「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年11月号
報告
リオ2016パラリンピック競技大会の報告
中森邦男
1 はじめに
リオ2016パラリンピック競技大会(第15回夏季大会・以下、「リオ大会」)は、オリンピックに引き続き、2016年9月7日(水・開会式)から9月18日(日・閉会式)までの12日間、南米で初めてとなるリオデジャネイロ市を中心に開催され、前回より5か国少ない159か国・地域から4,333人の選手が参加し、22競技で熱戦が繰り広げられました。オリンピック公園では水泳や車椅子バスケットボールなど合わせて9競技が実施され、土曜日、日曜日にはオリンピックと同じくらいの大勢のブラジルの陽気な観戦客でにぎわい、素晴らしい大会となりました。
日本代表選手団は、17競技に132人の代表選手が参加しました。残念ながら金メダルの獲得はかないませんでしたが、初のメダル獲得をした競技は、重度障がいのウィルチェアーラグビーとボッチャで、ウィルチェアーラグビーは夏の団体競技として、車椅子バスケットボール女子、ゴールボール女子に続いての快挙となりました。
2 リオ大会の特記事項
(1)新しい競技の実施
リオ大会は、2001年に国際オリンピック委員会と国際パラリンピック委員会(以下、「IPC」)が合意書を交わし、オリンピック招致にパラリンピック開催を含むことが決定してから3回目の夏季大会となりました。パラリンピックは回を重ねるたびに発展を続け、IPCは新しい競技の導入に取り組みを進めるとともに、実施競技については、その競技の世界への広がりや国際競技連盟(以下、「IF」)のガバナンス、競技規則、ドーピングへの取り組みやクラス分けなどの状況を調査するようになりました。
リオ大会では、新たにカヌーとトライアスロンの2競技が加えられ、知的障がいの陸上競技、水泳ではそれぞれ男女合わせて4種目が加えられ参加が広がりました。
(2)ロシア選手団の不参加
IPCは、NPCロシアに対し、IPCメンバーとしての責任及び義務を果たす能力の欠如、いずれもNPCロシアが署名当事者であるIPCアンチ・ドーピング規程(IPC Code)及び世界アンチ・ドーピング規程(WADA Code)に従う義務を果たす能力の欠如のため、即時資格停止とする処分を下しました。NPCロシアは、この決定に対し、世界スポーツ仲裁機構(CAS)に不服申し立てを行いましたが、CASはその申し立てを却下し、その結果、ロシア選手団はリオパラリンピック大会に参加できない状況になりました。
IPCはロシア選手の穴を生めるために、各競技に次点に位置する選手に参加資格を与え、日本からは柔道2人、パワーリフティング1人、トライアスロン1人とアーチェリー1人が参加できることになりました。
(3)組織委員会の財政難
組織委員会の財政難が解消されず、オリンピックでは大会のサービスが低下しないよう国際オリンピック委員会によるサポートがありましたが、パラリンピックでは、大会全般にわたって運営費用の削減が実施されました。1つは参加選手団に助成されるグラント(参加するための準備金)の支給期日が大会直前になったことで、大会参加に支障が生じ、参加国の減少になったと思われます。2つ目は選手団に配分される選手団車で、日本は7台の選手団車が配分されましたが、運転手は選手団で手配する必要が生じました。ブラジル人の免許証を所持している運転手をサンパウロから手配することになりましたが、費用が生じたことで7台のうち3台しか使うことができませんでした。3つ目は選手村の食堂で、ヨーロッパ、地中海、アジア、イスラムとブラジル食が用意され、毎日のメニューも変わるはずでしたが、大きく縮小されたことで変化の少ない食事となりました。そのほかボランティアの数も大幅に少なくなりましたが、競技への影響は最小限にとどまりました。
(4)ブラジル国民の熱狂的な応援
大会開始前30万枚しかチケットが売れずに大会の盛り上がりに対する不安がありましたが、最終的には210万枚が売れ、ロンドン大会についで2番目のチケット販売となりました。オリンピックよりチケットが安価で、オリンピック公園では多くの中学生のグループが見られ、競技会場ではそのグループが選手に大声援を送り、会場を大いに盛り上げてくれました。その中学生のグループに負けていないのがブラジル国民で、競技の合間に流れる音楽に合わせ、子どもから高齢者まで一人ひとりがリズミカルに身体を動かし、会場の雰囲気を最高潮に盛り上げてくれました。このリオとブラジル国民の過去に類がないほどの熱い応援に対し、IPC会長は閉会式翌日にパラリンピック勲章を授与しました。
3 ますますエリート化するパラリンピック
北京大会は472個、ロンドン大会は503個、そしてリオ大会は528個の金メダル種目が実施されました。現在のパラリンピックに対する各国の競技力向上の取り組みは、北京大会を契機に格段に向上し、オリンピック同様に国を挙げての強化が不可欠な状況になりました。リオパラリンピックの金メダル1位は中国選手団で107個を獲得し、金メダリストの5人に1人は中国選手の割合になりました。159か国の参加国中、上位5か国で、金メダルの51.89%を占めるなど、ますますエリート化が進み、上位国によるメダル独占が進んでいます(表1)。
表1 パラリンピック上位5か国の金メダル獲得数と獲得率
No | 2016 | 2012 | 2008 | 2004 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 中国 | 107 | 中国 | 95 | 中国 | 89 | 中国 | 63 |
2 | 英国 | 64 | ロシア | 36 | 英国 | 42 | 英国 | 35 |
3 | ウクライナ | 41 | 英国 | 34 | 米国 | 36 | カナダ | 28 |
4 | 米国 | 40 | ウクライナ | 32 | ウクライナ | 24 | 米国 | 27 |
5 | 豪州 | 22 | 豪州 | 32 | 豪州 | 23 | 豪州 | 26 |
計 | 274 | 229 | 214 | 179 | ||||
総メダル | 528 | 483 | 473 | 519 | ||||
% | 51.89 | 47.41 | 45.24 | 34.49 |
4 日本代表選手団
(1)参加選手数・メダル獲得数
個人競技の参加数は2012大会の93人から、新たな競技のトライアスロン4人とカヌー1人が加わり、結果9人増え102人となりました。団体競技では2008年大会の6チームを最多に、リオ大会では、その中で3チームが予選会で敗退し参加資格を失うこととなりました。リオ大会では、過去すべての大会で獲得してきた金メダル獲得は0個と大変残念な結果となりましたが、総メダルで8個増やし24個(銀10、銅14)の獲得となりました(表2)。
表2 日本選手団の参加数・メダル獲得数
大会年 | 選手数 | メダル数 | 金メダルランキング | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
個人 | 団体 | 合計 | 金 | 銀 | 銅 | 計 | ||
2016 | 102 | 30 | 132 | 0 | 10 | 14 | 24 | 64 |
2012 | 93 | 41 | 134 | 5 | 5 | 6 | 16 | 24 |
2008 | 98 | 64 | 162 | 5 | 14 | 8 | 27 | 17 |
2004 | 109 | 54 | 163 | 17 | 15 | 20 | 52 | 10 |
2000 | 115 | 36 | 151 | 13 | 17 | 11 | 41 | 12 |
1996 | 58 | 23 | 81 | 14 | 10 | 13 | 37 | 10 |
1992 | 53 | 22 | 75 | 8 | 7 | 15 | 30 | 16 |
(2)成績
個人競技の成績では、ボッチャが初めてメダルを獲得し、陸上競技と水泳は前回同様に複数のメダルを、前回1つしかメダルを取れなかった柔道、自転車、車いすテニス、知的水泳が複数のメダルを獲得しました。
団体競技の参加は、ロンドン大会から1競技減らし、9競技中3競技の参加となりました。前回、金メダルを獲得したゴールボール女子は準々決勝で、接戦をものにすることがかなわず、惜しくも5位入賞となりました。前回3位決定戦で惜しくも敗退したウィルチェアーラグビーは、念願のメダルを獲得し、夏のパラリンピック史上3番目のメダル獲得チームとなりました(表3)。
表3 日本代表選手団の競技別成績
No | 競技名 | 2016 | 2012 | 2008 | ||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
人数 | 成績 | 人数 | 成績 | 人数 | 成績 | |||||||||||
金 | 銀 | 銅 | 計 | 金 | 銀 | 銅 | 計 | 金 | 銀 | 銅 | 計 | |||||
1 | 陸上競技 | 33 | 4 | 3 | 7 | 33 | 0 | 3 | 1 | 4 | 32 | 2 | 7 | 3 | 12 | |
陸上競技(知的) | 3 | 7位 | 3 | 5位 | 実施せず | |||||||||||
2 | 自転車 | 4 | 2 | 0 | 2 | 3 | 0 | 0 | 1 | 1 | 4 | 1 | 3 | 2 | 6 | |
3 | 水 泳 | 12 | 2 | 3 | 5 | 13 | 1 | 2 | 4 | 7 | 18 | 1 | 2 | 2 | 5 | |
水 泳(知的) | 7 | 2 | 2 | 3 | 1 | 0 | 0 | 1 | 実施せず | |||||||
4 | 車いすテニス | 9 | 2 | 2 | 9 | 1 | 0 | 0 | 1 | 9 | 1 | 1 | 0 | 2 | ||
5 | 柔 道 | 9 | 1 | 3 | 4 | 8 | 1 | 0 | 0 | 1 | 9 | 0 | 1 | 0 | 1 | |
6 | アーチェリー | 3 | 7位 | 3 | 5位 | 10 | 0 | 1 | 0 | 1 | ||||||
7 | 卓球 | 3 | 8位 | 2 | 5位 | 2 | 5位 | |||||||||
卓球(知的) | 2 | 5位 | 1 | 予選敗退 | 実施せず | |||||||||||
8 | ボッチャ | 5 | 1 | 1 | 5 | 7位 | 4 | 5位 | ||||||||
9 | パワーリフティング | 3 | 5位 | 3 | 6位 | 1 | 8位 | |||||||||
10 | 射撃 | 1 | 20位 | 2 | 21位 | 5 | 8位 | |||||||||
11 | 馬術 | 1 | 11位 | 1 | 12位 | 1 | 12位 | |||||||||
12 | 車いすフェンシング | 参加できず | 参加できず | 1 | 12位 | |||||||||||
13 | ボート | 2 | 12位 | 1 | 11位 | 2 | 12位 | |||||||||
14 | セーリング | 参加できず | 3 | 14位 | 参加できず | |||||||||||
15 | カヌー | 1 | 8位 | 実施せず | 実施せず | |||||||||||
16 | トライアスロン | 4 | 6位 | 実施せず | 実施せず | |||||||||||
17 | 車椅子バスケットボール女子 | 参加できず | 参加できず | 11 | 4位 | |||||||||||
車椅子バスケットボール男子 | 12 | 9位 | 12 | 9位 | 12 | 7位 | ||||||||||
18 | ゴールボール男子 | 参加できず | 参加できず | 参加できず | ||||||||||||
ゴールボール女子 | 6 | 5位 | 6 | 1 | 1 | 6 | 7位 | |||||||||
19 | シッティングバレーボール男子 | 参加できず | 参加できず | 11 | 8位 | |||||||||||
シッティングバレーボール女子 | 参加できず | 11 | 7位 | 11 | 8位 | |||||||||||
20 | ウィルチェアーラグビー | 12 | 1 | 1 | 12 | 4位 | 12 | 7位 | ||||||||
21 | 5人制サッカー(視覚) | 参加できず | 参加できず | 参加できず | ||||||||||||
22 | 7人制サッカー(CP) | 参加できず | 参加できず | 参加できず | ||||||||||||
132 | 0 | 10 | 14 | 24 | 134 | 5 | 5 | 6 | 16 | 161 | 5 | 15 | 5 | 25 |
*メダル欄の競技の順位は、その競技の参加選手の中で最も良い選手の成績を表す
*灰色で塗りつぶした箇所は実施されなかった、参加できなかった競技、障がいを表す
5 まとめ
ロンドン大会以降、2013年には東京2020パラリンピック開催が決定し、2014年には厚生労働省から文部科学省へ移管され、2015年にはスポーツ庁が設置されました。オリンピックで実施されている強化についても、パラリンピックを代表する障がい者スポーツも同様に取り組みが導入されるようになりました。このことにより、NF(競技団体)強化費の増額、ナショナルトレーニングセンター(以下「NTC」)の利用、NTCの拡充(2019年夏完成)、医科学支援、専任コーチ制度やアスリート助成など多くの取り組みが実施され、さらに、日本財団によるパラリンピックサポートセンターによるNFの組織運営支援や企業によるアスリート雇用など、そのNFや選手の強化環境も大きく改善されました。
今後の課題として、第1にタレント発掘で、代表選手クラスの強化環境は大きく改善されましたが、次のレベルの選手が毎日練習できる場所、コーチや医科学スタッフによるサポート体制、強化費や競技用具の選手負担など多くの課題があります。これら次世代の選手をNFの強化選手に指定する仕組みや日本代表に漏れた選手が、他の競技にチャレンジする取り組みも必要となります。
第2に、NF強化費や強化選手の強化環境が大きく改善している中、その活動を有機的に発展させるべく、NFのマネージャーや事務局スタッフの専任化などNFの組織基盤の強化があげられます。さらに、国際資格を含めた強化スタッフの育成や選手強化を担当するコーチ、トレーナー、競技パートナー(ガイドランナーなど)などの強化スタッフへの経済的な支援、国際大会参加支援などがあげられます。
第3に、最新のスポーツ科学に基づいた支援があげられます。これには、当協会が実施している医科学映像サポートをより充実させること、JSCや大学が実施している医科学サポートや競技用器具の研究・開発の充実と合わせ、組織間の連携をより深める必要があります。
第4に、オリンピックで過去最高の成績を上げたオリンピックスポーツからのコーチ派遣を含め最新のスポーツ科学の支援が望まれるところです。最後に、スポーツ庁、JSC、JOC、JOC加盟競技団体、JPC加盟競技団体や大学などスポーツ関係組織・機関との連携をさらに深めていくことも重要です。
これらの課題改善・克服は大きな労力を要することになりますが、関係する組織や部署と連携を図り、創意・工夫をもって進めていきたいと思っています。
(なかもりくにお (公財)日本障がい者スポーツ協会日本パラリンピック委員会事務局長、リオ2016パラリンピック競技大会日本代表選手団副団長)