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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年1月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

障害者アートをブランドに
ARTBIRITY+(アートビリティプラス)スタート

中島倫子

2016年、アートビリティは、創立30周年という節目を迎え、アートビリティ自らが、登録作品の活躍の場を広げ、商品企画や販売チャンネル拡大を目的としたARTBIRITY+(アートビリティプラス)というブランドを立ち上げました。

アートビリティプラスは、障害者の経済的自立を支援する事業を行なっている社会福祉法人東京コロニーが、“才能に障害はない”と謳(うた)った上で、しかし、確かに存在する障壁を取り払うために作られたシステム「障害者アートバンク」や「アートビリティ」が、今後も有効に機能し、障害者アーティストにさらなる夢と希望をもっていただけるブランドとして、各紙誌からも注目されています。

ノーマライゼーションのビジネスモデルとなった障害者アートバンク

それでは、アートビリティプラスに先立ち、アートビリティについて説明します。

1986年、いまだ障害者アートが社会に普及していなかった頃、アートの才能分野においては障害の有無は無関係であることを“才能に障害はない”というキャッチフレーズにして、全国に眠る障害者アーティストの発掘、職能開発事業を展開しました。それが、『障害者アートバンク(アートビリティの前身の呼称)』です。その仕組みは、1.対象者は全国の障害者で、2.居宅、施設に居ながらにして作品を応募でき、3.審査に合格した作品は登録作品として複写し、障害者アートバンクにストックされます。4.一度登録された作品は、作者の状況に関係なく繰り返し使用可能。5.作品の締め切りやクライアントとの交渉といった精神面にかかる負担も事務局が請け負うので心配無用。6.著作権利用許諾契約を作家と障害者アートバンクとが締結しストック作品を公開。7.作品使用料は既成のフィルムライブラリーと同様の利用価格で貸し出し、その60%を作家に支払うという画期的な事業としてマスコミからも注目されました。

2001年、「体のハンディを乗り越えて」というような同情や賞賛型の名誉ではなく、名実ともに作品の素晴らしさの評価の波及と作家の所得支援を目標に『アートビリティ』に名称変更。そして、2016年10月、前述の目的の実現に向けて、アートビリティプラスというブランドを立ち上げました。

アートビリティプラス誕生の社会的背景

この30年の間に、障害者アートを取り巻く環境も変化してきました。障害者アートは、アール・ブリュット、アウトサイダーアート等と呼ばれ、日本国内はもとより、ヨーロッパを巡回するまでになり、アートの新潮流を確立しています。

30年前は障害者アーティストの発掘と障害者アートの啓蒙・普及が事業の目的の一つでもあった障害者アートバンクは、時間の経過とともに、障害者アートに正当な対価を支払うことで、障害者アート全体の価値や評価の底上げを実践しました。障害者アートが社会に一通り浸透した今日では、求められる役割もさらに変化してきています。従来型の受動的な登録画像貸し出し代理店ではなく、登録作家の著作権を守った上で、著作権者である作家とクライアントとの調整や提案が求められています。原画が観(み)たいという企業に原画を貸し出したり、クライアントのニーズによっては登録作家に描き起こしを依頼したり、独占使用の調整をしたりというように、単なる利用斡旋の代理店から、作家というタレント、登録作品という商品の権利を守り育てるプロダクションに変化してきました。

ブランド誕生の企業内的経緯

このような好機がいただけた経緯には、人の繋(つな)がり、仕事の繋がり、継続は力なりといった、至ってありきたりな、されど大切なことの積み重ねがありました。

まず、第一のきっかけは、アートビリティ大賞協力企業でもあるマルイグループ福祉会様が、株式会社丸井様に本業を通じてのアートビリティへの協力の提案をしてくださったことがあります。誰もが憧れる百貨店・大規模小売店という販売チャンネルを提供してもらえるという提案をいただけたことが、アートビリティ、そして、全国の登録作家の夢の実現ともいえる、アートビリティプラス誕生の端緒でした。

この願っても無い好機を、アートビリティの諮問機関ともいうべき審査員の先生とのミーティングで報告させていただきましたところ、審査員の一人、東京工芸大学教授・福島デザイン代表福島治氏より、販売チャンネルに見合う商品展開の提案をいただいたのです。その提案の内容は、アートビリティ登録作品のアートとしての魅力を引き出す商品展開であることを大前提とした上で、障害者アートを使用するというプラスαだけでなく、フェアトレードとオーガニックコットンのダブル認証をさらにプラスするという提案でした。福島氏のこの提案に基づき、株式会社FCIの入江英明氏をご紹介いただき、インドの綿農家で働く人々の生活と健康と環境を守り、障害者アーティストの所得支援につながる、日本初のブランドが誕生したのです。

ブランド力を高めるために

アートビリティプラスのブランドコンセプトは『アートミュージアムグッズ』。アートとして素晴らしい作品をデザインしてさらに魅力的な商品に展開し、『アートを身近に感じ、使用することで生活に潤いを与えるグッズ』ということです。まずはアートの素晴らしさ、デザインのお洒落(しゃれ)さから手に取っていただき、パンフレットや商品タグ、店舗内のパネル等を読んで、障害者アートやフェアトレード&オーガニックコットンを認識してもらい、その購買行動の裏付けとなることが狙いです。

そこで、「中野マルイ」での展示販売では、什器や用意したバナーサインもミュージアム売店を意識し、商品となった原画も販売しました。また、株式会社FCI様は、日本で唯一オーガニックコットンとフェアトレードのダブル認証を取得した企業で、OEMにより製造していただくことにより、オーガニックコットン&フェアトレードと障害者アートとのコラボ製品は日本初の試みとなり、このことでもブランド力が高まったと言えます。

登録作家の反響と今後の展開

仕事に人を合わせるのではなく、人に仕事を合わせていけば、すべての人に合った職種を開発できるというのがアートビリティの母体である東京コロニーの理念です。応募作品や登録作品に対しても同様なことが言え、アートビリティとしてもこの30年間、使用機会の増大に尽力してきました。

応募される作品の中には、カレンダーやポスター向きの作品、冊子の表紙に向いている作品、原画を見ていただきたい作品、グッズに展開したい作品等々、さまざまな可能性を秘めた作品が応募されます。しかし、これまでは、どうしても印刷物、紙媒体に使用が多かったことは否めません。それが、今回、前述のとおり、グッズ展開した商品や原画を販売できる、素晴らしい販売チャンネルを提供くださった株式会社丸井様。マルイ店舗で販売できるグッズ展開やブランドデザインの監修をしてくださったアートディレクター福島治氏。実際に、インドのオーガニックコットンの農家やフェアトレードの縫製工場を駆け回って製品を作ってくださった株式会社FCIの入江英明氏。これらの皆様との協力により、アートビリティは登録作家に合った新たな仕事を提供できる可能性を活かす道を切り開くことができました。

今回、商品に使用された登録作家のみなさんは「自分の作品がグッズになってお店で売られるなんて夢みたい」「自分のうちの近くのマルイでも販売してほしい」とみなさん大喜びでした。また、使用されなかった登録作家さんの中には、「これからこのような展開があるのならさらに真剣に制作しよう」と思われた方もおり、作家さんの中でもいい刺激になっているようです。

2017年は、池袋マルイ、国分寺マルイ等で期間限定の販売会を予定しています。今後も、アートビリティの登録作品をデザインしたオリジナルグッズと、それを販売するチャンネルのブランドとして、アートビリティプラスを大切に育てていく所存です。

(なかじまみちこ 社会福祉法人東京コロニー アートビリティ)