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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年9月号

医療少年院における支援の現状と課題

小坂育人

少年院は、非行のある少年のうち、家庭裁判所の決定により、保護処分として送致された少年を収容する法務省所管の施設である。少年院はいわゆる「罰」を与える施設ではなく、矯正教育等を行う施設である。我が国には、現在52庁(分院を含む。)の少年院があるが、「医療少年院」と名が付くのは、「関東医療少年院」、「神奈川医療少年院」、「京都医療少年院」、「宮川医療少年院」の4庁のみである。

かつての少年院法には、その種類として「医療少年院」が規定されていたが、平成27年6月1日に施行された少年院法においては、「心身に著しい障害がある」者を収容する「第三種少年院」として規定されている。現行法下では、施設の呼称を除いて、「医療少年院」という色分けはなくなっているわけだが、今回は、読者の皆様がイメージしやすいように、「医療少年院」と表記する。関東医療少年院と京都医療少年院は、専門的な医療が必要な者を収容する少年院であり、同時に医療施設である。一方、神奈川医療少年院と宮川医療少年院は、知的障害、情緒障害や発達障害がある者やこれらの疑いのある者を収容している。イメージとしては、特別支援学校の少年院版といったところである。

私は現在、関東医療少年院で勤務しているが、以前、神奈川医療少年院での勤務経験があり、どちらの少年院でも在院者の社会復帰を支援する部署、つまり少年院の出口支援(=社会への入口支援)に携わった経験があるので、投稿のお話を聞き、ぜひにと手を上げさせていただいた。今回は、関東医療少年院での支援について述べさせていただく。

「少年院」と聞くと、悪いイメージを持たれると思う。ニュースで流れる少年事件は、目や耳を覆いたくなるものばかりで、そうした者たちが、少年院に収容されていると考えると、「悪い」を通り越し、蓋をして社会や自分自身の意識から切り離し、イメージすらしたくないというところに行き着くのではないだろうか。しかし、実際、少年院に収容されている者の非行事実を見ると、最も多いのは窃盗であり、ニュース等で報道される、いわゆる重大事犯は下位となっている。社会の耳目を集めた事件を起こして少年院送致となった者というのは、実は極めて少数である。

また、家庭裁判所の保護処分の決定には、成人の刑事処分のように量刑といった概念がなく、「要保護性」と言われる、その者の健全な育成にとってどのような処遇が必要なのかという概念が存在する。極端な例で言えば、食事もろくに与えられない家庭に育ち、空腹に耐えかねて、たった1回、スーパーで食品を窃盗したという事件の場合であっても、元の家庭に帰れば同じことの繰り返しになるので、少年院に収容して職業指導を実施し、自立した生活を築く力を身に付けさせようという発想が、少年事件の場合にはあり得るのである。

この例のように、いわゆる社会的弱者といわれる者も、その要保護性の高さゆえに少年院送致となっている場合がある。関東医療少年院(以下「当院」と記す。)には、「心身に著しい障害がある」者が収容されているわけだが、たとえば「骨折」のように純粋な身体疾患だけの者は少なく、何らかの精神疾患等を抱えている者がほとんどである。知的障害、自閉症スペクトラム障害、統合失調症等々、精神科医の診察・治療が必要な程度の病状の者が収容されている。

障害や病気が非行に直結するという意味ではないが、非行と病状とは、切り離せない場合が多い。各々の障害や病気に適切な関わりや治療がなされてこなかったことから、日常生活に破たんを来し、混乱して思わぬ行為に至った者。幻聴が原因で事件に至ってしまった者。こうした不幸な結果に至ってしまったという場合が多いので、当院において適切な医療が施されるほか、生活指導や職業指導、体育指導、教科指導、特別活動指導として行事や社会貢献活動等も実施している。

少年院の収容期間については、成人のような「懲役○年」という期限がない。家庭裁判所から収容期間について処遇勧告が付される場合もあるが、大多数の者は訓令で定められた2年以内という標準期間があり、さらに依命通達で、医療少年院においては12月を基準期間として教育計画が立てられる。院内では、3・2・1級の段階を設け、成績評価によって、向上又は低下することになっている。院内での生活には、当然ながらルール(遵守事項)があり、これに反する行為があった場合などは、処遇段階の向上が遅れることもあるので、基準期間を超えることもある。そして最高段階である1級の者について、本人を引き受ける者(引受人)と住む場所(帰住地)があり、その上で保護観察所が生活環境調整の結果、帰住してよろしいという意見に至ってはじめて、少年院仮退院に向けた手続が開始される。

仮退院とは、保護処分の流れとして、少年院からは退院するものの、その後は社会内処遇である保護観察(原則20歳まで)に付されることとなるので、「仮」の文字が付いているものである。

仮退院に向けての動きについて、視点を変えて見ると、少年院で非行や自身の病状に向き合い、社会生活への意欲を強く持てていたとしても、引受人が定まらないといった場合は仮退院ができず、少年院で過ごすこととなる。衣食住の環境は整備されているとは言え、少年院という場所は、いろいろな権利が制限される特殊な環境である。社会で本人をしっかりと指導・監督してくれる引受人や支援者が受入態勢を整えるということは当然必要であるが、何事にも100%はないので、受入態勢が整うことを待つあまり、少年院在院期間が延びてしまうということは、単純に本人にとって不利益となる。

ここは意見が分かれるポイントでもあるが、大別すると、「長い人生の中の数年を不利益な環境で過ごすことになったとしても、受入態勢を整えてから社会へ帰す方が、その後の人生を考えれば重要である」という考え方、「受入態勢を整えるという本人の責によらない理由によって、貴重な十代の時間を、不利益な環境下で生活させることは避けるべきである」という考え方がある。どちらも正しい意見であるが、本人の状況や再非行のリスクを個別的に鑑みて調整を進めていくべきだと思うので、一概にどちらの意見に基づいて調整しているということは言えない。しかしながら、先に述べた「重大事犯の在院者は少数である」ということからすれば、多くの場合は後者の意見が当てはまるということは言えよう。

当院から仮退院していく者の多くは、仮退院後も病院への通院又は入院、福祉サービスの利用が必要となる。障害受容や病状の理解を進めることはもとより、療育手帳や精神障害者保健福祉手帳の取得手続も、少年院在院中に着手できる社会復帰支援のひとつである。当院では、手帳取得の意義や手帳を取得することで得られる物事を説明することによって、本人が多少なりとも生きやすさを手にすることができ、「それならば手帳を取得したい」という意思が見られてはじめて、手続に着手する。

こうして医療や福祉について、言葉を尽くして本人に説明をしていくことは、医師や看護師といった医療スタッフはもちろん、非常勤である精神保健福祉士が行うことが多い。何をどこまで、どのように話し調整を進めているのかを、教育・支援を行う側と情報共有して、本人にとってより良い支援とは何かを考え、「教育・支援」と「医療」と立場は異なっていても、すべての職員が歩調を合わせて本人と向き合うようにしている。と、述べると非常に聞こえはよいが、実際に歩調を合わせるということは、簡単なことではない。

日々感じるのは、一人の人を「どう治療していくのか」という側面、「どのような社会生活が適しているのか」という側面、「いかに再非行しないようにするのか」という側面、それぞれで見たときに、処遇や支援の方針に差異が出るということである。各々主張しているのは、その側面から見れば最善のものであるので、なかなか折り合いがつかないのである。ひとつの少年院の中でも歩調を合わせるのは困難である上に、保護観察所や地域生活定着支援センター、社会の医療機関、福祉行政や事業所等と協調していくということは、これまた非常に困難である。

しかし、「その人が生きていく場」を準備するということが支援の答えであることにぶれはなく、そこに至る道中で、関わる人々が情報を共有するということもまた絶対に必要であるということも確かである。私は、この2点を毎朝肝に命じ、異なる立場や見解に出くわすことを「協働」の楽しさとして感じられるように自身を磨きつつ、支援に当たっているつもりである。いつかどこかで、この文章をお読みいただいた方々と笑顔でお話しできるように、研さんを積みたい。

(こさかいくと 関東医療少年院専門官)