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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年2月号

解説 障害者差別解消法 第9回

障害者差別解消支援地域協議会

青木志帆

■差別解消支援地域協議会とは

障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下、「法」という)では、「関係機関が行う障害を理由とする差別に関する相談及び当該相談にかかる事例を踏まえた障害を理由とする差別を解消するための取組みを効果的かつ円滑に行う」ために、障害者差別解消支援地域協議会(以下、「地域協議会」という)を組織することができる、としている。おおざっぱにいうと、その自治体の区域内における障害を理由とする差別をなくすために関係機関が連携する要となる、地域の協議会である。

以下、地域協議会の活用法について解説するが、より詳しく知りたい場合は、内閣府が発行している「障害者差別解消支援地域協議会設置の手引き(以下、「手引き」という)」をご覧いただきたい。手引きでは、モデル事業を実施した7つの都市の事例が紹介されている。

分類 目的 想定される議題例
個別紛争の解決 複数の機関によって紛争の防止や解決を図る際の事案の共有  
構成機関等による斡旋・調整等紛争解決の後押し 法務局が主催する人権救済申立事件について、判断の基礎となる障害特性や、地域生活を支える社会資源に関する情報提供を行う。
相談体制の整備・充実 関係機関等が対応した相談にかかる事例の共有 相談窓口をもっている機関を構成員とし、各機関に対し、障害を理由とする差別に関する相談件数を提出いただき、地域での差別相談に関する傾向を分析する。
障害者に関する相談体制の整備 当該自治体が相談窓口を設置する際の仕組みづくりに関し、意見を求める。
施策の充実 障害者差別の解消に資する取組の共有・分析 当該自治体の他、公的、民間問わず、障害を理由とする差別の解消のために行なっている取組紹介をしてもらう。
障害者差別の解消に資する取組の周知・発信や障害特性の理解のための研修・啓発 構成団体が主催する障害理解に関する研修会やイベント、フォーラムにつき、構成団体を通じて周知啓発し、参加を求める。
当該自治体をはじめとする構成団体間でコラボして、障害理解に関するイベントを企画する。

手引きによると、地域協議会を開催するケースとして、6点ほどあげられている。これらを筆者の方で分類したのが上の表である。

■自立支援協議会とどのように異なるのか

法の最終目的は「障害のある人とない人との共生」であり、そのための手段の一つが地域協議会である。このため、地域協議会も、可能な限り「障害のある人とない人との共生」を実現できるような構成にする必要がある。

この点、現在は、多くの自治体に設置されている自立支援協議会(障害者総合支援法85条の2)と地域協議会とを兼ねる運用が見られる。ただ、そのまま兼ねるだけでは、前記の「多様性の確保」の観点からは、若干構成メンバーが障害のある人及びその支援者に偏りがちになることは否定できない。

このため、自立支援協議会と兼ねるとしても、部会制にするなどの工夫をして、通常、自立支援協議会にはあまり参加しないであろう構成員(たとえば商工会議所関係者、交通事業者、金融機関、法務局など)を加えることが望ましい。

■地域協議会で何ができるのか

以下、地域協議会を使ってどのような差別解消施策が可能か、事例を用いて紹介する。

事例

地域協議会に、事業者(仮に◯◯商店会の会長、としよう)が参加していた。事務局(行政)が実施した差別事例収集の結果が地域協議会で報告されたあとで、この事業者委員が感想を求められたが、「私たちは、日ごろあまり障害者のお客さんとか来ることないからなぁ。いざ障害者に出会ったら、どうしたらいいのかわからないよ」とのことである。

一方、当事者委員は、耳が聞こえず、注文にも難儀するかもしれないとか、車いすだと邪魔かもしれない、という遠慮から行けないだけで、そういうところを懐深く「いいよいいよ」と言ってくれたらぜひとも毎日利用したい、という意見だった。

そこで、商店会の会員向けに、障害体験型の研修をしてみてはどうか、という提案がなされた。最初から費用を全額商店会が負担するのはハードルが高いだろうから、行政と商店会とで折半して研修費用をまかなうことにした。

研修には、思ったほど人は来なかったが、来た人からは「普段の生活からは思いもつかなかったところで障害のある人が困っているということを知れた。自分にも明日から何かできそうな気がする」などの感想が寄せられて、概(おおむ)ね好評だった。事業者委員は、「また期間をあけて、同じような研修を再度やってみようと思う」と感想を述べていた。

このように、地域協議会が、障害のある人とない人との「対話の窓」となったことをきっかけに、これまで思いもしなかった「商店会で障害理解研修」という企画が実現する、かもしれない。きちんとメンバー構成を工夫した地域協議会を設置し、日ごろから定期的に地域の障害者差別に関して意見交換の場を経験していればこそである。

さまざまな立場の機関に参集いただく必要があるため、人数が膨らみがちであるのが難点だが、ぜひとも障害者差別解消について多様性ある建設的な議論ができるよう、工夫して設置してほしい。

(あおきしほ 明石市福祉部障害者・高齢者支援担当課長、弁護士)