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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年12月号

当事者からの提案

コミュニケーションマークとしての「手話マーク」・「筆談マーク」の意義

中橋道紀

聴覚障害者問題の永遠の課題はコミュニケーションである。

ここ数年、IT技術が目覚ましく発展し、音声情報を光や文字に変える機器などが普及していることにより、聴覚障害者は視覚から情報を得る機会が多くなっている。しかし聴覚障害者が気兼ねなく、自由にコミュニケーションができる環境はまだ整備されていない。

手話をコミュニケーション手段としている聴覚障害者は10万人、手話のできる聞こえる人がおよそ2万人いると言われている。たとえば目の前に人がいる。手話ができるかもしれない、聞こえないかもしれない。そんな人がいたら手話で話しかけたいという衝動に駆られる。しかし、手話ができるという目印はないし、手話を使わなければわからない。

私事だが、先日東京に行く機会があり、ある豆腐屋で豆乳を買いたくてガラスケース越しに商品を血眼になって探した。あいにく豆乳は切れていた。ガラスケースの前でまごまごしていると店員が、私が聞こえないことに気付いたのか、手話で「豆乳は切れている。午後に出すのでまた来て。」と話してくれた。まさか手話ができる人がいるとは思わなかったのでビックリしたが、この方も手話を学んだ2万人のうちの1人と考えると、当然と言えば当然だ。

しかし、手話のできる豆腐屋さんを知ることなく素通りしてしまうのはなんとももったいない。店頭に「手話ができます」という目印を張り出すことができないだろうか。そうすれば聞こえる人も聞こえない人も気軽に買い物ができるやさしい街づくりにつながることになるだろう。

聴覚障害者マークは、今までいろいろと策定されてきたが、普及には課題がある。

図 聴覚障害者を示す世界共通のシンボルマーク

右の図は、世界ろう連盟が定めた、聴覚障害者を示す世界共通のシンボルマークである。このマークは、耳の形に斜めの線を引くといった描写が聴覚障害者を否定的に捉えていると異議を唱える意見が多く、2003年に行われた世界ろう者会議をもって使用を取り止めた。新たなマークは、2015年トルコで開催された世界ろう者会議にて手話マーク選定の議題があり、日本からも提案したが、現在は保留となっている。

「耳マーク」は目にしている方が多いだろう。このマークは「耳が不自由です」という自己表示が必要ということで、(一社)全日本難聴者・中途失聴者団体連合会が作成・普及している。当事者が自発的に使用することが前提となっているため、受付窓口などでマークを使用する場合、「筆談で対応します」といった説明書きをつけたり、「手招きして呼ぶ」「大きな声ではっきり話す」といった協力を当事者からお願いすることが必要になる。

特に、ろう者の場合は手話で対応してもらえることが一目で見てわかるようなマークがあることで、安心して受付窓口等を利用できる。聴覚障害者に対して、手話、筆談といった方法で対応することを示すコミュニケーションマークを必要とする声が多く聞かれている。

そこで全日本ろうあ連盟(以下、連盟)は、「手話マーク」と「筆談マーク」を策定した。現在、国内外への普及を目指している。

2020年に東京オリンピック・パラリンピックを迎えるにあたり、聴覚障害者へのコミュニケーション保障のために、手話・筆談での対応が当たり前になるような環境を整えていくことが必要になる。誰にでもわかる「手話マーク」・「筆談マーク」を普及していくことで、聴覚障害者に対するコミュニケーション手段の配慮について、理解を広めていくことを目的としている。

「手話マーク」・「筆談マーク」を作るにあたり、2016年春に連盟内に検討会議を立ち上げ、専門家の指導を仰ぎながらさまざまなマークを調べ、たくさんの案を作成し、検討した。また、連盟加盟団体や関係団体にもアンケートで意見を収集した。

連盟が目指すのは、「手話マーク」及び「筆談マーク」を手話や筆談の対応が可能な窓口、店頭にて掲示し、「手話で対応します」「筆談で対応します」と明示することで、聴覚障害者が入りやすい公共施設や民間企業、店舗を増やすことだ。そのために、「手話マーク」・「筆談マーク」を広く普及していく取り組みを進めている。

手話及び筆談で聴覚障害者とコミュニケーションをとることに取り組む人が多ければ多いほど、聴覚障害者だけでなく、社会はあらゆる人に寛容でやさしくなれる。

マークの普及により、街が一方通行の情報取得から双方向のコミュニケーションであふれる、そんな社会になることを願っている。

(なかはしみちのり 全日本ろうあ連盟理事)


◎全日本ろうあ連盟 「手話マーク」・「筆談マーク」
http://www.jfd.or.jp/

◎全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 「耳マーク」
http://www.zennancho.or.jp/