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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年10月号

アートでつながる
―発達障害を知る展覧会―

霜田恵

「つながる・つなげる」

(福)青い鳥は設立50周年の記念事業の一つとして、平成28年8月17日(水)~21日(日)まで、横浜市民ギャラリー(神奈川県横浜市西区宮崎町26-1)で、「ひろげよう ぼくのつばさ わたしのつばさ展 2016」を開催した(写真1)。子ども一人ひとりが未来に向かって羽ばたいてほしいとの願いを込めてつけた展覧会名である。作品総数は、384点(内訳・平面186点、ダンボール箱アート30点(写真2)、立体6点、展覧会案内役を務めた画家・濱口瑛士(はまぐちえいし)氏作品27点、インスタレーション80点、大型板絵3点、マッチ箱52点)。5日間の来場者は、1,306人であった。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1・2はウェブには掲載しておりません。

会期中、色彩心理研究家・末永蒼生(すえながたみお)氏によるギャラリートーク「見える子どもの心―子どもの心を育てる話」を開催。あわせて「子どもの成長がわかるカルテ」という子どもの制作した作品から子どもの心を読み解くアートワーク(アートセラピスト)やピンホールカメラの工作(映像作家・播本和宜(はりもとかずのぶ)氏)、ダンボールを素材に不思議な生き物を作って飾る「アート動物園」(造形作家・玉田多紀(たまだたき)氏)などのワークショップを開催した。

ギャラリーの1階は作品の展示、地下1階は毎日さまざまな企画を展開した。作品を通して制作者が作品に向き合った「時間」と、来館者がその作品を鑑賞し、企画に参加することで同じ「空間」を共有した。まさに、この共有こそが今回の展覧会のコンセプトである「つながる・つなげる」の実現なのである。

この展覧会は、普段「小児療育相談センター」の館内に展示されている50年前に制作された3枚の「障害者と健常者がともに描いた大きな絵」(写真3)を多くの人に見てもらいたいという思いから企画された。180cm×180cmの大型の板に描かれ、それぞれに「椰子の木の下」「夢の中で」「宇宙ロケット」というタイトルがつけられている。これらの絵に込められた当時の子どもたちの思いは、50年の月日が流れても少しも色あせることなく見る人の心を幸せにする。障害の有無にかかわらず、一筆一筆夢と希望に満ちて描かれた絵は純粋で、見る人の心を打つ。しかし、この3枚は、一般の人の目に触れることがないため、50周年を機にあらためて、絵の魅力を伝えたかったのである。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真3はウェブには掲載しておりません。

青い鳥は、全国初の療育機関である「小児療育相談センター」(写真4)を中心に、発達障害を含む障害児・者及び家族の充実した生活実現に寄与する診療相談や子育て支援にかかわる事業を展開している。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真4はウェブには掲載しておりません。

昭和41年(1966年)、障害児(サリドマイド等)の親の団体「子どもたちの未来をひらく会」からの寄付をもとに『財団法人神奈川県児童医療福祉財団』としてスタートする。まもなく、障害児とその家族のための全国初の通園施設「青い鳥愛児園」と前述の「小児療育相談センター」を開設した。さらにその2年前の昭和39年には、フィンランドで寄付金付きのマッチがあるということから、日本でもマッチを売り、その募金をもとに子ども専門の病院を作ろうという「青い鳥マッチ運動」が起きていた。学生たちが中心となり、全国キャラバン隊を組織しての運動。山下清、やなせたかし、馬場のぼるなど80数人の画家や漫画家、イラストレーターらが400点を超える絵を描き、これがマッチ箱の絵(写真5)となった。残念ながら、マッチの売り上げでは病院建設には至らなかったが、この運動は全国的な反響を呼び、大きな力となり、紆余曲折はあったが「青い鳥愛児園」と「小児療育相談センター」につながった経緯を持つ。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真5はウェブには掲載しておりません。

原画は焼失してしまったが、幸いにもマッチ箱本体が80数個残っている。50余年の経過で古びたり、色あせたり、また数回使ったものは燐(りん)のにおいを残すが、それが逆に当時の運動の熱い思いを想起させる。

目に見える「インクルージョン」

「つながる・つなげる」をコンセプトに目指したものは、「インクルージョン」。共生社会を目指す一つとしてまず、作品を通じて障害者の心を理解してもらった。直接感じることで共鳴・共感が生まれる。色・形・線など思いを表すものはたくさんある。

今回の展示では、作品の説明的働きを示すキャプションに書いたものは、名前と題名だけである。その中にも名前を出すことに抵抗を感じ、題名のみを希望した出品者もいた。青い鳥のネットワークを基本に作品を募集したため、ぜひ、見てもらいたいと願った作品が集まり、作品を分け隔てなく展示することで一つひとつに向き合ってもらった。

日本の教育は、学齢での達成目標があるため、子どもの作品を見る大人は年齢や学年を評価の基準にすることがある。これまでの多くの子ども作品展は、年齢や学年、50音順で整理され、壁紙のごとくずらっと並べられ、一つひとつを鑑賞することより、大人の理解しやすい作品や、年齢より技術的に優れたものに目が奪われてきた。発達にばらつきの大きい発達障害児・者にとって、この学齢の達成目標は一つの壁になっている。

今回の展覧会は、公募展を基本としたが、企画展と同じようにセクションパネルを作成し、展示室に小テーマを設けて作品をまとめる工夫をした。そのことにより、技術ではなく、モチーフつまり描かれた内容に対するまなざしや心の色模様を鑑賞してもらった。また、年少の子どもや車いすを利用した人にも鑑賞しやすいように作品の展示位置を下げ、見やすさも重視した。上段に展示された作品と一緒に写真を撮った(写真6)子どもはうれしそうにしていた。家族には素敵な記録になる。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真6はウェブには掲載しておりません。

つなげるツール

来館者と作品の「つながり役」として、中学生・高校生のボランティアを起用した。現在、施設はかなりバリアフリーが進んでいるが、ギャラリーは作品の鑑賞を優先しているため、作品に影響が及ばないように館内の表示が子ども、高齢者、障害者に親切とは言えない。子どもの作品展は親や祖父母、先生など多くの来館者があるので、社会経験の少ない中学生・高校生にとってもボランティア活動を通じて、他世代と触れ合う学びの場ともなる。そして、そういう多感な時代に障害者の作品や障害のある来館者と触れ合うことは貴重な体験である。知ることが理解の第一歩であるからだ。

発達障害を公表している、中学生の画家の濱口瑛士君に、展覧会をイメージした作品(写真7)の制作や企画・運営の案内役をお願いした。彼は「自らのいじめに苦しんだ経験」をもとにつかんだ「今」を来館者と共有し、同じ状況にある人を励ました。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真7はウェブには掲載しておりません。

共催の神奈川新聞社のマッチ箱コレクションの連載(6/22~8/15まで52回)、告知記事や文化欄での掲載などの協力が、さまざまな人への発信につながり、さらに地元の企業協賛や協力がいただけたことに心から感謝する次第である。

(しもだめぐみ 社会福祉法人青い鳥経営企画本部)