音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年11月号

障害女性の複合差別の実態に関する調査

臼井久実子

調査の経緯と目的

障害のある女性の自立をめざし当事者を中心に活動している「DPI女性障害者ネットワーク」は、2011年に障害のある女性に向けたアンケートと聞き取りによる実態調査を行なった。障害者権利条約第6条「障害のある女性」等を踏まえ、障害者制度改革において障害のある女性の課題が取り上げられるよう働きかけてきた。

その中でたびたび「数字は」「データは」と問われ、そもそも障害者に関わる政府統計に性別集計が乏しい障壁にぶつかった。政策の基礎となる統計が取られていないことは、障害女性の複合差別が放置されてきたこととも切り離せない。公的な統計の充実を提言すると同時に、自ら障害のある女性の困難を可視化しなければと調査協力を呼びかけた。

調査方法

アンケートは、「障害があり、女性であるために生きにくい」と感じた経験について自由記述形式で、聞き取りは、病院で生活している人や、知的障害がある人などのところに出向いた。全国から87人の障害女性の生の声が集まった。聞き取りも結果の分析も障害のある女性の手で行なった。並行した制度調査では、47都道府県の男女共同参画基本計画とDV防止基本計画における、障害女性を対象とする施策を検証した。これらをもとに2012年に「障害のある女性の生活の困難―複合差別実態調査報告書」を発行した。

調査結果

回答のなかで最多は性的被害で、回答者の35%が、何らかの被害を受けていた。被害の40%は、上司、学校や施設、病院の職員、介助者、家族等が加害者であり、障害女性に対して強い力関係にある、日常接する人々だった。被害の訴えが困難、力関係から拒否しにくい、機能障害から逃げにくいなど、加害者に付け込まれる傾向があり、極端な貧困と経済的自立の困難も密接に関わっていた。

病院や在宅で、障害女性の意思とは無関係に、男性によるトイレや入浴介助が慣習となっていることの精神的苦痛とリスクも語られた。

男女共同参画、DV防止の面では、障害のある女性等の複合的な困難について基本計画に記述されていたが、障害女性が実際に利用できる具体的な政策には至っておらず、障害者政策は、複合的な差別、性別による格差の課題認識を欠いていることが明らかになった。

妊娠した障害女性に対して、周囲の人も医療従事者も中絶を勧めることが後を絶たず、性教育も障害者を対象と想定していないなど、旧優生保護法の不良な子孫の出生防止条項は1996年に削除されたが、優生思想に根ざした障害者観が続いていることも浮かびあがった。

調査のインパクト

障害別を越えた包括的な調査は、ほぼ類例がなく、報道もされて、注目と大きな反響があった。この調査によって、障害女性の複合的差別の存在は誰も否定できないものになり、国会審議でも取り上げられ、第3次障害者基本計画、差別解消法の基本方針等に「特に女性である障害者は、障害に加えて女性であることにより、更に複合的に困難な状況に置かれている場合があること、障害児には、成人の障害者とは異なる支援の必要性があることに留意する」と記述された。各地の障害女性等の活動によって、国に上積みして、条例(京都府、仙台市)、基本計画(兵庫県、町田市)に障害のある女性の複合的な困難について書き込まれた。障害者、女性という単一の属性で考えていては解決に向かわない課題であり、国の法律が障害女性の複合差別の解消という固有の課題として位置付けなければならない。

最近の種々の調査

その後の種々の調査で、障害のある女性や少女の実態の一端が明らかになっている。兵庫県は、障害のある人の生活実態調査の性別集計分析を第4次障害者福祉プランに反映した。要約すると「女性の就労率が低く、一般就労をしていても短時間労働の割合が多い」「男性と比べて女性の収入が少なく、52.9%が5~10万円の層に集まっている」等の集計分析を行い、基本計画のはじめに「障害の有無や年齢・性別等に関わらず、誰もが安心して暮らすことができるユニバーサル社会の実現」を掲げ、計画の各分野で障害のある女性について記述している。

障害者虐待防止法に基づく対応状況報告書(2014年度)によると、養護者による虐待被害者のうち65.9%が女性である。児童相談所による子どもの性的搾取・被害の報告(2016年)では、子ども買春や子どもポルノの被害者266人について、9割超が少女であり、3人に1人が何らかの障害があるか境界域の子どもだった。

災害の被害と救援、収入状況など、障害関連団体独自の調査もされている。非常に貴重な調査報告だが、残念なことに性別は調査されていなかったり、集計分析されていないケースがある。調査の立案から集計分析に至るまで、性別や年齢や地域等によって異なることがあるのか見ていく視点が必要である。「障害のある女性の生活の困難―複合差別実態調査報告書」は第4刷を頒布中。各方面の更なる調査等に役立てていただきたい。

(うすいくみこ DPI女性障害者ネットワーク)


連絡先:DPI女性障害者ネットワークdpiwomen@gmail.com