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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年12月号

列島縦断ネットワーキング【宮城】

杜の都仙台のアンテナショップ「エフブンノイチ」

金澤恵利香、佐藤由美、森田久美子

オープンする経緯

杜の都仙台の街中に、たった5坪の小さな店舗がありました。そこは障害のある人たちが働く就労事業所(桑の木)でしたが、思うように客足が伸びず、常に苦戦していました。ビルのオーナーのご理解で、とても良い条件で賃貸することができていたので、何としてもこの場所で頑張りたいと考えていましたが、主に飲食店を運営している事業所なので、飲食店以外の新しいアイデアが浮かびませんでした。

壁にぶつかり、身動きが取れない状況にいた時期に、たくさんの事業所の方々が集まって「商品をどう作り、どう売るか」の話を聞く機会がありました。自分の法人や事業所だけではない、多くの事業所の商品を販売する店舗はできないだろうか?平成27年の秋に、「麦の会」理事長に考えを話してみたところ、あれよ、あれよという間に、当法人を含め5事業所が集まり、福祉事業所の「協働のアンテナショップ」として、工賃の向上と商品を多くの方に知っていただくことを目的として、運営することになりました。5つの事業所が集まり、店舗の名前やコンセプト等を決めるので、何度も集まり、一つ一つ決めていきました。

店の名前はたくさんの候補がある中で、自然界の揺らぎの音という意味を持つ「エフブンノイチ」に決め、福祉事業所のセレクトショップとしてオープンし、広く地域の皆さんや、買い物に来ている方々に来店していただけるようなお店にしました。協働でスタートするために、特定非営利活動法人仙台・みやぎNPOセンターの「みんみんPresentsまち・むすび助成金」に応募しました。審査員の前で、自分たちの思いを伝え、最後は自然界の揺らぎのダンスで締めました。その結果、助成金をいただけることになり、本格的に開店に向けて準備することになりました。「コッペ」「みどり工房若林」「アトリエソキウス」「みやぎセルプ」「桑の木」の5事業所が集まり、何度かプレオープンを行い、お客様の反応やアンケートによる感想をいただき平成28年5月16日に、60種類もの商品を置く、県内初の福祉事業所の協働アンテナショップとして、晴れてオープンを迎えることができました。

現在の状況

エフブンノイチは、オープンして約半年が経ちました。その間、新聞やテレビ、情報誌などでお店を紹介していただいたこともあって、来店するお客様が増えました。特に、障がいのある方やその家族にとっては、仙台の中心街にできた、福祉事業所による雑貨&カフェということで、興味津々だったようです。実際に来店してみると、白を基調とした、柔らかい雰囲気の店内を見て「素敵だ」「おしゃれね」と言ってくださいます。手作りの品の温かみも加わって、狭いながらも独特の空間を作り上げているのかもしれません。

コーヒーを飲みに来るお客様で、週に2、3回いらっしゃる常連さんも増えてきました。ある方は絵を描くことが趣味で、今描いている絵の進み具合いを見せてくれたりします。当店だと周りに気を使わずに過ごせるとおっしゃる障がいのあるお客様、当店スタッフとのお喋りを楽しみに来てくださる方などさまざまです。ある時は、居合わせたお客様同士で話が弾み、交流が生まれたりします。また、お客様が自分の関係するイベントのチラシを持参して、お店に置いてくださいと頼まれることもあります。

こうしてエフブンノイチは、お客様同士のつながりや情報交換の場として育ちつつあります。そして、今までイベント等でしか買えなかった商品が、ここに来れば購入することができるので喜ばれています。知り合いへのプレゼントとして、ピアノの鍵盤がモチーフのペンケースを何度も買いに来てくださる方、ネコ型と家の形をした箸置きを買い求め、それらを飾って眺めているという方は、その後もネコの家族を増やすために当店を訪れます。それから、赤ちゃん連れのお客様が自分と子ども用にと、国産小麦使用のクッキーを買って帰ったりされます。

お客様には、障がいのある人たちが作った商品という意識は全くないように思えます。「デザインが気にいったから」「可愛いから」「色が優しい」と言って買ってくださいます。隣接する駐車場を利用する買い物帰りの方も気軽に立ち寄って、商品を手に取り「皆さん、器用に作るのね」と感心してご覧になります。また、エフブンノイチの店員は障がいのある人たちで、一般企業に勤めるためのステップアップの場として、それぞれの得意な面を活かしながら接客に励んでいます。

働いてみて(佐藤由美)

私は、この仕事を始めて今年で6年目になります。お店で出す軽食は、まだまだ難しいけれど、少しずつできればうれしいと思っています。エフブンノイチでは、珈琲を淹(い)れてお客様から「おいしいね」と言われてうれしいです。スタッフの森田さん、一緒に働くメンバーさんにも「珈琲淹れ上手だね」と言われました。慣れるまで少し時間がかかったけど、今は慣れてきました。これからも少しずつできる仕事を増やせるようにしたいです。お客様が、お店を気に入ってくれるとうれしいなと思っています。もっとたくさんのお客様が来てくれるように、もうひと頑張りです。たまには、ディスプレーを変えたりしています。空いた時間にはスタッフからパソコンを教えてもらっています。もっと早くパソコンを打てるようになって、フェイスブックの更新をしてみたいです。これからも仕事頑張ります。

今後の展開

これからのエフブンノイチは、もっと幅広い層のお客様に来ていただくために、新商品の開発や、ワークショップ等の企画が不可欠かと思います。そして、すでに開いているオンラインショップは、一つ一つの商品の使い方の提案もしつつ、全国展開していく方向です。

10月から、他の事業所の方や一般の方々にも、一定のスペースをお貸しして商品を販売してもらうレンタルボックスを開始しました。さらに、障がいのある方の職場見学等としても活用いただいたりしています。商品を売る、コーヒーを飲む、だけではなく、人と人との繋(つな)がりを大切に、心地良い空間を提供していけるようなお店を目指しています。

(かなざわえりか NPO法人桑の木理事長、さとうゆみ 「カフェクワノキ」メンバー、もりたくみこ エフブンノイチ店長)