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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年1月号

視覚障害者の駅ホーム転落事故と駅舎・ホームの改造

宇野和博

1 はじめに

視覚障害者のホーム転落事故が続いている。昨年8月には銀座線「青山一丁目」駅で、10月には近鉄大阪線「河内国分」駅で視覚障害者がホームから転落し、列車にはねられ死亡した。15年には阪急宝塚線で、14年には新京成線で同様の死亡事故が起きている。転落を防ぐには、何といってもホームドアの設置が求められるが、コストの問題が立ちはだかり、すべての駅にホームドアが設置されるのは遠い将来と考えざるを得ない。16年3月現在、ホームドアが設置されている駅は665駅、全国の約9,500駅の7%、1日の利用客が3,000人以上の約3,500駅と比べても19%である。国土交通省は東京五輪・パラリンピックが開かれる2020年までに800駅という目標を掲げているが、それでもホームドアのない駅が圧倒的に多い。そこで、本稿では過去の事例を基に、ホームドアのない駅でも転落事故を防ぐ方策について考えてみる。

2 ホーム上の移動の動線確保

銀座線や阪急宝塚線での事故もそうだが、近年の転落事故の中には、視覚障害者が警告ブロック沿いを歩いていて足を踏み外す事故も少なくない。これは点字ブロックの敷設の方法、つまり国土交通省のバリアフリー整備ガイドラインに本質的な問題がある。ガイドラインでは、誘導ブロックは「可能な限り最短経路により敷設する」となっている。よって、誘導ブロックは階段から数メートル進んだところで直角に曲がり、最寄りの車両のドアに誘導している。点字ブロックとは、線状の誘導ブロックと点状の警告ブロックがあるが、ホームの端の警告ブロックは「止まれ」を意味するものであり、それに沿って歩く誘導ブロックではない。しかし、誘導ブロックがホームの前方から後方まで敷設されていないため、多くの視覚障害者は警告ブロック沿いを歩いている。

なぜホーム上を移動するのか。すべての駅で同じ位置に階段があればよいが、乗車駅では3両目だが、降車駅では5両目というようにずれていることがほとんどだからである。結果的に、視覚障害者が乗車前に乗りたい車両に移動する時、または降車時に階段近くの誘導ブロックにたどり着くには、警告ブロックに沿って歩かざるを得ない。

しかし、この状態は交通弱者である視覚障害者が線路までわずか0.8~1メートルのかなり危険な場所を歩いていることを意味する。中には、警告ブロックよりホーム側は人が立っていたり、柱があるのでさらに線路側を歩く人もいる。言うまでもないが、健常者は通常、ホームの端は歩かない。重大な事故をなくすにはヒヤリ・ハットを減らすことが重要であり、視覚障害者が安全にホーム上を移動できるよう、警告ブロック以外の動線を確保する必要がある。

3 内方線の敷設位置と地面の材質の工夫

従来、ホームの端には警告ブロックしかなかった。しかし、これでは視覚障害者がホーム側と線路側を間違える恐れがあり、ガイドラインに内方線の敷設が盛り込まれた。その結果、今日では多くの駅ホームでガイドライン通りの内方線が敷設され、有効活用している視覚障害者もいる。

一方、内方線の存在すら知らなかったり、気付いていない視覚障害者も少なくない。現に銀座線や阪急宝塚線、新京成線の事故現場にも内方線はあった。これは内方線の設置位置に問題があるように思う。目で確認できない視覚障害者にとって、内方線を確認するには、杖先か足裏で感じ取るしかない。しかし、白杖で点か線かを認識するのはかなり難しく、靴底の硬い革靴やヒールをはいていると足をグリグリずらさない限り、識別することは困難だ。おそらく中途失明した直後の人にはほぼ不可能と思われる。だが、ホーム上のしかも安全に関するデザインは、本来だれにでも瞬時に認識できるものでなければならない。そこで、内方線をもう少し警告ブロックと離して敷設してはどうか。線状の内方線が点状の警告ブロックと離れていれば杖でも感知しやすくなり、どんな靴でも認識しやすくなる。

警告ブロックより線路側を歩いた時の危険性に気付けるために、もう一つ考えられることがある。ブロックの外側の地面の材質をザラザラにし、内側を歩いた感覚と違うものにするのである。こうすれば、仮に内方線を認識できなくても地面の材質という手がかりにより、ホーム側と線路側を区別することができるようになる。ちなみに、ある国ではホームの一番端に警告ブロックが敷設されているそうである。よって、警告ブロックを踏んだ地点で、ホームの本当の端にいることが分かるデザインになっている。

4 非常停止ボタンと転落検知マット

万が一ホームから落ちたとしても最低限、命を守る策も講じてほしい。現在の規則では、非常停止ボタンか、転落検知マットのどちらかを設置すればよいことになっている。しかし、非常停止ボタンがあっても「河内国分」駅がそうだったように、駅員がホームにいないため、ボタンが押されないこともある。また、視覚障害者は待避スペースに逃げることが難しいため、電車の進入時には1秒でも早く電車を止めなければならない。特に駅員が終日いないような駅では、必ず転落検知マットを敷設してほしい。

(うのかずひろ 筑波大学附属視覚特別支援学校教諭)