者である障害女性等の通報やシェルター利用の可能化及び職員研修、あらゆるアクセス障壁の除去、強制不妊手術被害者の調査及び法的救済など具体的で、「複合的及び交差的な差別の根絶」を焦点化した。こうした動きも踏まえて障害者権利条約日本政府報告を読み解く。

1 政府報告の記述箇所

障害女性に関する記述はパラ3、39、40、41、211にある。課題と認めて取り組む旨の記述は、「課題としては、データ・統計の充実が挙げられ、特に性・年齢・障害種別等のカテゴリーによって分類された、条約上の各権利の実現に関するデータにつき、より障害当事者・関係者の方のニーズを踏まえた収集が求められていると考えられるので、次回報告提出までの間に改善に努めたい(パラ3)」である。

内閣府障害者政策委員会(以下、政策委員会)の議論経過と指摘の一部は「…障害女性の視点からの記述及び統計を充実させるとともに、例えば、福祉施設での同性介助を標準化するなど、女性に重点を置いた政策立案を推進する必要がある(パラ41)」と記述されている。その他は、障害者基本法、第3次障害者基本計画・障害者差別解消法基本方針・第4次男女共同参画基本計画に共通する文言の引用、婦人相談所及び婦人保護施設に関する記述(パラ40)で、引用にとどまるものが多く、政府の取り組みの到達点や課題の記述が乏しいことは問題である。

2 課題について

2―1 障害女性の参画(条約3、6、29条 パラ39、41)

「私たち抜きに、私たちのことを決めないで」―障害者権利条約の制定プロセスで合言葉になってきたが、委員28人のうち障害者関係者が過半数の政策委員会でさえ、障害女性はわずか2人。自治体の審議会等は障害女性がゼロのところも多く政策から抜け落ちやすい。政策委員会のポジティブ・アクションの議論(パラ41)を踏まえるなら、国・自治体において、障害女性の立場で活動してきた人たちの参画を確保して調査と政策検討に着手することが、まず必要である。

2―2 実態調査、性別集計(条約31条 パラ211)

DPI女性障害者ネットワークの実態調査(2012年に報告書)が障害女性の複合差別を可視化したが、政府統計や自治体の調査においても、性別を調査項目に含めることはもとより、多角的な分析が可能な統計を出して、実態と政策課題を明確化しなければならない。「次回報告提出までの間に改善」するためにはどうするか、計画の策定と実行が求められている。

2―3 女性への暴力の防止と救援、あらゆるサービスへのアクセス、研修(条約16条 パラ40)

複合差別実態調査(前出)で性的被害の経験を挙げた障害女性が3割にのぼる状況から、国内外で問題を訴えてきたことがCEDAW勧告に反映された。政府報告パラ40の「婦人相談所及び婦人保護施設で障害者を含む女性からの相談を受け必要な保護支援を行っている。」という箇所は、相談や支援へのアクセスが困難でたらいまわしもある実態と乖離している。職員等の研修及び、障害女性の相談や保護の件数・支援内容の調査と課題整理が今後の政策に必要である。

2―4 性と生殖に関する健康と権利(条約23、25条)

妊娠した障害女性に医師や周囲の人が中絶を迫ることは、現在も起きている。優生保護法下で説明もなく不妊手術が強制された歴史が尾を引いている。2015年に、被害者の女性が国の謝罪と補償を求めて日弁連に人権救済申し立てをした。CEDAWも調査と法的救済を強く勧告している。政府はこれに真剣に取り組むべき時だ。障害がある人の性と生殖に関わる人権を高め、女性自身が産むか産まないかを決めることができる社会を目指したい。

3 国内外・各分野から取組を

DPI女性障害者ネットワークは以前からパラレルレポートを出してきたが、2016年の審査では初めて、多くの支援を受けて障害のある女性を含む11人を国連に派遣、CEDAW委員と直接対話できたことが今回の勧告につながった。障害者権利委員会の審査においても国連ロビイングは重要なものになる。

障害者権利条約では、第6条等で「障害のある女性」という課題が明記されているのに対して、国内法ではいまだ「性別」という言葉で、定義が明確でない。各法律が改正時期を迎えていく中、計画や方針に記載されてきた文言「障害に加え、女性であることで更に複合的に困難な状況におかれている場合に配慮が必要である」を法律にも明記することが、条約履行に向けた国内法の課題である。

自治体においては、兵庫県や京都府など条例・基本計画・調査に障害女性の意見を反映してきた先例を参考に、地域の障害女性の実態と課題を自治体の取り組みに反映すること、各地の障害者関係団体もこの課題に取り組んでいくことが非常に重要である。さらに情報の共有と議論を進めていこう。

(うすいくみこ・よねづともこ DPI女性障害者ネットワーク)


◎資料:CEDAW 第7・8次日本報告審議総括所見 http://www.jaiwr.net/jnnc/2016soukatsujnnc.pdf

◎DPI女性障害者ネットワークジュネーブ派遣報告書(2016年4月)
問い合わせ先:dwnj@dpi-japan.org