音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年6月号

3.11復興に向かって私たちは、今

東日本大震災 あの時~現在~未来

吉田展泰

岩手県沿岸南部、大船渡市盛町に私が勤める「障がい者・児童相談支援センター」があります。大船渡市と隣接する陸前高田市・住田町の二市一町は、「気仙地域」と呼ばれています。支援センターは、気仙地域の障がい者・障がい児への相談支援を担っており、私は、相談支援専門員として勤めています。東日本大震災発生後、震災直後から約6か月間までの「あの時」、6か月後から「現在」までの活動や地域の状況について紹介します。また、気仙地域の今後の課題や「未来」について考えてみたいと思います。

1 「あの時」…私たちの活動、避難所の状況

東日本大震災発生後、「1か月」を基点に求められる活動内容が変化してきました。

震災翌日から1か月までは、医療・保健、避難所生活など当面の健康維持や生活安定を図る活動が中心でした。震災翌日には、避難所の障がい者や慢性疾患患者の服薬継続が大きな問題となりました。また、避難所には、医療・保健チーム、避難所の互助活動など多くのチームや各種団体が活動していました。「点」の支援は多くありましたが、その「点」の支援を「つなげる」活動や支援が少ない状況でした。そのため、障がい者や避難者から訴えがあっても、必要な支援につなげにくいという問題がありました。

その状況に対し、私や当時ともに活動していた法人職員(相談支援専門員、臨床心理士)は、(1)県立病院へ約10~15人分の薬の受け取り作業、(2)医療・保健・支援団体と障がい者・避難者とのパイプ(連絡調整)役、(3)障がい者・避難者への傾聴などを行なってきました。震災1か月を過ぎると、障がい者から震災前のように福祉サービスを利用したいという声があがるようになりました。普段の生活に戻りたいという気持ちが高まり、それに応じ「復旧」への活動や支援にシフトチェンジしました。

この頃になると、気仙地域の障がい福祉サービス事業所・精神科病院の稼働状況確認・稼働状況一覧作成などを行い、各相談支援・福祉サービス事業所や病院、県内外の支援団体へ一覧を提供しています。障がい者の声に対し、スムーズにサービス利用へつなげられるよう、情報によって「つなげる」支援を行なってきました。その後、福祉サービスの利用調整やケアマネジメントの実施、避難所から仮設住宅への移住支援など、障がい者への個別支援が増えてきました。

2 「現在」…私たちの活動、気仙地域の今

震災から半年~1年が経つと、福祉サービスも概(おおむ)ね震災前の稼働状況に戻り、被災者の仮設住宅への移住も完了しています。その中で、新たなコミュニティでの生活に戸惑いや不安を抱える障がい者が多くいました。騒音など近所トラブルに巻き込まれることもあり、支援センターが調整に入ることもありました。

現在、仮設住宅から復興住宅への移住が徐々に進んでいます。また新たなコミュニティでの生活が控えており、各個人から地域コミュニティ・施策まで、さまざまなことが大きく・めまぐるしく変化しています。その変化に対し、希望・期待、戸惑い・不安な気持ちが交錯しています。そのような複雑な心理状態に置かれているのが、気仙地域の障がい者の現状です。

陸前高田市では、震災後、新たに障がい福祉計画を実行する推進体制が整備されました。障がい者、一般住民、支援機関職員が共同でワーキンググループや委員会などを運営、具体的な取り組みを検討し実施しています。

3 「未来」…私たちの今後の活動・気仙地域の将来

気仙地域に精神障がい者の当事者会「おあしすばでぃ」があります。私は震災前から彼らのサポート活動を行なっています。震災後、あるワークショップで、メンバーが「不変常在」という四字熟語を作りました。この熟語は、「変わらない、いつもどおりのありがたさ」という意味です。彼らにとって、当事者会という震災前から変わらずにある存在が、心強く、震災を乗り越える原動力になりました。そして現在のおあしすばでぃは、県内外の当事者団体と積極的に交流や活動を行なっています。

私は、この「不変常在」が気仙地域の将来に大切なことであると考えています。気仙地域の「現在」で話したように、今の気仙地域は、さまざまな気持ちが交錯し、めまぐるしく変化しています。その中で、震災前から「変わらないもの」は、障がい者にとって安心感につながり、精神的なよりどころになります。あらためて、気仙地域の変わらないものを振り返り、変わらないものを活(い)かした活動や施策などを展開すべきであると考えています。それらを展開していくことで、おあしすばでぃのように「安心感」から現状を「乗り越える原動力」へ、そして新たなことに「チャレンジする原動力」へつながっていくのではないかと考えています。

安心感~乗り越える原動力~チャレンジする原動力という過程は、まだ先の長い道のりかもしれません。しかし私たちは、障がい者と共にその道のりを「ゆっくり・焦らず」歩んでいきたいと思います。ゆっくり・焦らず、着実に歩んでいくことで、変わらない・新しいものが共存した新たな気仙地域の姿を見ていきたいと思います。

(よしだのぶやす 大洋会障がい・児童相談支援センター所長)