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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年2月号

1000字提言

持続可能な開発目標(SDGs)と人権

林陽子

2000年に開かれたミレニアム首脳サミットは、地球上から貧困をなくすために2015年を目標年度としたミレニアム開発目標(MDGs)を採択した。その15年間が終わり、MDGsは目覚ましい成果を上げたと評価されるものの、達成されなかった課題も多く、2015年の首脳サミットは、2030年を目標年度とする持続可能な開発目標(SDGs)を採択した。17のゴールのうち5番目に「ジェンダー平等」が掲げられているが、何をどのようにすればこの目標が達成されたと評価されるのか、これを測定するための指標(インディケーター)作りが、現在、国連機関の各所で行われている。

国連内でのジェンダー問題に関するシンクタンクの国連ウィメン(UN Women)が作成したたたき台には、たとえば、次のような質問が並んでいる。

「女性差別撤廃条約にしたがった女性差別の定義を持った国内法があるか?」「同一価値労働同一賃金を規定した国内法があるか?」「婚姻最低年齢は男女ともに18歳か?」「議会選挙にジェンダー・クォータ(たとえば候補者の一定割合を女性とする割り当て制度)はあるか?」

これらのいずれの問いにも、日本の答えはNOである。

日本国憲法14条は性差別の禁止を定めるが、では何が性に基づく差別かを定義した法律はない。労働基準法は同一労働同一賃金を定めるが、同じ価値の仕事(同一価値労働)に対する同じ賃金については明文を持たない。民法では婚姻最低年齢は男性18歳、女性16歳である。これを女性に対する差別と考えない人もいるが、16歳はいまだ高校在学中の年齢であり、結婚や出産よりは、教育を受けて自分の可能性を高めなければならない時期である。公職選挙法にジェンダー・クォータに関する手がかりとなる規定はない。2016年にようやく、与野党別々に女性の政治参画を推進する法案を作成し国会に提出したが、2017年1月現在、審議未了のままである。

このような日本の女性たちがジェンダー平等を求めた際に直面する法的無権利状態(根拠として使える法律がない、あるいは、法律そのものが女性に対して差別的である状態)は、障害をもった人々の問題と共通する。たとえば、法律そのものが欠格条項を定め、障害者を排除する、あるいは、障害者の代表を意思決定の場に送るための積極的な措置がない(そのような措置を義務付ける法律がない)といった状態である。

SDGsの標語は「誰ひとり取り残されない」である。これをただの題目で終わらせず、本当に変革をもたらすものにしなければならない。貧困・格差の大きな原因である差別をなくすための運動が必要である。


【プロフィール】

はやしようこ。茨城県出身。1983年より弁護士(現在、アテナ法律事務所所属)。外国人女性のためのシェルターなどで女性の権利擁護の活動に取り組んできた。2008年より国連女性差別撤廃委員会委員。2015年より同委員長を務めている。