音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年11月号

列島縦断ネットワーキング【栃木】

医療的ケア児と家族の暮らしを応援する
~うりずんのチャレンジ~

髙橋昭彦

はじめに

医療の進歩により、人工呼吸器や気管切開、経管栄養などの医療的ケアが必要な子ども(以下、医療的ケア児)が増えてきています。しかし、医療、福祉、教育、保育などすべての分野で医療的ケア児の受け皿は不足し、家族に多大な介護負担を強いているのが現状です。

ひばりクリニック(栃木県宇都宮市)は、2002年5月に開設した小児科・内科の診療所です。午前中外来、午後は在宅医療を行い、0~100歳までの診療を行なっています。現在は24時間体制で往診や訪問看護を行う機能強化型在宅療養支援診療所として、平均65人前後の在宅患者(小児期・移行期は、15人前後)を担当しています。また、同じ敷地内に認定特定非営利活動法人うりずんがあり、医療的ケア児を含む重症障がい児者の暮らしを支援しています。

きっかけは、ある日の訪問診療

重症障がい児を預かる施設をつくろうと決断するきっかけをつくってくれたのが、人工呼吸器をつけて生活しているたける君です。2006年9月、平日の昼間に訪問したところ、父親がたける君の介護をしていました。理由をお聞きすると「妻が熱を出して寝込んでいる」とのことでした。たける君の家では、母親が発熱で寝込むと、父親が仕事を欠勤しないと暮らしが成り立たないことに気付いたのです。それまでも重症障がい児の日中預かり施設は必要と感じていましたが、大変なことは分かっていたので、どこかでやってほしいと思っていました。しかし、これは「自分がやるしかない」とやらない理由を考えるのをやめ、どうすれば実現できるかを考えるようになりました。多くの人たちの支援と在宅医療助成勇美記念財団の助成金を得て、研究事業として人工呼吸器をつけた子どもの預かりを試行し、これを受けて宇都宮市は2008年3月、個人の診療所でも日中一時支援が使えるようにし、医療的ケアが必要な子どもは運営支援費という割増料金を設定した画期的な事業(重症障害児者医療的ケア支援事業)を創設しました。こうして2008年6月、重症障がい児者レスパイトケア施設うりずんが誕生したのです。

うりずんの目指すもの

うりずんのお預かりでは、安全、安心、安楽(千葉県立千葉リハビリテーションセンター石井光子先生より)の3Aを目指しています。これは安全に預かることで、両親が安心し、さらに本人にとっても楽しい(安楽)というものです。子どもにとって楽しい場であると、預ける親は罪悪感を抱かないように思います。

また、レスパイトケア(預かり)では家族をケアから解放することを目指しますが、子どもにとっては自分を他人にゆだねる貴重な機会となります。重い障がいをもつ子どももさまざまなサインを出しますが、親はわずかなサインでもそれを察知します。しかし、第三者である私たちが預かることで、子どもはもう少しはっきりとサインを出すことを学ぶのです。これは、将来的に子どもの自立につながると信じています。

子どもと家族の現状

うりずんに限らず、地域で暮らす重症障がい児には、いくつかの特徴があります。それは、1.障がいが重度で、吸引、経管栄養などの医療的ケアが必要な人の割合が多いこと、2.知的障がいが軽い、歩けるなど、従来の重症心身障がい児に当てはまらない子どもがいること、3.体調が不安定なため頻繁に入退院を繰り返すことがあること、4.医療・福祉・教育・療育など多職種チームが関わり育ちを支援する必要があること、5.医療的ケア児が利用できる社会資源が極めて少ない(ほとんどない)こと、6.家族、きょうだいへの負担が大きいこと、7.次の子の出産、就学、校外学習、卒業後など、成長とライフステージに寄り添う支援が必要であることです。近年、医療的ケア児の母親が就労を希望することも増えていますが、受け入れる保育園はほとんどありません。

事業拡大のため新拠点へ移転

うりずんは当初、ひばりクリニックの併設施設として日中一時支援のみを行なってきましたが、赤字経営が続いていました。そこで、社会的支援を得やすい団体を目指して2012年に特定非営利活動法人となり、2014年3月、うりずんは認定特定非営利活動法人となりました。やがて手狭になり、日本財団と日本歯科医師会が行うTOOTH FAIRYプロジェクトという、重症児のデイサービスに対し建物の8割まで補助する補助金を得て、新しい土地に新拠点を建設、2016年4月から運営を始めました。新うりずんは、芝生の庭に面する預かりスペースは3倍になり、正面玄関には地域交流スペースゆいま~るをつくり、研修、相談、カフェなどに活用しています。

新拠点では事業も増えました。従来の日中一時支援(定員5人)は医療的ケアが必要な障がい児者が対象で、うりずんと契約している市町から47人(うち人工呼吸器装着者11人)が利用し、居宅介護は17人(うち医療的ケア児者13人)、移動支援は9人(うち医療的ケア児者7人)が利用しています。新規事業としては、児童発達支援(定員5人)は未就学の重症心身障がい児が対象で9人が利用、放課後等デイサービス(定員5人)は就学中の重症心身障がい児が対象で17人が利用、さらに集団保育が難しい障がい児の保育を行う居宅訪問型保育(定員1人)は1歳児1人が利用し、母親が就労復帰しています。

現状と課題

病状が不安定のため、入院などでキャンセルが多く、母親が体調不良でも連れてくることができません。そのため、キャンセル率が30%前後と通所サービスとしては高く、運営は厳しいのが現状です。安全・安心・安楽のケアのため、スタッフはほぼマンツーマンの配置をし、痰の吸引、経管栄養などができるよう研修も欠かせません。また、放課後等デイや一部は移動支援で送迎を行なっていますが、そのための車両やスタッフも必要になります。

2016年10月現在、スタッフは常勤13人(看護師3、介護士7、保育士1、事務2)、非常勤4人(看護1、介護2、言語聴覚士1)の17人となりました。事業収入だけでは赤字ですが、認定NPO法人として多くの皆様からご支援をいただき、寄付と助成金で黒字化しています。

今後の展開

ある医療的ケア児の調査において、子どもを「いつまで介護をしたいですか?」という問いに対し、母親からは「ずっと」、「最期まで」、「死ぬまで」、「可能な限り」、「自分が死ぬ時に一緒に連れていきたい」などの答えがありました。ここまで母親が考えざるを得ないのは、おそらく自分以外に子どもを看(み)られる人が地域にいないことを意味します。できれば、子どものケアができる人材を地域で増やしていき、徐々に母親が手を引いても大丈夫なように預かり、地域で暮らし続けるグループホームや、希望があれば、そこでの看取りまで選択肢として提案できるようになりたい。そのためには、母親の代わりができる人材を地域で飛躍的に育成していく必要があります。

うりずんは、地域のさまざまな人たちと連携、協働しながら、必要な人材を育成し、退院後の暮らしを支援する仕組みをつくり、行きたい時に外出できる、医療的ケア児も保育で預かる、次の子の出産ができる、通学したい学校を選べる、親が送迎や滞在しなくても学校教育が受けられる、さらに、学校卒業後の日中活動の場や、親から離れて人生の最期まで生きる場所を選んでいただけるような仕組みを地域でつくっていきたいと考えています。

(たかはしあきひこ 認定特定非営利活動法人うりずん理事長、ひばりクリニック院長)


移行期:小児期から成人期に移り変わりゆく時期のこと