音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年1月号

列島縦断ネットワーキング【兵庫】

新しい地域拠点:地域共生館「ふれぼの」
~“共生のまちづくり”の実現に向けて~

音川礼子

地域共生館「ふれぼの」開館の経緯

西宮市社会福祉協議会(以下、西宮市社協)では、2016年4月“共生のまちづくり”に向けた新しい地域拠点の形として、地域共生館「ふれぼの」(以下、「ふれぼの」)を開館しました。

「ふれぼの」は西宮市の南西部、商業施設と住宅が混在した利便性のよい場所にある約160坪の土地に建つ4階建ての白い建物です(写真1)。「ふれぼの」という名称は、公募で多かった「ふれあい」「ほのぼの」を略してつけられました。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。

地域福祉活動に役立ててほしいとの意向のもと、寄贈があった土地の活用について、市と協議をしたところ、西宮市社協が福祉目標としている『みんなで創り出す「共生のまちづくり」』に向けた展開を目指す新しい地域拠点「ふれぼの」をつくることになったのです。

原点となるのは「青葉園」活動

1981年から西宮市社協では、重い障害のある人が地域で自分らしい暮らしをしていくための活動拠点として「青葉園」を運営してきた歴史があります。

“重い障害のある本人は地域で暮らす主体者である”という理念のもと、「青葉園」の活動は園内にとどまることなく、自分が暮らす地域の公民館等での住民との地域交流活動の実施など、地域の一員としての活動を展開してきました。

それらの活動により、21年前に起こった「阪神・淡路大震災」の際には、職員が駆けつける前に、近隣住民が本人を助け出したという出来事もあり、地域に根差した活動こそが大切と実感してきました。

大切にした地域とのつながり

その「青葉園」から「ふれぼの」に、通所者本人(以下、本人)20人が籍を移し、これまでの「青葉園」での実践を踏まえ、さらにダイナミックに地域展開してくことを目指して活動をスタートさせました。

もちろん、建設が決まった当初から、「ふれぼの」でも大切にしてきたことは地元地域とのつながりづくりであり、住民の方々にとっても「ふれぼの」を自分たちの地域拠点と思ってほしいという願いがありました。

建設前に始めた懇談会では、自治会長をはじめ、主要な地域団体の役員の方々に集まっていただき、単なる建設計画の説明ではなく、西宮市社協が目指すことを丁寧に話しました。

「重い障害のある本人が通所する拠点でもあり、しかも子どもから高齢者まで住民誰もが集える場を目指すこと」「障害のある本人の自立に向けた暮らしの体験ができる部屋を作りたい」「人材育成を目指した学びの場の機能も果たしたい」などを伝えたところ、当初は住民の方々の困惑もみられました。

そんな状況の中で、取り壊し前の建物での「夕涼み会」、そして更地になった空き地での「芽生えの宴」といった地域に開かれた行事を開催しました。

いずれの行事も、1日のイベントにはなりますが、重い障害のある本人を含めて、子どもから高齢者までいろいろな人たちが同じ空間に自然に居るという状況が生み出され、言葉ではなかなか伝わらなかった「ふれぼの」が目指しているイメージが地域住民の方々にも伝わり、少しずつ理解が深まっていったように思います。

「ふれぼの」の活動状況

「地域活動センターふれぼの」(生活介護事業所)では、毎朝、リフト車やタクシーを使って本人の家へ職員が迎えに行き、みんなが「ふれぼの」に集まって活動が始まります。

「ふれぼの」1階には、介護保険改正に伴う総合事業のモデルとしての地域カフェ「ふれぼのカフェ」があり、本人はそのカフェ当番をしたり、創作活動やガーデニング活動など、曜日によって本人それぞれが選んだ取り組みを行なっています。

「青葉園」で行なっていた木工キーホルダーや紙漉きハガキづくりなどの生産活動も続けており、時には交流を目的に本人が暮らす地域のお祭りにも出店しています。

また、住民からの「本を置いてほしい」という要望から、2階フリースペースに作ったミニライブラリー「ほのぼの文庫」では、本を通して来館者との交流を図るために、本の貸出や「電車」「野球」など本人の好きなテーマの特集や、そのテーマについて語る「語り部屋」を定期的に開催しています。

「語り部屋」の一環として、10月にはハロウィンイベント「トレジャーハロウィン」を企画、地域の子どもたちと一緒に、みんなで仮装や宝探しをして楽しみました(写真2)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真2はウェブには掲載しておりません。

これらの「ふれぼの」の活動で大切にしていることは、本人一人ひとりが人とのつながりの中で「役割」を持ちながら活動するということです。

その「役割」とは、カフェでコーヒーを淹れたり片付けをするということではなく、そこに居て温かくお客さんを迎え入れる「看板娘・看板息子」であること、それこそが大切な「役割」と考えています。

そして「役割」は本人だけが果たすものではなく、子どもから高齢者、また私たちも含め誰もが持つべきものであり、「役割」があるということは、誰もが地域の中で主体的に生きるということに繋がると考えています。

「ふれぼの」から生まれていること

開館当初は、一般の方が「ふれぼの」に来ることは少なく、定期的に実施している介護予防体操やセミナー等への何らかの目的を持った来館が多かったのですが、夏前、周辺にも少しずつ認知され、近くの子どもたちが放課後に宿題やゲームをしにやってくるようになりました。

放課後の短い時間、「ふれぼの」に来る子どもたちは、本人が車いすに乗っているのを不思議そうに、また興味深く見つめたりしていましたが、夏休みに入ると、子どもたちは朝からやってきて一緒の空間にいる時間も長くなり、だんだんとその距離が近づいていきました。

気づけばお互いの名前を覚えていたり、ガーデニングの水やり当番を一緒にしていたり、エレベーターに乗ろうとする本人の車いす介助を手伝ったりと、子どもたちの自然な行動が見られるようになってきました(写真3)。それらの行動は、同じ空間にいるということで生み出されたのだと思います。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真3はウェブには掲載しておりません。

夏休みが終わり、今度は赤ちゃん連れのお母さんたちがフリースペースで過ごすようになり、親子から声が掛かる姿も見られるようになりました。

また、カフェでも最初はお客さんがどうやって本人に話しかけてよいか分からない様子でしたが、顔なじみになると、カフェ当番の本人とごく自然に会話できるようになってきています。

特別なことをするのではなく、みんなが当たり前に一緒の空間に居る「ふれぼの」から、私たち職員も日々、予期せぬ新しいことが生まれることを楽しみにしています。

「ふれぼの」から目指していきたいこと

「ふれぼの」は重い障害のある人を中心にしながら、子どもから高齢者まで、誰もが「居場所」と「役割」を持ちながら交わることができる“共生のまちづくり”のモデル拠点として、歩み始めたばかりです。そして、「ふれぼの」での実践は、この場所に留(とど)まることなく、全市に普及していきたいというのが私たちの願いです。

新たな建物を建てることは難しくても、今ある活動を工夫すれば、重い障害のある人を主人公に“共生”を目指した地域づくりは可能です。

地域の中で誰もが主体的に生き合う“共生のまちづくり”の実現に向けて、さまざまな人を巻き込みながら展開していく、そんな活気あふれた「ふれぼの」実践を積み重ねていきたいと思っています。

(おとかわれいこ 西宮市社会福祉協議会共生のまちづくり課)