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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年12月号

時代を読む86

精神障害者の雇用義務化までの道筋から
―みなし雇用率の導入―

平成30年4月から法定雇用率の算定対象に精神障害者が算入され、精神障害者の雇用義務化が実現する。雇用義務化は、その前段階としての特例適用(法定雇用率には算入しないが、各企業で精神障害者を雇っていればカウントできる=みなし雇用率)の実施を踏まえて行われるものであり、今回の雇用義務化は10年前の特例適用の導入によってその道筋が拓(ひら)かれたともいえる。

精神障害者の雇用については特例適用が導入されるまでに、四半世紀前(旧労働省時代)から有識者の研究会が2年間ずつ三度にわたって設置され、検討が重ねられてきた。三度目の研究会(座長:高橋清久先生)でようやく特例適用を導入すべきとの報告書がまとまり、法改正がなされた(平成18年4月施行)。さまざまな課題、論点があったが、それらは大きくいえば、在職者も含めた精神障害者の雇用の実態、雇用管理ノウハウの蓄積の状況とその評価の問題であった。現状のまま特例適用を導入しても企業は在職精神障害者を優先して適用し、新規雇用にはつながりにくいのではないか、掘り起しが起こるのではないかという懸念もあり、導入は時期尚早との見方もあった。

仮に導入するとしても雇用率の対象となる精神障害者の定義、適用をどうするかということも重要な課題であった。これについては、本人のプライバシーを確保するなか、企業によって適用範囲に大きなばらつきが生じず、実務上も把握確認が難しくないこと、将来の雇用義務化も見据えて、失業者を含めた労働者数(対象者数)を定量的に調査、算出することが技術的に可能な把握確認方法・適用範囲とする必要があるというのが、当時、事務局を務めていた筆者の基本的な問題認識であった。さまざまな精神疾患を疾病横断的に取り扱う必要や原疾患が治癒、寛解する可能性があるという精神障害の特徴を踏まえる必要もあった。当時は対象者の範囲について、手帳所持者以外にさらに広くする考え方も有力だったが、かなり早い段階から、手帳の普及と将来の雇用義務化などを念頭に、前記のような視点から対象を手帳所持者に収れんする方向で制度設計の見極めをしていたように記憶している。

最後に、当時も今も感じることだが、障害者雇用の進展にとって、豊富な雇用経験を通じた障害者に対する理解と実践的な雇用管理ノウハウを駆使して活躍する企業内の実務家の存在は大きい。雇用率制度の枠組みを超えて、広く職場のメンタルヘルス、リワークの取り組みにとっても有為な人材となり得よう。筆者も電気神奈川福祉センターなどの集まりにときどき参加させていただいた。また精神障害者雇用の場合、職親の存在も見逃せない。IPSモデルのようなことが、かなり前から彼らによってすでに実践されていたとみるのは失当であろうか。

(今井明(いまいあきら) 日本政策金融公庫 生活衛生融資部長)