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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年9月号

知り隊おしえ隊

災害時の便利グッズ
~身近な製品も活用しよう

渡辺明

「備えあれば憂いなし」とは言い古された言葉です。しかし、災害については、あまり想定したくないことのためか、普段から考えている人は少ないように思います。

私どもでも過去に2度、防災セットを販売しましたが、販売当初や大災害の直後には問い合わせがあるものの、普段はあまり需要がありません。また、市販されている防災セットの中には、非常食から、軍手、ロープまでさまざまなものが入っているフルセットもありますが、いざという時に、大きくて持って行けないものもあるのではないでしょうか?

防災用品には、すぐに持って逃げるものと、自宅に備蓄しておくものは分けておいて、緊急性、必要性によって分けて活用した方がよいように思います。

今回はその視点から2つに分け、また現在、私どもで扱っている製品と身近にある製品をご紹介します。

1 すぐに持って逃げるもの

地震や津波、水害等ですぐに逃げなければならない場面では、必要最小限のものを持って逃げることが重要だと思います。ここでご紹介するものは、すぐに持ち出せるカバン、あるいはリュックに入れておくことをお勧めします。

なお、最近では、大きな災害の後に支援者のサポートがありますので、それを踏まえてご案内します。

1番目に、自身を示すもの(コピー)と家族などの連絡先を書いた書類です。自身が連絡することをはじめ、避難所に家族がバラバラに避難した際に、本人に代わって支援者が探す時に有効です。

避難所へのルートは、事前に家族や友達などと一緒に、複数個所を確認しておいた方がよいと思います。

2番目に必要なのが、薬の情報です。もし余分に持てるようであれば、薬そのものを入れておくこともできますが、必要分のみだったり、保存が難しい薬などの場合には、支援者や周りの人に、どの薬が必要かが分かるように、その薬の名前が書かれた書類を持ち出す袋の中に入れておいてください。

また、飲み薬の場合、水を入れるための折り畳み式のコップや、350ミリリットルぐらいの小さなペットボトルを用意するのもよいでしょう。

3番目として、障害のある方の場合、障害を示すものがあった方がよいかもしれません。視覚障害の方の場合、歩行を助け、視覚障害者のシンボルである白杖が代表となります。そのほか、最近では障害を示すベスト(チョッキ)やバンダナがあり、自治体によってはそれを配布しているところもあります。

私どもでは「視覚障害者用防災メッシュベスト」(1,650円)というものを販売しています。これは服の上から着ることができるベストで、色は蛍光色のグリーン。表面には「目が不自由です 手を貸して下さい」とあり、背面には英語で「BLIND Please Help」と書かれています。

しかし、障害を負って日の浅い方や軽度の障害の方の場合、障害者であることを周りに知らせることに抵抗のある方も多いと思います。そのため、必須とは言い難いのですが、避難所では、提示が必要な場面もあるように聞いています。

たとえば、視覚障害や聴覚障害の方で食料の配布の表示や声掛けが分からずに、配布の列に並べなかった。列に並んだ人の分しか配布しないために、食料を受け取れなかったということが東北でも熊本でもあったと聞きました。そのような時にも、ベストがあると周りのサポートが受けやすいと思います。

4番目には、筆記用具をはじめとする情報の記録や入手ができるものです。視覚障害の方であれば、点字器や書きなれた太マジックなど。メモを声で録音している方は、電池対応のICレコーダーなども必要な道具となります。

そして、情報の入手が可能なもの、防災ラジオ等があるとよいと思います。私どもでは、「非常用充電ラジオ」(3,520円)を取り扱っています。このラジオは電池のほか、ソーラー充電も可能です。携帯電話への充電もでき、熊本地震の時にも被災地で活用されました。

その他、ティッシュペーパー、ウエットティッシュなどは食事等でも役立ちます。家族構成によっては、乳幼児向け、高齢者向けの食べやすい食料や長期保存の食料、菓子類。そして生理用品等を揃えておくとよいと思います。

2 自宅に備蓄しておくもの

障害のある方の場合、一般の避難所では、なかなか生活が難しく、特に、視覚障害の方の場合には、トイレに苦労したと言われています。見えない、見えづらい状態では、トイレに行くまでの歩行環境をはじめ、通常と異なるトイレの状態の確認が難しいためです。他の障害の方も、避難所での生活は難しく、自宅に戻ってきた方も多いと伺っています。

災害の状況、福祉避難所の設営状況などにもよりますが、被災直後は、自宅が壊れていなければ、住み慣れた場所で過ごすことがよいようです。

さて、災害後の自宅での生活の場合、ライフラインが途絶えてしまっている場合もあります。普段に使っているものでも、食卓に置くカセットコンロなどは、非常用に使えるものと思います(ボンベの備蓄は必要です)。

防災用品の中には、長期保存の食料などがあります。実際、私どもでも業界大手で味の定評も高い尾西食品のアルファ米をセットにした「非常用ごはん アルファ米(4食セット)」(1,955円)を販売しています(消費期限を点字表記しています)。

しかし、長期保存のものを非常用として用意すると安心してしまって、いざという時に期限が切れていることにもなりかねません。これは懐中電灯やラジオなどの電池でも同様です。

そこで、非常用としたバッグや保管する箱は、半年ごと(たとえば、9月1日と3月11日)にチェックして交換することをお勧めします。

食料は非常用でなくても、半年ぐらいの保存ができるレトルト食品(親子丼、白米、おかゆなど)やお菓子(クラッカー、チョコレートなど)は、スーパーやコンビニで手軽に安く買うことができます。

普段、食べ慣れた食料であれば、苦も無く半年ごとに食べて交換することができます。もし、非常時に必要となった場合でも、食べ慣れない非常食よりも「日常」が感じられ、非常時のストレスも軽減されると思います。

また、私どもで扱っている非常用のグッズの中に「缶詰・レトルト食品加熱パック ホットイート1」(500円)という製品があります。これは、発熱剤が付属した厚手のビニール袋でこの袋に水を入れると発熱し、20分ほどかかりますが、レトルト食品や缶コーヒーを温めてくれます。水は食材に直接触れるものではありませんので、川の水などでも使用可能です(当然、お風呂の残り湯も活用できます)。アウトドアでも、非常の際にもご利用いただける便利グッズです。追加の発熱剤は、3個入りで800円です。

もうひとつ、ライフラインが途絶えた時に必要なものとしては、やはりトイレです。水洗トイレが流れなくなった時にもトイレは必要です。「非常用トイレ ケアバッグ(便器用)」(2,810円)という製品は、ごみ袋のようなビニール袋が20枚、ロール状になっているもので、袋を広げて便器にかけ、吸着剤を置いて用を足します。用が済んだら紐(ひも)を引いて閉じる仕組みです。

3 防災用品とともに大切なこと

以上、今回は防災グッズを紹介してきましたが、障害のある方の防災で重要なこと、それは支援者につながりやすくすることです。

冒頭でも書きましたように、大きな災害の場合、安否確認や必要なサポートをするボランティアスタッフ(視覚障害者の場合には、日本盲人福祉委員会がスタッフを派遣)が災害現場に入るようになりました。

その際には、名簿をもとにご自宅や避難所に伺いますが、名簿に名前がないと安否確認をすることができず、被災して困っていることへの相談やサポート(災害で白杖や音声時計など紛失した方へ配布)もできません。

障害者の方はぜひ、お住まいの自治体に「避難行動要支援者名簿」の登録をしていただくことをお勧めします。万が一の災害の時の命綱となります。そして、緊急時に一緒に逃げてもらえる近隣の人たちとのつながりも大切と思います。

以上、ここ最近の災害を踏まえての障害者の方に必要な防災情報のポイントを記しました。災害が起こらず、情報が役立たないことが望ましいのですが…。

(わたなべあきら 日本点字図書館用具事業課)


【参考】

・紹介した防災グッズ一覧 http://yougu.nittento.or.jp/category393_391.html

・避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針 http://www.bousai.go.jp/taisaku/hisaisyagyousei/youengosya/index.html

・避難所における良好な生活環境の確保に関する検討会(第2回) 資料 http://www.bousai.go.jp/taisaku/hinanjo/h24_kentoukai/2/index.html

・災害対策情報(日本ロービジョン学会) https://www.jslrr.org/information/disaster