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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年2月号

当事者・関係者の声

分離教育から抜け出すために
―特別支援学校の考察―

尾上裕亮

なぜ障害を理由に、子どものときから特別な学校へ行かなければならないのか。障害児教育に関わる人は、この問いを常に考える必要がある。

私は、今の特別支援教育は分離教育だと考える。本稿は、日本が分離教育から抜け出すために何が必要かを検討する。

1 特別支援学校数と在籍者数

特別支援教育資料(文部科学省、2016)によると、2015年の特別支援学校の状況は次のとおり。

・1,114校ある。制度が新しく変わった07年は1,013校で、8年間に毎年4~21校のペースで増えている。(特別支援教育資料(平成27年度)集計編、p8)

・在籍者は137,894人。07年は108,173人で、8年間で毎年確実に増えている。(同上、p9)

・転入・転出状況では、14年の特別支援学校への転入者は12,099人、転出者は4,900人である。06年からのデータをみれば、転出者すなわち普通学校に移る人も増えているものの、転入者よりかなり少ない。(同上、p7)

これらのデータのみで分離教育だと断定するのは強引だ。ただ、教育分野において障害児だけの空間が増えているのは事実である。

2 特別支援学校の必要性とは

障害児教育には、障害の改善を目的にした活動(以下、治療教育)と、同年代の子どもとコミュニケーションをとる活動(以下、仲間活動)が必要である。しかし特別支援学校は、治療教育を重点的に行うための分離した場であり、障害児以外との仲間活動が必然的に蔑(ないがし)ろにされている。

特別支援学校は、普通学校に準ずる教育を施すとともに、障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技能を授けることを目的にしている(学校教育法第72条)。そこでは、子どもの健康や心理的な安定を軸に据えて、個々に応じた指導が行われている。

私は9年間、養護学校に通ったが、コンピュータでさまざまなことに挑戦する、グラフィックスとプログラミングの勉強をするなど、「障害があっても何でもやれる」ことを教わった。

一見、特別支援学校が良いように錯覚してしまう。しかし障害児も子どもで、否応もなく障害児以外と生きていかなければならない。そして彼らも、自分の住む地域の人たちと、ともに生活する権利がある。障害により特別な世界に、しかもそれが最善な方法のように誘導することはやめてほしいし、そうさせられる筋合いはない。特別支援学校の制度によって、治療教育と仲間活動は二者択一のものにされてしまう。これは障害児教育ではない。

特別支援学校は仲間活動に課題があるということは、教育関係者も熟知している。ではなぜ、普通学級で治療教育を行う試みが普及しないのか。その本質を横田弘は著書のなかで次のように述べている。

養護学校における障害児教育は…「障害児」の発達を保障するという、一見科学的、合理的にみえる教育理論、あるいは「障害児」がクラスに入った場合労働過重になるという一部教諭の危惧、また「障害児」とともに学んだ場合、我が子の成績が落ちる、つまり将来我が子が優秀な学校に入れなくなるという…エゴイズムがそれを支えているのである。
(横田弘『〔増補新装版〕障害者殺しの思想』、2015、現代書館、p164。傍点は筆者)

あえて分離した特別支援学校で治療教育を行うのは、完全に大人の論理、健常者の論理でしかないのである。

3 普通学級で治療教育を

治療教育と仲間活動を両立させるためには、普通学級を中心とした治療教育を行うことが重要だ。そのためには、国及び自治体が次の2方針を明確に打ち出し、実施することが欠かせない。

1.特別支援学校を無くすこと

2.治療教育は可能な限り分離度が少ないところで行うこと

1に関しては、前述のとおり、特別支援学校は良くない制度である。良くないものを残しておくのは、施策として愚かである。

2については、国内外の各地で良い事例がたくさんある。私は24年前、親の仕事のためアメリカのヒューストンに3年間住んでいたが、現地の小学校は「どうすれば普通学級で長く過ごすことができるか」という視点で支援計画を立ててくれた。これは当時、米国でできたばかりのIDEA法の試みだったが、障害児を「最も制限の少ない環境で育てる」という考え方は現在、各地で広まってきている。

施策として、普通学級中心の障害児教育をどのように行うのか。次の仕組みはどうだろうか。

・子どもが同じ内容で学習できる教科単元のときは、合理的配慮を行いながら一緒に学ぶ。

・内容が合わなければ、その子用の教材を作成し、普通学級で学ぶ。

・普通学級で行えない治療教育が必要なときは、その時間だけ別の部屋に移動。ただし、どんなに長くても、朝と帰りのホームルーム、音楽、図工・美術、給食、学校行事及びその準備は普通学級に戻る。

・手術後のリハビリなど長期間の治療教育が必要なときは、普通学校が訪問教育を行う。分離する目的と期間を明確にしておく。

実施するのは、簡単ではないかもしれない。しかし、日本の教員は大変優秀で、その専門性があれば実現できるはずである。

(おのえゆうすけ 障害連(障害者の生活保障を要求する連絡会議))