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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年12月号

解説 障害者差別解消法 第7回

政治参加における差別と合理的配慮

大胡田誠

■はじめに

これまで、同じ国民であるにもかかわらず、障害者の政治参加は、さまざまな「社会的障壁」によって妨げられてきました。本稿では、障害者の政治参加、主に選挙権の行使について、現在、どのような障壁があるのかを整理して、それを解消するためにはどうすればよいのかについて考えてみたいと思います。

■物理的障壁について

肢体障害があり、車椅子などを利用して移動している場合、選挙権の行使に当たって物理的障壁が大きな問題となります。たとえば、投票所の入り口に段差があり車椅子で入場できない、投票台の高さが車椅子利用者にとって高すぎる場合などです。

本年4月に施行された障害者差別解消法では、障害者の社会参加を阻む社会的障壁がある場合、合理的配慮を提供してこれを解消することを行政機関に義務づけています(選挙管理委員会も行政機関ですので、合理的配慮の提供は法的義務となります)。一方で、合理的配慮の提供は障害者の方から申し出ることを前提としていますので、積極的に「このような配慮をしてほしい」ということを申し出ていくことが原則として必要になります。

たとえば、障害者の方から携帯スロープを使用して投票所に入場できるように依頼するなど、まずは入場ができるように配慮を求めることになります。

また、投票所に行っても台が高くて候補者の名前が書けないのでは投票できないため、この点も配慮を求めることになります。必要に応じて、別の机を準備してもらったり、別室で記載できるように配慮してもらうことが考えられます。

■制度的障壁について

(1)郵便投票を利用できる障害者が限定されていること

現在、障害のために投票所に出向くことができない人については、郵便による投票が認められていますが、郵便投票制度を利用できるのは、身体障害者、戦傷病者または要介護者の中のごく一部の者に限定されており(公職選挙法49条2項)、歩行・外出が極めて困難な障害者すべてに郵便投票が認められているわけではありません。

しかし、これでは、精神障害や知的障害のため、外出や他人と接触することが極めて困難な障害者は、実質的に投票の機会を奪われてしまうことになります。これは障害者に対する制度的障壁だといえます。

他人による投票などの不正行為を防ぐ対策を講じた上で、郵便投票を行うことができる障害者の範囲を拡大し、外出が困難なすべての障害者の投票機会の実質的保障が図られるべきです。

現在の法律によって重大な人権侵害が発生している場合、法律だから仕方がないではなく、法律を変えて差別を解消していく必要があります。

(2)文字を書くことができない場合の代理投票制度

選挙では、通常、投票用紙に候補者の氏名や政党名を自署することが原則です。しかし、知的障害や上肢障害のために文字を書くことができない場合、この原則自署ということが制度的な障壁となります。

障害のために文字が書けない場合、公職選挙法に「代理投票」の規定があり(48条)、代理投票をしたい旨を申し出ることにより、投票所の職員2人の立会の下で投票することができます。これは制度化された合理的配慮といえるでしょう。具体的には、投票したい候補者を伝えることにより、1人の職員が投票用紙に記載をします。言葉で伝えることができない場合には、指差しにより候補者を特定すれば記載をしてくれます。指差しの対象としては、選挙公報から写真を切り抜いて、または選挙ポスターを縮小してカードにしたものを使用することもあります。事前に、どのような方式で代理投票を利用したいのかを、選挙管理委員会に申し出ておくとよいでしょう。

■情報面の障壁について

現在、国政選挙では選挙広報の点字、録音媒体での提供が行われていますが、地方選挙についてはこのような情報保障を行う地方自治体は少数にとどまっています。

選挙に先立ち、候補者の政策等について十分な情報がなければ適切な投票行動を行うことはできません。視覚障害者にも、健常者と同等に、候補者やその政策等に関する情報を保障することが求められます。

そこで、視覚障害者は、選挙管理委員会に対し、点訳等ができない場合には、対面朗読やテキストデータの提供など、より簡易、迅速な方法で視覚障害者に対して選挙公報を提供するべきだと求めていくことが考えられます。まだ実際に行われた例はありませんが、前例は作っていけばいいのです。選挙管理委員会に、さまざまなアイデアをぶつけてみましょう。

■終わりに

すべての人が同じ選挙権を持つけれど、それを保障する配慮はみんな違う。そのような「みんな同じでみんな違う」ことを認めるのが共生社会です。障害者の政治参加を考えることは、最も分かりやすい形で共生社会を具体的にイメージすることに繋(つな)がります。

待っているだけでは何も変わらない。障害者は、自分の障害や、どのような配慮が必要なのかを積極的に選挙管理委員会に申し出てみましょう。そこで生まれる個々の対話が、ひいては社会全体を変えていくことに繋がるのですから。

(おおごだまこと 弁護士、つくし総合法律事務所)