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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年11月号

ほんの森

快をささえる
難病ケアスターティングガイド

河原仁志・中山優希 編集

評者 矢口壹琅

医学書院
〒113-8719
文京区本郷1-28-23
定価(本体3200円+税)
TEL 03-3817-5600
http://www.igaku-shoin.co.jp/

この本に書かれてあるのは「あきらめない!」「あきらめさせない!」という思いに尽きる。「あきらめない」ことは人生を生き抜くための一番のエネルギーだと、プロレスラーである私は強く感じている。なぜならば、プロレスは、他のスポーツ競技やエンターテインメントと比べ、「やられても、やられても、何度でも立ち向かっていく姿勢」を全身で表現することが最大の見せ場であるからだ。

肉体で表現をする世界に生きる私は、それまで神経・筋の難病の世界など想像もできなかった。レスラーの言わば武器である身体の筋肉がやせ細っていき、運動機能が低下していく病気に苦しんでいる方が大勢いることなど知る由もなかった。そんな私が「ポンぺ病(筋肉が壊れていく難病、当時は治療薬が無かった)」の患者さんと出会ったのは、この本の著者である河原先生がきっかけであった。夢である音楽家をあきらめなくてはならなかった彼の悔しさを我が事のように感じた私は、彼と共に音楽活動を行なった。彼のあきらめきれない気持ちを最大限にサポートすると決め、日常生活と音楽活動におけるさまざまな壁を乗り越えるため、問題が生じるたびにさまざまな方の支援を受けてきた。彼とは長時間、一緒に行動することにより、心のかなり深いところの問題まで共有し、それは貴重な体験をさせてもらった。

河原先生は、教えてくれた。「彼らの人生は、あきらめなければならないことの連続だ。筋力が衰えて歩くことをあきらめる。働くことをあきらめる。夢をあきらめる。自分で呼吸することもできなくなる。やがて、生きることをあきらめなくてはならなくなる。そこで我々は、あきらめさせない方法を考える。それが我々のすべきことだ。歩けなくなれば、電動車椅子で行動範囲を広げる。呼吸がしにくくなったら、鼻マスク式人工呼吸器を着けて呼吸の補助をする。働くチャンスだってあきらめなくてもいい。たとえばパソコンを使ってセンスのいいイラストを描く人なら、プロの漫画家にアドバイスをもらい、仕事ができるような手助けもできる」と。私は先生の話を聞きながら、「今を大切に、人生を快適に熱く生きる。これこそが、この世に命を授かって生きている人間としての尊厳なのではないだろうか」と強く思ったものである。

この本には、難病の方々がより良い人生を生きるための知恵がたくさん詰まっている。まさに宝石箱のような一冊である。難病患者に関わる方はもちろん、私のように何も知らなかった一般の方々にもぜひ読んでいただき、難病に対する理解とサポートの輪が広がってもらいたいと切に願う。

(やぐちいちろう プロレスラー、音楽家:バークリー音楽大卒、俳優)