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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年12月号

当事者からの提案

私の感じるユニバーサルデザイン

折田聡美

別府市で暮らし始めて

私は2年前に、宮崎県から大分県別府市に引っ越してきた。別府市で暮らし始めてすぐに感じたことは、市内のどこに出掛けても車椅子ユーザーに出会うことである。散歩をしていても、買物に出掛けても、毎日必ず1人は車椅子ユーザーに出会う。別府市は車椅子ユーザーが特別視されず、周りを気にせず過ごせるまちである。

地域での社会活動を通して

私の勤務する「NPO法人自立支援センターおおいた」は、「障がい者の自立支援部門」と「別府・大分のバリアフリー観光事業部門」の2つの部門に分かれ、障がい者スタッフ(車椅子ユーザー)13人を中心に元気に活動している。

スタッフになって約2年になるが、昨年度から私が所属している障がい者の自立支援部門で取り組んでいる「Fix My Streetを用いた官民協働街歩き」は、とてもやりがいがある。別府市が導入した携帯アプリ「Fix My Street Japan」を利用し、道路の破損、落書き、街灯の故障、不法投棄などの地域の課題をスマートフォンを使って解決・共有していくための先進的な仕組みである(災害時の河川状況報告等にも使われる)。

「Fix My Streetを用いた官民協働街歩き」は、車椅子ユーザーのスタッフと行政職員や一般市民の方々が一緒に別府市内の街を歩き、道路の破損や不便などを検証している。その際、行政職員や一般市民の方々に車椅子体験や視覚障がい者体験をしていただいている。それは、街中の道路破損や整備不良が、車椅子ユーザーや視覚障がい者にとって、どれだけ危険であるか、そして、実際に当事者の目線に立ち、そのような箇所が多くある実態を知ってもらうことが重要だと考えている。

障がいのない方が歩くと、危険を感じない歩道も車椅子に乗ったり、目隠しをして歩いたりすると、道路の凹凸や歩道の狭さ、歩道にある置き看板、自転車などが障害物になり通行しづらいことに気づく。特に危険だと感じるのは、点字ブロックの破損、雑草の歩道へのはみ出し、マンホール廻りの段差、歩道の段差、側溝の破損などである。これらを知らずに通ってしまうと、転倒につながる可能性が高い。参加した行政職員(市の道路河川課、県の土木事務所、国土交通省)の方々からは、車椅子や視覚障がい者の体験を通じ、多くの気づきが得られたという意見も多く、今後の道路改修や新設の際に、バリアフリーやユニバーサルデザインを取り入れるためのきっかけとなっている。

「Fix My Streetを用いた官民協働街歩き」を通じて、誰もが安心して安全に暮らせるまちにするために、障がい当事者として、多くの方々に意見や思いを伝え、実際にまちが変わっていく姿を実感できることを本当にうれしく思う。

今後の社会への提案

社会全体のユニバーサルデザイン・バリアフリーの促進をもっと進めていってほしいと思う。「Fix My Streetを用いた官民協働街歩き」では、障がい当事者の目線ということに重点を置いたが、効果はそれだけではないと考える。誰もが安心して安全に暮らせるまちとは、障がい者だけではなく、高齢者(車椅子・杖・片マヒ・弱視等)、子ども、妊婦、ベビーカー等々にも暮らしやすいまちであると言える。これからの超高齢化社会においては、特に必要であり重要な問題である。

心のバリアフリー

別府市は、昔から温泉を通じた観光のまちであり、療養の地でもあった。観光客が多いことから、誰に対しても自然に手助けができ、それと同時に、車椅子ユーザーにも分け隔てのない接し方が当たり前のように行われていたのだと、このまちに住んで感じることが多い。美容室に行けば段差があっても自然に介助してくれ、シャンプー台への移動も手慣れた感じでスムーズに行うことができる。「介助の勉強をされたのですか?」と尋ねてみると、障がいのあるお客様が日常的に来店され、対応していたら介助方法が自然に身に付いてきたと話をされていた。このような話を聞いて、とても安心し、居心地よく感じた。

現在別府市には、約8,000人の障がい者が暮らす。このような土壌がある別府市だからこそ「心のバリアフリー」が根付いていると思う。近い将来、社会に出て活躍する子どもたちに、障がいがある方への理解を深めるための授業や交流会も積極的に行われている。しかし、心のバリアフリーは進んでいる一方、ハード面に関しては遅れをとっている部分もある。このことは先にも述べたように、「Fix My Streetを用いた官民協働街歩き」等で、官民がしっかりと協働し、同じベクトルを目指し、取り組んでいかなければいけないと思う。

障がい者の自立支援部門には、施設や親元で生活し自立を夢見る障がい者がたくさんいる。そのような方々が自分の好きな場所で暮らし、別府市の素晴らしさをもっと知ってほしいと心から願っている。

最後に、私の考えるユニバーサル社会とは、ハード面だけのバリアフリーだけでなく、ソフト面「心のバリアフリー」という両輪があってこそユニバーサル社会だと感じる。今後も、ユニバーサル社会の実現に向けて活動していきたいと思う。

(おりたさとみ NPO法人自立支援センターおおいた)