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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年8月号

ワールドナウ

アジア太平洋におけるDPI運動の進展

中西正司

1 DPIブロック総会の意義

5月23日~24日、東京・新宿の戸山サンライズにおいて、第16回DPIアジア太平洋ブロック総会が14か国の代表を迎え、盛大に開催された。

アジア太平洋ブロック総会は4年に一度、これまでの成果の評価と、向こう4年間の活動目標の設定を行うとともに、4つの小ブロックでの活動を具体的に議論する重要な会議である。2年ごとに行われるブロック評議会では、活動のモニタリングとフォローアップを行なっているが、総会では、役員体制を一新し、新役員体制のもとで新たな活動目標に沿って、各国がどう動くか具体的に議論し、役割分担が決定される。

2 情勢

過去4年間を振り返ると、アジア太平洋ブロックが世界のDPIの中で重要な役割を担ってきたことが改めて確認される。また、アジア太平洋は、世界の障害者人口の3分の2を抱える地域でもある。この地域で行われた活動は世界に影響を与える。

自立生活センターはこの4年間でアジア12か国に広がり、特に日本と韓国の協力体制のもと、フィリピン、マレーシア、パキスタン、ネパール、モンゴル、カンボジア、ミャンマー、ベトナムなどで新たに団体が育成され、JICA、ダスキン愛の輪基金によるプロジェクト、韓国DPIなどの支援を得て活発な活動が行われている。

交通アクセス運動と介助サービスや政府の自立生活センター支援政策などの成果もあって、目に見える成果が生まれた4年間でもあった。

3 各国の状況

マレーシアではJICAの長年にわたる当事者支援のもと、ヒューマンケア協会の当事者主体のピア・カウンセリングやILプログラム、ILセンター運営研修などが現地と日本で並行して行われた。その成果として、全国7か所でのILセンター設立が首相戦略として決定され、具体的な政府による設立支援が本格化する見通しである。

モンゴルでは、ダスキンプログラム(ダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業)で育成されたバヤール氏が政府の信頼を得、JICAの支援も受けて、コミュニティケアの最前線に立って、ILセンター・モデル事業を展開する予定である。また、同じくダスキンプログラムの修了生の一人である台湾のリン氏は、北京の骨形成不全の当事者団体が2015年に実施した自立生活研修に参加して台湾での活動を紹介した。これがきっかけとなり、2016年5月には、日本から北京へピア・カウンセラーを派遣してのピア・カウンセリング研修が実現した。このように、アジア各国への大きな動きにつながってきている。

4 今後の活動目標

アジア太平洋障害者の十年の「インチョン戦略」の10の目標の中でも、教育・雇用制度と交通・建築上のアクセスは喫緊である。モンゴルでは住宅にエレベーターがなく、毎回、近所の人たちに手伝ってもらって階段を下りたり、学校への通学に介助サービスがなく友人数名が迎えに来て、ようやく小中学校に通えたり、大学生になってからは母親が毎日ついてきて、学友が一切できず、寂しい思いをしたなどの具体的な報告があった。

フィジーでは、これまで議長であったサム・ビルソニ氏が急死し、奥さんのケサ・ビルソニが急きょ代わって出席した。太平洋小ブロックは太平洋障害フォーラムを形成し、オーストラリアの強力な支援を得て活発な活動をしている地域であるが、このような事態にもかかわらずこの総会に参加してくれたことは、DPIにとっても強力な支援をしていく必要のある重要な地域であることを示している。

5 インチョン戦略における重点課題

来年は、アジア太平洋障害者の十年の中間年であるが、ESCAPはインチョン戦略を評価するための質問票を準備している。2月に行われた障害者の十年ワーキンググループでは、各国政府と障害者団体に質問票をそれぞれ回すということが決まっている。回答の内容によっては、今後、ESCAPの中で重視される戦略課題が決定される可能性もあるので、総会ではこの中に積極的に我々の意見を取り入れてもらえるよう、インチョン戦略に絞った議論を行なった。

特に問題となったのは、インチョン戦略では首都におけるアクセスの確保という戦略目標があり、首都以外に暮らす地方の障害者にとっては、不満の残るところであった。そのため、DPIでは首都以外で仕事をして住む障害者の意見が反映されるような質問票にするための意見が出された。また、雇用促進に関する問題は各国においても重要な戦略目標となっており、DPIとしても各国からの事例を集めて有効に機能している戦略を共有しようということになった。

他方、入所施設は、各国においてもいまだ積み残している課題となっている。障害者権利条約で謳われている「地域での自立した生活」に向けて、我々DPIは、地域で暮らしていけるサービス基盤づくりや支援体制の構築を急ぎ、国が施設政策を放棄しても、地域で支えていけるような体制づくりを進めることになった。

6 新役員体制

アジア太平洋ブロックの議長には日本の中西正司が再選され、書記にはパキスタンのシャフィク・ウル・ラフマン氏が当選した。シャフィク氏はパキスタンで初めてのILセンターを設立するとともに、ネパール、フィリピン、モンゴル、ミャンマーなど途上国のILリーダーにも信望の厚い若手リーダーであるので、この体制でアジア各国にさらにIL運動を強化していく基盤づくりができたことは喜ばしいことである。

財務担当役員には韓国のキム・デソン氏が選ばれた。韓国DPIとDPOユナイテッドの議長を兼任しており、韓国での権利条約の推進母体となっているだけではなく、韓国政府からの支援を得て、アジア各国の障害者リーダーの研修や会議開催費用などについても資金源を確保しているので、今後のDPIの若手リーダー育成についても新たな財政環境が整う。新役員体制は、このように強力な布陣となった。

7 東京宣言

会議の最終日には、これからの活動目標と理念を示した東京宣言が採択された。DPIアジア太平洋ブロックはこの活動目標に沿って、当事者自身による強力なネットワークのもとに、今後4年間、さらなる躍進を遂げていくことになるであろう。

東京宣言

第16回DPIアジア太平洋ブロック総会

2016年5月23―24日、東京

私たち、2016年5月23日から24日まで、DPIアジア太平洋とDPI日本会議の共催により、東京の戸山サンライズにて開催された第16回DPIアジア太平洋ブロック総会における14カ国の障害者団体の代表者は、

日本の障害者コミュニティによる、この会議の開催へ向けた多大なる尽力に対して深く感謝の意を表し、

DPIアジア太平洋ブロック名誉議長、日本国外務省、アメリカ国務省、リハビリテーション・インターナショナル、DPI世界会議からの代表者らによる友好と結束の意の込められたメッセージへの感謝を表し、

DPIアジア太平洋の結束、ガバナンス、透明性、持続可能性が重要であると認識し、

アジア太平洋地域の障害者の「権利を実現する」ため、持続的な開発目標(SDGs)を、障害者権利条約とインチョン戦略と調和させることが重要であることを認識し、

アジア太平洋障害者の十年の中間年評価として2017年に中国政府による開催が提案されているESCAPハイレベル政府間会議に感謝を表し、

権利条約成立から10年の時点で、本地域において29カ国が本条約を批准したことを祝福し、

ここに全会一致で以下の文章を宣言する:

1.
権利条約や持続可能な開発目標に即して、障害者の権利を促進、保護するすべての段階において、障害者団体の中心的、積極的役割が保障されるべきである。

2.
次の5年間で、より多くのDPIアジア太平洋加盟団体や他の障害者団体が、ESCAPのアジア太平洋障害者の十年のワーキンググループを含むこの地域の全ての会議への出席を推奨されるべきである。

3.
全ての政府、国連機関、開発パートナー、国際NPOは、障害者団体と相互関係を結び、権利条約の批准を加速させるために、協調して取り組むという責任を果たすべきである。

4.
政府は、女子や女性障害者団体を含む障害者団体の能力構築と持続可能性のために、十分な予算を供給、配分すべきである。

5.
ESCAPの加盟国は、アジア太平洋障害者の十年の優先事項として、障害者権利条約を批准すべきである。その批准と実施の過程において、差別禁止法の成立や人権機関の設立を含め、国内法と権利条約とを調和させるべきである。

6.
アジア太平洋地域の加盟国は、インチョン戦略の完全実施に向け、この会議の出席者が懸念する事がらをよく検討すべきであり、

7.
DPIアジア太平洋は、その持続可能性を高めるため、ガバナンス、透明性、協調の必要性を呼びかける必要がある。

8.
インチョン戦略の下に設立予定のアジア太平洋多提供者信託基金は、アジア太平洋障害者の十年の実施を推進する障害者団体の地域内、小地域での活動にまでその支援の範囲を広げるべきである。

9.
我々は、DPIバングラデシュ主催により2018年に開催が予定される第17回DPIアジア太平洋総会で再び集まるものとする。

以上

(なかにししょうじ DPIアジア太平洋議長)