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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年11月号

A型事業所の課題と可能性
~全Aネットのプレ実態調査から~

天野貴彦

就労継続支援事業A型(以下、A型)は、障害福祉サービスの中で唯一、利用者と雇用契約を締結し、労働法規の適用を受けるとともに、福祉と労働に跨(またが)ったサービスを提供し、障害のある人の労働者性と労働の可能性を高めていくことが求められている事業です。制度の開始以来、設置数、利用者数ともに毎年、増加し、今では事業所数3千か所、利用者数5万人を超える大切な社会資源となっています。しかし、近年、一部の事業者による不適切な事業運営の実態がメディア等で報道され、当事者や行政、また多くの善良な事業者からも、事業運営の適正化や制度の見直しを求める声が上がっています。

こうしたなか、NPO法人就労継続支援A型事業所全国協議会(以下、全Aネット)では、A型の実態を調査し、事業を取り巻く現状と課題を把握するとともに、事業の継続・発展に向けての共通課題を明らかにしていくことを目的に、A型事業所の全国調査を計画し、そのプレ調査として、本年2月に公益財団法人ヤマト福祉財団の緊急助成を得て、本調査を実施しました。

本調査は、全国705か所(全Aネットの会員事業所及び神奈川、千葉、福井、岡山、福岡、沖縄の6県の非会員事業所)のA型事業所を対象に調査票を送付し、157か所から回答を得ました。年度末の多忙な時期に実施したこともあり、回収率は22.3%にとどまりましたが、経営主体や平均工賃などいくつかの項目で、すでに公表されている行政等による統計値と大きな誤差がないことからも、その精度は十分に確保できていると考えられます。

本稿では、紙幅の関係上、文章によるごく一部の紹介にとどまってしまいますので、全Aネットのホームページに公開している報告書を併せてご覧いただければ幸いです。

1.A型の利用者像

利用者の4人に3人が家族と暮らし、4人に1人は、アパートやグループホームなどで暮らしています。8人に1人が「配偶者あり」の方です。98%の利用者が雇用契約を締結しており、非雇用の人はわずかです。減額特例制度の適用は1割に満たず、全体の平均月額賃金は約7万2千円(年額で約87万円)です。7割の人が障害年金を受給しており、給料と合わせた年間所得額は、障害基礎年金2級受給の場合で168万円、1級で184万円になり、これらはOECD基準値による貧困線(約125万円)を上回っています。

全利用者では、約9割が週労働時間20時間以上ですが、精神障害の利用者に限ると、約2割が20時間未満の労働時間となっています。全体的に利用者像は多様化し、精神障害やより障害の重い人の利用が増加している傾向があります。

2.A型の事業者像

事業者の経営主体別では、企業が最も多く43.3%を占め、次いで社会福祉法人が26.1%、NPO法人が19.7%となっています。制度の開始からの10年を前期5年と後期5年に分けて、開設年度を見ると、後期が約7割を占め、特に、ここ5年でA型事業所が急増したことが分かります。

事業所を開設した理由では、「福祉サービスを提供しつつ、雇用できるから」が約3割と最も多く、懸念されていた「外部コンサルタントの勧め」はわずか1.3%でした。事業者がめざすA型のタイプは、「生涯就労型」が約5割、「一般就労移行型」が約4割、「ソーシャルファーム型」が約1割。複数のタイプを同時にめざす事業者も相当数ありました。

直接処遇職員の比率は、利用者10人に対して、2.3人で配置基準を上回っています。常勤職員の平均年収は291万円で、日本の平均年収(412万円)を大きく下回っています。タイプは異なっていても、障害者のディーセントワークを実現するために多くの事業所がさまざまな工夫を重ねながら事業を運営しています。

3.A型の経営状況と課題

全体の約半数の事業所の経常収支差額が赤字となっています。他の項目との関係を見ると、特に開設年度(事業継続年度)との相関が顕著で、事業開始から5年以上の事業所では若干の剰余金を計上しているのに対して、3年未満の事業所では、12%もの大きな損失を計上していることが分かります。

経常収支差額が黒字の事業所と赤字の事業所の収支構造を比較してみると、支出において、職員人件費や人件費を除く福祉事業の経費、就労支援事業の利用者賃金の割合がほとんど変わらないのに対して、利用者賃金を除く就労支援事業の経費の割合が、赤字事業所では黒字事業所の2倍になっています。

就労継続支援事業B型と同じ報酬単価等でありながら、地域最低賃金の支給が義務付けられているA型では、多くの事業者が大変厳しい経営環境の中で、懸命な努力を続けています。数多の困難を乗り越え、障害のある人にとって真に働くよろこびと満足をもたらす事業所にしていくためには、福祉サービスを充実させるとともに、利用者の生産活動となる就労支援事業の質やあり方を見直し、綿密な計画を立て、支援の人的体制や設備環境等を整え、就労支援事業単体で採算が取れる事業に改善していくことが、特に重要な課題として挙げられます。

本調査により、A型事業所の実態や課題がかなり明らかになってきたと言えます。全Aネットとしては、障害のある人の多様な働き方と労働の可能性を広げる「良きA型事業所」の実現のために今後、さらに細かい検討を重ね、次年度に全国調査を実施し、調査結果をもとに、制度の改善や拡充を図るべく、国や自治体に向けての提言づくりに積極的に取り組んでいきたいと考えています。

(あまのたかひこ 全Aネット調査研究委員会)