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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年10月号

ワールドナウ

第6回アフリカ開発会議のためのセミナー開催

中西由起子・田丸敬一朗

TICAD(アフリカ開発会議)と障害

TICAD(アフリカ開発会議)は、1993年から日本政府が主導し、国連、国連開発計画(UNDP)、アフリカ連合委員会(AUC)及び世界銀行と共同で開催してきた。アフリカの「オーナーシップ(自助努力)」と国際社会の「パートナーシップ(協調)」の2つの基本原則に基づいて、TICADはアフリカの開発の推進のための重要な国際的枠組みとなっている。

第1回のTICADの東京宣言では、政治・経済改革や経済開発が中心であり、1998年の第2回の東京行動計画では、1.教育、保健・人口、貧困層支援等の社会開発、2.民間セクター・工業・農業開発、対外債務問題等の経済開発、3.良い統治、紛争予防と紛争後の開発、の3分野が取り上げられた。2003年の第3回では、HIV/AIDSと感染症、水、人的資源開発、ICTなどの分野における「人間中心の開発」が重点項目の一つとなって、経済開発だけでなく徐々に社会開発も重視されるようになってきた。

しかし、第4回の会議で採択された横浜行動計画では、MDGs(ミレニアム開発目標)の達成が含まれたものの、やはり障害の問題が取り上げられることはなかった。そのため、2013年6月に横浜で開催された第5回アフリカ開発会議では、DPI日本会議ではブースを開設し、さらに「アフリカ・日本の障害に関する対話」と題するサイド・イベントを開催し、障害問題をアピールした。「アフリカ障害者の10年」事務局のA・K・デュベ事務局長と、ちょうど実施期間中であった国際協力機構(JICA)の研修員受入事業として実施したアフリカの当事者研修生による討議の後、TICAD5実施計画への障害者の参加を提言する「横浜宣言」を採択した。

TICAD6への提言

第6回TICADは、2016年8月に初めてアフリカで開催された。8月27・28日に、ケニアのナイロビで開催されたアフリカ開発会議(TICAD6)に先立って、DPI日本会議も何らかの形で参加しようと、本年も7月に実施した「アフリカ地域 障害者の自立生活とメインストリーミング」研修の中でTICADを取り上げた。

7月23日に開催した「アフリカ・日本交流セミナー―TICAD6における市民社会および障害者の貢献」では、副題にもあるとおり、アフリカの開発戦略に障害者団体を含む市民社会の声を反映させていくため、アフリカ9か国(南アフリカ、モザンビーク、ナミビア、ジンバブエ、スワジランド、スーダン、エジプト、レソト、ボツワナ)からの障害者リーダーと障害分野の行政官の計15人の研修生が討議を行なった。

第1部は、TICAD6の意義と題し、TICAD6の目的について、JICAアフリカ部TICAD推進室の小林知樹氏がJICAの貢献を中心に、今回の会議の意義に関して説明を行なった。その後、市民社会 for TICADの稲葉雅紀氏がTICADへの市民社会の貢献について語った。

稲葉氏によると、初期は政府間の会議という意味合いが強かったTICADは、市民社会が積極的に関わるようになって変わっていった。TICAD6開催に向けた閣僚会議では、アフリカ側の代表は女性ばかり、日本側の代表は男性ばかりで、日本での女性の参画が進んでいないことの象徴的なシーンがあったことも紹介され、同氏は日本もアフリカから多くのことを学ぶことができると述べた。

第2部の障害分野からTICAD6への提言では、南アフリカとケニアをテレビ会議システムでつなぎ、TICADでの障害問題の重要性について対話を行なった。

アフリカ障害同盟(旧アフリカ障害者の10年事務局)の最高運営責任者A・K・デュベ氏は、第2次アフリカ障害者の10年(2010―2019)では障害者権利条約が推進され、さらに2018年には、アフリカの人権に関する議定書がアフリカ諸国の首脳によって採択予定であることなど、アフリカでの障害分野の発展を紹介した。そして、2030年までの開発アジェンダであるSDGs(持続可能な開発目標)に障害が含まれていることから、この指標を達成するため、日本とアフリカの協力が必要であると述べた。また、日本とアフリカにおけるすべての事業において、障害をメインストリーム化させることと、障害者の自立生活の推進の重要性も訴えた。

2011年度のケニアからの研修修了生でもあり、TICAD6への参加者に選ばれたヒューマンケア・センター代表のマイク・キロンゾ氏は、アフリカの障害者が直面している大きな課題として、障害によってさまざまなアクセシビリティに関する課題があること、国や地方自治体における政策決定・実施のプロセスへの障害者の参加の促進や、権利擁護や啓発を活発に行なっていくことが重要であると述べた。また、障害者権利条約の実施に関しては、障害者の教育を受ける権利を保障することと、地域における自立生活の推進を特に強調するべきであると訴えた。

質疑・応答では、参加者も交えて、アフリカ諸国では障害の問題が優先事項であるという認識が高まっていること、限られた開発資金の中でもきちんと障害の問題を位置づけることが必要であること、アフリカの障害者に関するデータの不足、開発に関する資金計画の重要性等の議論が行われた。

セミナーの最後には、研修員による声明(別掲)が読み上げられた。

【声明】

私たちJICA課題別研修「アフリカ地域 障害者の自立生活とメインストリーミング」の研修員は、アフリカ開発会議などの開発プログラムによるアフリカの障害者のエンパワメントへの貢献に対し心より感謝する。我々、ボツワナ、エジプト、レソト、モザンビーク、ナミビア、南アフリカ、スーダン、スワジランド、ジンバブエの障害当事者と行政官は、国連の障害者権利条約と持続可能な開発目標(SDGs)に基づき、第6回アフリカ開発会議において、障害のインクルージョンについて、以下のような提言を行う。

・アフリカ開発会議は、SDGsのテーマ「誰も取り残されない」にあるように、障害者にとってインクルーシブな社会の重要性の意識を向上させるべきである。

・参加国は、障害者権利条約の9条、21条、27条等にあるように、道路、建物、交通、情報のアクセシビリティや、トレーニング、雇用、サービスへの機会の向上により、障害をもつ女性や子どもを含む障害者に自立生活を許す、社会に寄与している環境を構築すべきである。

・参加国は、障害者権利条約19条にあるように、アフリカにおける自立生活センターの設立・運営の支援に注力すべきである。

なお、キロンゾ氏は8月27日のJICAのサイド・イベントに出席し、声明に基づいて障害者として意見発表を行なった。

DPI日本会議のアフリカの発展への貢献

DPI日本会議は、2002年度の「南部アフリカ地域障害者の地位向上コース」から始まり、現在まで15回、約100人ほどの障害者リーダーに自立生活を中心とする研修を実施してきた。自立生活センターの運営に着手するものが出てきたり、アジア太平洋に比べると進展は決して早くないが、着実な成果がでてきているアフリカ障害者の10年の発展の力となっている。

また、JICA草の根技術協力事業「アクセシブルなまちづくりを通した障害者自立生活センターの能力構築」を今年9月から2019年8月まで実施することになった。これは2013年度から3年間、ヒューマンケア協会が南アフリカで実施した自立生活プロジェクトを引き継いで行われる。2か所の自立生活センターが、移送サービスを実施し、当事者参画によるまちづくりの知見を生かそうとしている。

第7回TICADからは、3年ごとに日本とアフリカで交互に開催するといわれている。南アフリカをモデルとして、アフリカで自立生活運動を進める障害者のエンパワメントの重要性を次回のTICADでは訴えていきたい。

(なかにしゆきこ・たまるけいいちろう DPI日本会議)