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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年8月号

列島縦断ネットワーキング【埼玉】

精神障がいを抱えた親とその「子ども」を応援します
~ぷるすあるはの活動

北野陽子

『ぷるすあるは』は、精神科の看護師:細尾ちあき(以下チアキ・すべての絵を担当)と、医師:北野陽子を中心に、絵本やウェブサイトなどの心理教育ツールの制作と啓発活動を行なっている団体です。活動のミッションは、精神障がいを抱えた親とその子どもに安心と希望を届けることです。

きっかけは手づくりの紙芝居

看護師と医師で絵本づくりというユニークな活動のきっかけは、2人の前職の精神保健福祉センターで紙芝居を作ったことです。子どものグループの導入で使うために、温かい素材を作れないだろうかと、他のスタッフと試行錯誤しながら生み出した作品でした。子どもたちが真剣に聞いてくれた姿が印象に残っています。そして、思いがけず大人にも反響がありました。「子どもの気持ちを体感できた」「子どもに関わるときの雰囲気が分かった」「絵がとてもいい」――難しいことばではなくて、心に触れる素材。こんな方法があったのか!という発見でした。

病気を抱えた親の「子ども」が主人公なのは、必要だけどこれまでなかったテーマだったから。臨床経験と、チアキ自身もかつて、落ち着かない家庭で育った体験があります。(自分は、子どものときには誰にも相談できなかったけど)「だれかに話をしたらちょっぴりラクになれるかも」「ひとりじゃないよ」というメッセージを込めました。

7冊の絵本と情報サイト

2012年に活動を始めてからこれまでに、7冊の絵本をゆまに書房から刊行しました(写真1)。家族のこころの病気を子どもに伝える絵本シリーズは1.うつ病編、2・3.統合失調症・前後編、4.アルコール依存症編の4冊。子どもの気持ちを知る絵本シリーズは、親の精神障がいに限らず、何らかのしんどさを抱えた子どもが主人公で、1.不登校編、2.家庭内不和編、3.発達凸凹・感覚過敏編の3冊。いずれも、子どもの視点の物語で、後半には解説がつきます。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。

2015年には、NPO法人を設立し、こころの病気を抱えた親と子どものためのサイト『子ども情報ステーション』を開設しました。子どもへのメッセージや具体的な日々の工夫のページ。周りの大人の方へ向けた子どもへの関わりのヒント。病気や障がいについてイラストで学べるページ。印刷用の素材集のページなどで構成。開設10か月で15万人を超える訪問者があり、ニーズの高さを感じています。

「子ども」への支援はほとんど取り組まれてこなかった

成人した精神障がいの親と暮らした経験をもつ子どもの調査1)で、子どもたちは〈何が起こっているのか分からない不安を抱え、「○○してもらえないのは私のせい?」と自分を責めたりしていた。親の障がいのことを知りたいと思っていたし、子どもの力ではどうすることもできない親の症状を、誰かが医療に繋(つな)げてほしいと願っていた〉ことが指摘されています。

家族支援というと、その対象は親やパートナーが想定されていることがほとんどで、子ども支援は取り残された領域でした。近年、体験記の発表、前述のインタビュー調査研究、(大人になった)子どもの集いの広がりなど、少しずつ関心と支援が増えてきました2)

今、これから―保健室から子どもと親の応援を

現在の活動の2本柱は絵本と情報サイト。そして、講演活動、他機関と恊働でのリーフレットや絵本の制作など、少しずつ活動の幅が広がっています。

2016年の新しい試みとして、寄付を募って絵本を学校へ寄贈する『絵本で届ける保健室あんしんプロジェクト』を始めました。子どもが必ず在籍している学校で、保健室をひとつの拠点に子どもと家族の応援を広げられたら心強いと思いました。3月はうつ病編(110冊を届けました)、7月は統合失調症編、さらに順次行なっていきます。

情報サイトの拡充は継続課題です。当事者や支援者、一人ひとりの声を丁寧に拾い、その経験を発信・シェアすることにも取り組みます。長期的には、子どもの実態調査と活動の効果判定、そして、団体の基盤強化も必要不可欠な課題です。

おわりに

6月28日~7月3日まで、初めての個展『子どものきもち絵本原画展』を東京都台東区谷中で開催しました。言葉にならない子どものいろいろな想いを、表情と背景の色にのせて(写真2)。300人を超える方にお越しいただき、絵の持つチカラを改めて感じました。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真2はウェブには掲載しておりません。

ひとりぼっちに感じたり、ぐるぐると出口のないような狭い世界に思えても、広い世界がまっているよ!(写真3)
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真3はウェブには掲載しておりません。

ぷるすあるはという名前は、+αをもとにした造語で、少しの想像力で、日々の生活にちょっぴりhappyを、という願いを込めています。「必要だけど世の中になかった」ものをつくり、届けるチャレンジを、これからも続けていきたいと思います。

(きたのようこ NPO法人ぷるすあるは代表)


※ぷるすあるはのHP https://pulusualuha.or.jp

※子ども情報ステーション[精神障がいやこころの不調、発達凸凹を抱えた親とその子どもの応援サイト] http://kidsinfost.net

※いっしょに活動を広げてくださる『キッズパワーサポーター』を募集中。登録はウェブサイトから。

※絵本の著者としては「プルスアルハ」で活動。絵本は一般書店やAmazonなどのオンライン書店でも注文できます。

1)精神障がいを抱える親と暮らす子どもたちに必要な支援とは/土田幸子/親&子どものサポートを考える会/SYNODOS 2014.08.05

2)精神障がい者の親&子の支援マップ