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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年8月号

支援を受ける立場から

母親の就労と子どもの居場所

辻京子

1 わが子のこと

平成25年に誕生したわが子は、出生前診断により、口唇口蓋裂と診断されました。出産時に気胸になり、NICUに入院し、治療が終わると、ほ乳の練習を行うためにGCUに移りました。GCU入院中の検査で、難聴があることが判明しました。

退院後は、ほ乳がうまくいきませんでした。夫と私は、ほとんど寝ないで絞った母乳を何とか息子に飲ませようとする生活が続きました。親としては、口から栄養を取ってほしいと思い、母乳を絞ってほ乳瓶やシリンジに入れ、口から飲ませていましたが、精神的にも限界となり、医療的ケアである経管栄養に踏み切りました。現在、息子は3歳になり、発達は少しゆっくりですが、とても笑顔がかわいい男の子です。

2 医療的ケアと児童発達支援施設への通園

直面した問題は、医療的ケアがあるという理由だけで、保育園や児童発達支援施設等の受け入れを断られることでした。よく告げられたのが、「安全が確保できない」ということです。私の住む地域の児童発達支援施設では、医療的ケアがある子どもは受け入れをしていませんでした。

そこで、医療的ケア児を受け入れている母子分離型の児童発達支援施設への通所を決めました。その施設は私たちが住んでいる隣の区にあり、電車を乗り継いで息子の送り迎えをしました。

3 子どもの成長と職場復帰

息子の疾患の手術等が終わり、生活も落ち着いてきて、私は仕事復帰の準備を始めました。待機児童が社会問題となっており、保育園入園は普通の子どもですら入園できないので、障害児は厳しい状況です。その上、医療的ケアがあるとさらに厳しい状況です。

3歳という年齢は、普通は親から一歩離れ、年少さんとして幼稚園や保育園等において、社会生活を経験し始める年齢です。母親も少しずつ子離れの準備をする時期です。仕事をする人もいれば、そうでない人もいる、次の子どもの出産を考える人もいます。

しかし、医療的ケア児やその母親にとっては、その普通の考えや生活、人生の選択が簡単にはできません。結局、育児休暇終了後、私は仕事復帰しましたが、息子は保育園に入園できませんでした。そのため、息子の預け先を確保する必要がありました。無認可保育園やベビーシッターさんには、医療的ケアがあるため預けられません。やむなく、移動支援及び居宅支援を利用し、私費のレスパイトサービスや母子分離型の児童発達支援施設への通所、訪問看護などをつなぎ合わせました。

このとき大変だったのは、ヘルパーさん等の確保でした。社会福祉士及び介護福祉士法の一部改正により、一定の研修を受けた介護職員等は、一定の条件の下にたん吸引等の医療行為ができることになりました。医療的ケアができる人の範囲は広がりましたが、実際はお願いできる人が本当に少ないのが現状です。区から生活支援事業受給者証が給付されていても、一定の資格のあるヘルパーさん等を探すことができなければ、移動支援及び居宅支援サービスを利用できないのです。

4 保育園での生活

息子は今年6月から区立の保育園に入園できました。医療的ケアは、保育園の看護師さんが行なっています。

それと併用して、母子分離型の児童発達支援施設に週1回通っています。前述のように、支援をつなぎ合わせていた生活から、週1回は児童発達支援施設へ通園する、その他の日は保育園で生活するというリズムになりました。

児童発達支援施設では、息子のペースでいろいろなことにチャレンジでき、少しほっとする居場所となっています。少人数であり、ゆったりとした時間を過ごしながら、手話を教えてもらったり、本を読んだりします。今の息子に必要な療育が受けられています。

一方、保育園では、息子は3歳児クラスに所属し、12人のお友達から刺激を受け、助けてもらい生活をしています。ほっぺに経管栄養のテープを貼っている息子は、一目見ただけで覚えてくれるので、とても人気者です。

入園前は、経管栄養を他の子が抜いたらどうしよう、まだ歩けないので、他の子とぶつかってけがをしたりしたらどうしよう等、心配する声が上がっていましたが、子どもたちはそんなことはしません。息子の存在を、当然の存在だと考えてくれています。活動前には、帽子をかぶせてくれたり、息子のお手伝いをしてくれます。経管栄養のチューブを引き抜くこともなく、医療的ケアを見守ってくれています。

5 母親の選択できる人生と子どもの居場所

医療的ケアがあるというだけで、なぜ、こんなに受け入れ先や預け先がないのかと思いました。そして、なぜ障害児の母親は人生の選択が普通にできないのだろうと感じました。そこには、社会資源や子どもを受け入れる側の知識の不足、偏見、法律や政策、いろいろなことが関係していると感じます。

制度や法律ができても、医療的ケアを受け入れてくれる人材を確保できない。また、医療的ケアがある子どもを受け入れることへの過度にリスクを感じる社会。こういった要因が、子どもと母親の普通の生活を奪っている、そして、医療的ケア児とそうではない子どもとの交流の機会を奪っていると思います。

今後、医療的ケアの子どもや親が普通に暮らせるよう制度の充実とともに、それを支える人材育成について、さらなる支援をお願いしたいです。医療的ケア児やその親が普通の生活ができることは、社会のバリアフリーにつながると思います。

息子の通園する保育園の子どもたちは、医療的ケアの子どもがいることを知りました。それは、ノーマライゼーションの一歩になるのだと思います。

(つじきょうこ チャイルドデイケアほわわ瀬田利用者)