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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年11月号

障害のある人の地域生活実態調査

八木橋敏晃

調査の目的

本調査は障害のある人の収入などを中心とした生活実態を浮き彫りにすることを目的として障害者権利条約(以下、権利条約)が批准される前の2012年と、権利条約が批准され、障害者を取り巻く法律も自立支援法から総合支援法へと大きく制度が変わった後の2015年の2回にわたって実施した。

この時期は、障害のある人に関連する制度の改革が集中的に進められた時期だった。

しかし、障害のある人の生活実態を明確にした調査やデータは、これまでほとんど存在していない。生活実態をきちんと把握しないままに制度改革が行われることは、障害のある人が抱えている問題点を解決できない制度になってしまう可能性がある。

そのため、きょうされんでは加盟の事業所(通所・入所)を中心として調査を実施した。また、より多く回答を得ることで、実態をさらに明確にしていくために、日本障害者協議会に加盟の団体や事業所へも協力を仰ぎ、2回とも1万人を超える障害のある人から回答を得た。

2012年の調査から浮き彫りになったこと

  1. 2人に1人は相対的貧困線以下、98.9%がワーキングプアと呼ばれる年収200万円以下
  2. 生活保護の受給率は、障害のない人の6倍以上
  3. 6割弱が親との同居
  4. 低収入ほど社会と遠ざかる
  5. 結婚している人は4%台

これらの結果から、障害のある人の収入実態は極めて厳しい状況に置かれており、本人の我慢や家族への依存によって最低水準の生活を送っていることが浮き彫りとなった。障がいのある人にとってひとり暮らしはまさに「夢の生活」であり、親が80歳代になっても経済的にも依存しながら同居せざるを得ない状況は、「親がいるうちは親が支える」というわが国に昔から根深く残る扶養義務制度によって、親子共に疲弊してしまっている状況が数多く見られた。

調査の結果から求められる改善点

  1. 家族依存の温床となっている扶養義務制度の改正
  2. 障害のない人と同等の暮らしを営める所得保障制度の確立(障害基礎年金制度の拡充を中心に)
  3. 地域での自立した生活を支えるための基盤整備(人的・物的な条件整備)
  4. 障害のある人にもディーセントワークを(労働と福祉の一体的な展開を具体化する社会支援雇用制度の創設)

2015年調査の目的

前回の調査結果で浮き彫りとなった障害のある人の極めて厳しい収入状況や家族に依存せざるを得ない実態が、この間の権利条約の批准に向けた法改正や障害者制度改革によってどのような変化をもたらしたのか、そして前回調査で指摘した改善策が実現しているのかを再度検証すべく、前回調査から3年の時を経て実施した。

2015年調査の結果

前回調査の結果と同様に、障害のある人たちの多くが極めて所得水準が低く、家族に依存せざるを得ない実態に全く変化は見られなかった。(200万円以下:前回調査98.9%、今回調査98.1%)

また、家族への依存においても親との同居の割合が54.5%と半数を超えており、50歳台前半でも34.9%と極めて高い同居割合となっていた。

2回にわたる調査から見えてきた生活実態

2012年の調査では、極めて厳しい収入状況から親に依存しないと生活が成り立たず、それが原因となって結婚や社会への参加も阻害されてしまっている実態が判明した。そして2回目の調査で明らかになった結果も前回の調査とほぼ同じ結果となり、これまでの障害者施策などは生活改善に直接つながったとは言える結果とはならなかった。前回調査で指摘された改善点も一向に取り組みが進んでいないことが、2回目の調査で改めて判明した。

調査活動の影響と効果について

2回にわたる調査の結果を発表した直後、新聞やテレビなどのメディアでその内容が取り上げられ、いずれも大きな反響を呼んだ。それだけ、この調査結果の内容が衝撃的な結果であったとともに、これまで障害のある人の生活実態に関連した調査やデータがなかったことを証明するものであった言える。

調査の重要性と期待すること

政策を進めていくには、まずは実態を知るために調査を行うことは必要不可欠なことであり、それは当然効果が見られたかを検証する上でも同じである。まして、その対象が障害のある人であれば「自分の意志を上手く伝えられない」「外出する機会が少ない」など尚更、ニーズや実態を知る機会は、一般の調査よりも困難を要すると思われる。

これからは政府においても、障害のある人に焦点を当てた積極的な調査活動を行なっていくことが、「障害のある人の生活を改善していく」、または「国連への政府報告で実態を正確に伝えることで問題点や改善点が浮き彫りになる」などの効果をもたらすと考えられる。

(やぎはしとしあき きょうされん政策・調査委員会)