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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年1月号

ほんの森

障害者運動のバトンをつなぐ
―いま、あらためて地域で生きていくために

企画編集 日本自立生活センター(JCIL)

評者 山下幸子

生活書院
〒160-0008
新宿区三栄町17-2木原ビル303
定価(本体2200円+税)
TEL 03-3226-1203
www.seikatsushoin.com

本書は、障害当事者運動の成果や、その過程に存してきた課題や論点を捉えながら、地域自立生活をめぐる現在的な課題や障害者運動の継承というテーマを考えるものである。

日本の障害当事者運動は1970年代に高まりを見せる。介護を親家族や入所施設にしか頼れない状況、社会に通底する優生思想に基づく価値観等、障害者運動推進の根底には、障害者たちが日々直面している厳しい差別と無施策の実態があった。そこから長い年月をかけ、街づくり運動や、介護保障制度獲得の運動とともに、障害者本人を生活の中心とし他人介護を活用して地域で暮らすという「自立」をめぐる価値の転換をもたらす運動が、各地で進められてきた。こうした運動の成果は、現在を生きる障害者や関わる健常者たちの日常に影響を与えている。

一方、地域自立生活に向けた運動実践や施策は進んできたものの、自立生活の現場でその進化や広がりに対応するとともに、これまでの障害者運動のスピリットを継承していくことは容易ではない。

この問題意識について、地域自立生活の実際に即し論点をまとめ具体的に文章化されている書籍は、評者が知る限り本書を除くと決して多くない。地域自立生活の推進を考えるにあたり、本書を読むべきだと評する一つの理由はここにある。介助派遣の課題等、地域自立生活現場からの課題提起については、小泉浩子と渡邉琢による論考が詳しい。また熊谷晋一郎からは、障害者の経験の言語化や、「自立」など障害者運動のキーワードを障害当事者の現実に即した言葉で紡ぎ直す必要が指摘され(175~181頁)、大野更紗は難病者の運動の方向性(147~149頁)等を述べている。

本書を読むべきだと評するもう一つの理由は、著者自らの経験を元にした障害者運動史の記述から現在的な課題を提示している点にある。特に矢吹文敏や尾上浩二の論考からは、戦後すぐから現在までの、障害者が生き、運動してきた軌跡が理解できる。尾上は1970年代青い芝の会運動を元に、障害者運動の基本的な思想性として、社会における優生的な価値観の問い直し・闘いへの志向があると指摘する(124頁)。これは決して「昔話」ではない。悲しくも2016年7月26日の相模原市での障害者殺傷事件は、現在、すべての人が優生思想に立ち向かう重要性を再び胸に刻むものとなった。

地域社会で障害者が「他の者と平等」に暮らすために、障害当事者の視点に根差した運動実践が依然求められる。その方途を考えるために、本書の一読を勧めたい。

(やましたさちこ 淑徳大学教授)