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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年1月号

報告

第39回総合リハビリテーション研究大会

矢野秀典

平成28年11月5日(土)・6日(日)に、目白大学新宿キャンパスにて実施された第39回総合リハビリテーション研究大会に参加した。大会に先立ち、前日の4日(金)には前夜祭が執り行われた。

第1部として、鼎談によるアッピール「障害者福祉のメッカとしての新宿~日本の国際障害者年から障害者権利条約締結までの歩みを中心に~」をテーマに田中徹二氏(日本点字図書館理事長)、春田文夫氏(日本障害者協議会理事)、松矢勝宏氏(第39回大会実行委員長)の3人による鼎談が行われた。我々のようなリハビリテーション職に就いているものでも、近代の障害者福祉の流れをよく理解せずにその職に就いているものも多いと思う。この福祉の流れをよく理解することができたと思う。

また、本大会が実施されている場である新宿区は、本大会主催者である公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会が位置するところであり、各種の障害者団体が立ち上がった土地柄であるとのことである。大会受付の向かいでは、特定非営利活動法人日本障害者協議会、日本障害フォーラムなど数多くの各種障害者団体がブースにパンフレット等を置き、その活動をアピールしていた(写真1)。そのブースには、多くの参加者が集まっており、障害者団体の活動に対し、参加者が深い興味を持っていることが伺われた。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。

第2部は、上田敏氏(日本障害者リハビリテーション協会顧問)、大川弥生氏(産業技術総合研究所)両名の講師による「学生と若手ワーカーのためのICF研修会」であった。ICFは、リハビリテーションを理解する上で、とても重要なキーワードであるが、リハビリテーションに関わるものが完全には理解できていないことも多いと思われる。目白大学及び他の教育機関の医療・福祉系大学生が多く参加し、活発な質疑応答もあり、盛り上がりを見せていた。私個人においても、リハビリテーションに関する基礎を再確認する上で、とても良い機会になった。

翌日の5日(土)には、本プログラムが始まった。開会式は、主催者の炭谷茂日本障害者リハビリテーション協会会長の挨拶から始まり、来賓の方々の挨拶があった。続いて、講演「障害者をめぐる動向」が行われた。国際動向は松井亮輔氏(日本障害者リハビリテーション協会副会長)、国内動向については藤井克徳氏(日本障害フォーラム幹事会議長)からの障害者に関わるこれまでの歴史から最新情報までについての講演であった。2015年9月に、持続可能な開発にかかる国連サミットで採択された「われわれの世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(SDGs)」、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)」に関する理解にとてもよく役立った。

午後のプログラムは、熊谷晋一郎氏(東京大学先端科学技術研究センター准教授)による特別講演「当事者の立場から考える自立とは」から始まった。自立や自律を健常者のみならず障害者にも普遍化しようとすることは、障害者の中に自己決定能力や自立度による縮小再生産的な序列化をもたらすことになる。

自立とは、何者にも依存しないということではない。冗長性と多様性を備えた分散された依存先を持つ状態こそが自立である。自分で決定し、行動するという自己コントロール規範は、十分な選択肢(依存先)や自己の身体や環境に関する予測を与える知識、統合された自伝的記憶がなければ困難となるという内容であった。

私は、リハビリテーション関連職として、日常的に「自立」という単語を使用する。しかしながら、自立と自律、依存状態などを深く考えずに使用していた。その単語の奥には、健常者と障害者との環境の相違による自己決定過程の違いなどがあることに気が付いていなかった。まさしく、目からうろこが落ちるような講演であり、本大会の中で最も深い感銘を受けた講演であった。

続いての、松矢勝宏氏の基調講演「サービスの利用者が主役になる地域中心の総合リハビリテーションの実現」では、総合リハビリテーション研究大会の歩みと第39回大会のテーマ設定までの経過とその意義についての説明がなされた。第36回大会から本大会までのテーマである、「総合リハビリテーションの深化を求めて」に込められた、社会参加の主体であるサービス利用者のニーズ、その実現のための環境因子としての専門職・従事者の支援と地域社会のあり方等の観点の統一化を図る努力について述べられた。

第1日目最後のプログラムは、シンポジウム1「共生社会の実現のために~総合リハビリテーションの発展に期待する」(写真2)であった。まず、基調提言者の村木厚子氏(前厚生労働省事務次官)から、少子高齢化の中での雇用政策、社会保障政策の動向、誰もが活躍できる社会をどう作るか、社会保障をどう構築するか、「われわれ」は何をするか、といった事項について問題提起された。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真2はウェブには掲載しておりません。

これに対し、高齢者領域の提言者:樋口恵子氏(高齢社会をよくする女性の会理事長)は、人生100年時代の到来と人生の使い方に関して発言された。障害者領域の提言者として、高井敏子氏(加古川はぐるま福祉会理事長)は、障害者雇用と多様な働き方について述べられていた。当事者としての提言者の齊場三十四氏(佐賀大学名誉教授)は、医療系等関連大学教育における、「人」の理解欠落傾向に対する不安についての発言があった。そして、最後に指定討論者として、大川弥生氏がICFの概念を用いた諸問題への考え方を述べて締めくくった。

第2日目の午前は、5つのテーマ(支援を必要とする子どもとその家庭への継続的な関わりをめぐって、発達障害のある大学生の支援をめぐって、コミュニケーション・意思疎通支援をめぐって(支援機器の活用を含む)、障害者雇用における差別禁止と合理的配慮等の課題をめぐって、介護予防をめぐる今日的課題【目白大学共同企画プログラム】)を掲げた第1~5分科会が開催された。

私は、パネリストの一人として第5分科会に参加した。平成30年3月から、全国で介護予防・日常生活支援総合事業(新しい総合事業)が実施されることとなっている。このような状況下において、簡単な体操を活用した地域住民の健康づくり、口腔機能の向上がもたらす効果とプログラム推進における課題、生活機能低下を防ぐための食・栄養について、デイサービスにおける介護予防の実践について話し合われた。フロアからの質問や意見も数多くあり活発な議論がなされた。

そして、本大会最後のプログラムは、シンポジウム2「地域包括ケアと地域実践に関する今日的な課題をめぐって」(写真3)である。コーディネーターの白井幸久氏(東京都介護福祉士会会長)の地域包括ケアの概要説明の後、議論が開始された。平川博之氏(全国老人保健施設協会副会長)は、老人保健施設における介護予防サロンの取り組み及びその効果について述べられた。内田千惠子氏(日本介護福祉士会理事)は、介護福祉士の仕事内容と認知症対応型通所介護事業での支援事例を紹介した。秋山正子氏(白十字訪問看護ステーション統括所長)は、訪問看護の経験から、住み慣れた地域で暮らし続けることを支える取り組みを紹介した。コーディネーターでもある黒澤貞夫氏(日本生活支援学会会長)は、地域包括ケアにおける高齢者への生活支援や社会福祉の理念について述べ、最後に今日的課題に言及し、このシンポジウムを締めくくった。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真3はウェブには掲載しておりません。

第39回研究大会の前夜祭からの3日間を通して、リハビリテーションとは、本当に幅広いものであり、さまざまな人(職種)で支えられているものだということを感じた。そして、それらの連携が非常に大切なものであることも考えさせられた。近年は専門化が進み、それぞれの特殊性が重んじられている面もあるが、対象者を全人間的に捉える総合リハビリテーションの重要性を再認識した大会であった。

(やのひでのり 目白大学保健医療学部理学療法学科教授・学科長)