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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年8月号

横浜市南部地域療育センターにおける幼稚園・保育所への巡回訪問の実際と今後の課題

前島弘

療育センターの機能と幼稚園・保育所との連携

横浜市南部地域療育センター(以下、当センター)は昭和60年に横浜市磯子区杉田に開所し、平成27年に30周年を迎えた横浜市に設置された第1号の療育センターである。現在、横浜市にはリハビリテーションセンターを中核として8館の地域療育センターが整備されており、0歳から小学校6年生までの小児を対象にしている。

当センターは磯子区と金沢区の2区(平成25年度に「よこはま港南地域療育センター」が開所するまでは港南区も担当)を担当エリアとし、診療、通園、相談の3つの機能を持ち、発達障害の子どもやその家族、関係機関を支援する地域のセンター的機能を果たしてきた。診療部門は各診療科の診察と各専門職の評価、訓練、指導を行い、相談初期の親子が通う場として早期療育科が外来グループを開催している。通園部門は法改正もあり、現在は児童発達支援センター(医療型含む)として親子通園、単独通園という形態を取り、平成27年度からは地域、利用者のニーズに応じる形で単独通園での幼稚園・保育所との平行通園が可能な週1、2日のクラスも開始した。

また、知的発達に遅れのないケースを対象に児童発達支援事業所「はらっぱ」が平成22年に開所し、幼稚園・保育所との連携にも重点を置きながら運営をしている。相談部門はソーシャルワーカー福祉相談室9人、地域支援室2人体制で保護者からのさまざまな相談、地域の関係機関との連携、幼稚園・保育所・小学校への巡回訪問、小学校からの依頼を受けて教員向け研修、コンサルテーションを行う学校支援事業を主な業務として担っている。

開設当初よりソーシャルワーカーが中心となり、地域支援の一環として1.子どもへの支援(過ごしやすい環境作り)、2.園への支援(支援方針のアドバイス)、3.保護者への支援(集団での子どもの様子を客観的に捉える機会の提供)を主な目的として、幼稚園・保育所への巡回訪問を実施している。

当センターが担当するエリアでは、当センターとの連携の長い歴史的経緯のなかで発達障害児を積極的に受け入れる園も多い状況である。このため、地域の幼稚園・保育所からのニーズが高く、9割近くの園に訪問をしている(グラフ1)。各園年1~2回の訪問をしており、平成25年に3区から2区に担当エリアが変わったことで訪問回数等は減少したが、1園あたりの相談件数は増加傾向にある(グラフ2)。

グラフ1 平成27年度巡回訪問園数(担当エリア内の認可園のみ)
グラフ1 平成27年度巡回訪問園数(担当エリア内の認可園のみ)拡大図・テキスト

※幼稚園数に幼保連携型認定こども園1園含む
※実際の巡回訪問では「小規模保育」にも対象ケースがいれば訪問している
※依頼のなかった園には対象ケースが在籍していない園も含む

グラフ2 訪問回数と担当エリア内の1園当たりの平均相談件数
グラフ2 訪問回数と担当エリア内の1園当たりの平均相談件数拡大図・テキスト

※担当エリア:平成24年度までは磯子区・金沢区・港南区、平成25年度以降は港南区を除く

基本的には当センターを利用しているケースを対象にしているが、当センターを利用していない、先生方が保育の中で気になる子どもたち(当センター未利用児)の相談にも先生方への支援という位置づけで対応している。平成27年度の実績では、対応ケースの半数以上が当センター未利用児となっている(グラフ3)。

グラフ3 平成27年度巡回訪問対象児数
グラフ3 平成27年度巡回訪問対象児数拡大図・テキスト

また、近年当センター児童精神科に受診申し込みをするケースは約9割が3歳児時点で、幼稚園・保育所に在籍している。中重度の遅れのあるケースから知的発達に遅れのない行動上の問題を抱えたケースまで子どもたちの状態像も多様化している。以上のことから、幼稚園・保育所では多様な状態像の子どもたちへの支援と当センター未利用児の増加に伴い、保護者に子どもの状態像の理解を促す支援を同時に担っていることになる。こうした困難な課題を抱えた幼稚園・保育所への支援、連携は療育センターの大きな役割の一つになっている。

幼稚園・保育所への巡回訪問の実際

訪問園は担当エリアの2区の幼稚園・保育所を主な対象としているが、当センターを利用しているケースがいる場合には、2区外、市外へも訪問している。対応職員は主にソーシャルワーカーが行なっているが、当センター内で訓練指導を受けていて集団の中で、特段配慮が必要なケースが在籍している場合には、専門職が同行することもある。訪問までの流れは園からの申し込みを受けて訪問日を設定し、対象ケースには、事前に担当ソーシャルワーカーから電話連絡をした上で訪問日を迎える。

当日は事前に記載していただいた相談票を基に打ち合わせをし、保育園は午睡まで、幼稚園であれば降園までクラスに入り行動観察をする。その後、先生方とのミーティングを行い、子どもの状態像の確認と今後の支援方針の検討、助言をしている。状況によっては個別的な関わりだけではなく、クラス全体への支援や保護者支援についての助言も行なっている。対象ケースには後日保護者からの連絡を受けて、園での子どもの様子を客観的にお伝えし、今後のサービス利用や支援の方法について確認している。

巡回訪問では園の方針や先生の考え方に合わせた助言でなければ、ケースの発達課題の見立てが十分にできたとしても支援は実践されず、子どもたちのより良い生活環境には結びつかない難しさがある。また、当センター未利用児を含めた配慮が必要な子どもたちが複数在籍するクラスは珍しくない。そのため、個々の子どもたちへの支援の提案だけでは限界があり、クラス全体、園全体への支援の検討、保護者支援の視点も必要となる場合がある。そして、養育環境等の問題を抱えた子どもたちの相談も多く、福祉保健センターや児童相談所等の関係機関の役割を理解し連携を意識した広い視野が必要であると感じている。

課題

現在抱えている課題として、当センター未利用児相談の増加と、待機児童解消を目的とした新設保育所が次々に開所したことによって訪問対象園が増加していることが挙げられる。当センター未利用児の相談に関しては、前述したとおり、本来の支援対象である療育センターをすでに利用しているケースへの支援を逼迫させる件数となっている。個々の先生方の支援技術の底上げと同時に、園内で子どもへの配慮と保護者への支援も含んだ方針を検討するコーディネート機能に対して療育センターが助言を行なっていく等、巡回訪問以外の方法での連携や支援を強化していく必要性を感じている。

当センターエリアの幼稚園・保育所には、療育センター等の関係機関の役割を理解した上で、子どもの見立てと具体的手だての実践を行なっている園も複数あり、地域の中で障害児支援の重要な役割を担っている。その一方で、新設保育園は療育センターの機能、役割を理解してもらうことから連携がスタートすることも多く、園によって発達障害児への支援の取り組みに温度差もある。対象園の増加とニーズの多様性から各園への巡回訪問という形態だけではマンパワーの問題もあり、密な連携は困難になってきている。当センターの機能と役割を理解してもらう場、長年、保育現場で支援をされている先生方の実践を共有する場が必要である。

当センターでは医師、各専門職、保育士、ソーシャルワーカーが講師を務め「保育士・幼稚園教諭研修」を年1回開催しており、毎年100人以上の先生方や地域の子育て支援者、児童発達支援事業所のスタッフにご参加いただいている。研修会を通して学んだ知識を巡回訪問で、実際の保育場面に落とし込んでいけるような連携を目指して実践しているが、今後、積極的に当センターの機能と役割を理解してもらう場を提供することと、小規模な事例検討やコーディネーター的役割を担う先生への研修等も検討していきたいと考えている。

最後に

現在、当センターが実施している幼稚園・保育所への巡回訪問は、保育所等訪問支援事業とは別の形態で実施している。前述したようにいわゆる「保育の中で気になる子」が増加し、配慮が必要な子どもが複数在籍するクラスも多い中、先生方が対応に苦慮するのは当センター未利用児やその家族に対する支援である場合も少なくない。そのため、対象児が在籍するクラス環境への支援と先生方が前向きに保育に向かえる支援の検討を同時に考えていく必要がある。こうした状況を踏まえて、個別的支援の意味合いが強い、保育所等訪問支援事業の対象を療育センター全体の機能の中で、どのように位置づけていくのかは慎重に検討していきたいと考えている。

(まえじまひろし 横浜市南部地域療育センター地域支援課)