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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年11月号

精神科病院の情報
~精神保健福祉資料の分析と公開について~

上坂紗絵子

1 はじめに

日本では約30万人が精神科病院に入院しており、強制入院や隔離・拘束は増え続けている。これは諸外国と比較しても、突出した数字、状況である。また、精神科病院では他科より医師・看護師等の人員は少なく抑えられており、閉鎖病棟が6割を超える状況の中、いまだに虐待事件も起こっている。当センターでは、このような事件をなくすために、精神科病院に入院中の患者のための電話相談、面会活動、訪問活動等の権利擁護活動を行なっている。

2 なぜ、精神科病院についての情報を発信するのか

医療機関についての情報が公開されることは、利用者が適正な医療を受ける権利を守るために欠かすことのできない条件の一つである。とりわけ精神科病院については、他科とは異なって、措置入院、医療保護入院などの非自発的入院があること、病棟の多くが閉鎖性の高い構造と管理のもとにおかれていること、また、遠からぬ過去に人権侵害の不祥事が多発していることなどから、その医療内容の透明性を確保し、病院情報を積極的に公開することが、人権擁護の観点から求められる。

当センターでは利用者が病院を選択し、また、適正な医療を受ける権利を守るための判断材料となるように、各精神科病院の情報を発信している。

3 精神科病院についての基礎データ「精神保健福祉資料」

厚生労働省は、精神保健福祉施策の資料とすることを目的として、各都道府県・政令指定都市に委託して、毎年6月30日時点の全国の精神科医療機関の状況を調査している。この調査データを「精神保健福祉資料」という。

当センターでは、1993年に起こった大和川病院事件への取り組み(入院患者が虐待されて亡くなった事件を契機に、面会活動や電話相談、病院・行政との交渉や訴訟を行なった)の中で1997年春、大和川病院についての医療監視関連文書や大阪府内の精神科病床を有する病院(以下「精神科病院」)の精神保健福祉資料の情報公開請求に着手した。当初は黒く塗りつぶされた資料が公開されたり、入手したい資料の正式名称を記載して公開請求をしないと受理してもらえなかった。しかし、大和川病院の廃院後の1997年末には公開へとこぎつけた。1999年に大阪府情報公開条例制定以降、当センターでは、毎年、大阪府等に対して精神保健福祉資料を公開請求している。

4 「精神保健福祉資料」の分析と情報発信

精神保健福祉資料を基に作成したグラフ
精神保健福祉資料を基に作成したグラフ拡大図・テキスト

精神保健福祉資料を見ると、各精神科病院についての各種データが分かる。しかし、府内の60近くある精神科病院についての情報を得るためには精神保健福祉資料数百枚を確認する必要がある。当センターでは、この数百枚に記載されているデータを一覧表やグラフ(上記)で表して発信している。分析と発信方法は、以下のとおりである。

(1)表「公開された病院のデータから」(冊子「扉よひらけ7」に掲載)

各病院にある病棟の種別(入院料)、病院ごとの常勤医一人当たりのベッド数、常勤ソーシャルワーカー一人当たりのベッド数、入院患者のうち在院期間が3か月未満の患者の割合、入院患者のうち在院期間が5年以上の患者さんの割合、入院患者のうち在院期間が20年以上の患者の割合を一覧表にしている。

(2)表「職種別職員数一覧表」(冊子「扉よひらけ7」に掲載)

病院ごとの医師、精神保健福祉指定医、作業療法士、精神保健福祉士、臨床心理士、正看護師、准看護師、看護補助者数を一覧表にしている。

(3)グラフ(冊子「2013年データから見た大阪府の精神科病院」、ホームページに掲載)

グラフの評価基準は、1.開放率:開放病棟の割合、2.任意開放率:任意入院の患者は開放処遇されているか?、3.医師充足度、4.看護充足度、5.SW(ソーシャルワーカー)充足度、6.短期入院率:在院3か月未満の患者の割合、7.長期入院率:在院5年以上患者の割合、8.外来受診数(外来診療は活発に行われているか?)=[1か月外来数]÷[精神科病床数]となっている(数式や評価項目は、冊子「2013年データから見た大阪府の精神科病院」に掲載)。

項目ごとに示される評価点は相対的なものであり、各病院のレーダーチャートなどを相互に比較し、あるいは、同一病院について過去のグラフと比較することによってのみ意味がある。

5 さいごに

精神保健福祉資料にあるデータは、各病院の限られた面についてのことである。実際の療養環境や職員の接遇の状況など、データからだけでは分からないこともたくさんある。病院訪問の報告(冊子「扉よひらけ7」や機関紙「人権センターニュース」に掲載)を参考にすることで、そのデータの持つ意味や背景がみえることも多い。

また、精神保健福祉資料は各都道府県、政令指定都市への情報公開請求により入手できる。精神科病院についての情報が公開されていくことは安心してかかれる精神医療の実現にとって非常に重要なことである。全国で同様の分析や発信がなされるための情報提供も積極的に行なっていきたい。

(こうさかさえこ 認定NPO大阪精神医療人権センター事務局長)


※各冊子のお問い合わせやグラフの見方、データの分析方法等については、電話相談(06-6313-0056、水曜日午後2時~5時)まで。