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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年2月号

列島縦断ネットワーキング【京都】

こころの病気をもつ女性のはじめの一歩を応援します
~サリュの活動~

吉川陽子・瀬端万起・CHICO

設立の経緯

サリュは、京都市の二条城近くの京町家で、こころの病気をもつ女性たちが働く場(就労継続支援B型事業所)として活動をしています。

サリュの始まりは今から遡ること15年前、精神科医と看護師によって共同作業所サリュとして設立されました。“身内やパートナーからの暴力”“病気に対する家族の無理解”“幼少期のいじめ”など、さまざまな理由によって自宅に帰ったとしても安心できる場がないことで、さらに生きづらさを招いている。そして、生きづらさに対処できるのは医療ではなく、女性同士が安心して過ごすこと自体が回復につながるのではないかという着想が当時の問題意識としてありました。そこで、女性たちが日中、安心して過ごせる居場所を提供するため、〈職員も利用者もすべて女性同士=安心感〉・〈自宅に過ごしているような気分=京町家〉・〈ものづくりによって他者とつながる=やりがい〉を柱にサリュの活動がスタートしました。現在は、連日15人~20人の利用者とともに、総勢8人の職員が働いています。

サリュのものづくり

主な事業は、オリジナル商品の製造販売です。サリュのものづくりは、共同作業所時代に女性ならではの手先の器用さを活(い)かす活動をしたいという思いから始まりましたが、長年のあいだ「利用者が作れるもの」という視点が強く、「商品」としてのクオリティは低いものでした。そこから話し合いを重ね、「利用者が作る」という点では変わりはないのですが、「クオリティが高く、素材からこだわった、ここにしかないものづくり」へと方向転換しました。

まずは、下請けの内職を止め、オリジナル商品づくりに専念しました。利用者の中には内職作業を止めたことで「自分たちの仕事が無くなる」という不安や反発の声もありましたが、利用者一人ひとりの適材適所を考えながら、全員が何らかの仕事に携われるようさまざまな工夫をしました。また、技術面ではもちろんのこと、心理的な支援を同時に行うことで、徐々に不安は解消されていきました。そうして、現在は主にSippo(七宝焼き)、Tsumami(つまみ細工)、nuimono(縫製)の3つのオリジナル商品を展開するようになりました。

販売時、商品を手に取ったお客様から「これは、本当に利用者が作っているのですか?」と聞かれることがあります。もちろん、すべての利用者が器用なわけではありませんし、向き・不向きもあります。しかし、作業工程を細分化することで、それぞれが担当する箇所ができます。仕上げ担当の人がいれば、補助的な業務に携わる人もいます。細分化することでそれぞれに役割と責任が生じ、さらに目標もできるのです。

“ひと”と“もの”のつながり

サリュでは利用者の声を大切にしているのですが、設立当初からあるルールがありました。それは、利用時間中はいかなる理由があっても男性の出入りは一切禁止というものでした。しかし、オリジナル商品ができあがり、福祉イベントなどで出店販売し、商品が売れるようになり、全国のさまざまな店舗で販売していただくようになってからは、利用者からも「施設内でも(老若男女問わず)販売したい」という声が上がるようになりました。そして、「商品をもっと多くのひとに知っていただきたい」という思いが強まり、2016年から施設内の一部で店舗販売を始めました。店舗を始めてよかったことは、お客様の声や反応を直接聞く機会が増え、それらが利用者の励みにつながっていることです。

さらに、店舗販売のほかに、手づくりcafeというワークショップも開催しています。簡単なつまみ細工のアクセサリー作りなどのほか、成人式や卒業式などに向けてのハレの日の髪飾りを作るワークショップがあり、多くのお客さまに喜んでいただいています。

この手づくりcafeは、お客さまに楽しんでいただくことはもちろん、サリュのことを知っていただき、直に利用者と接していただくことを通して、社会と利用者とをつなげる場でもあり、ひいては、多くの方に「精神障害」について知っていただく場にもなっています。

女性同士の心地よさ

ここで、利用者の一人、CHICOさんにサリュについて、お話しいただきます。(以下、CHICOさん)

私がサリュに通いだして、10年以上経ちました。こんなにも長い間通所できたのは、ひとえに、サリュが「平和」だからだと思います。十数年前、病院のケースワーカーさんに2、3か所作業所見学に連れて行ってもらいました。当時住んでいたところにとても近く、居場所的な場所として通いやすい、という理由から、サリュに決めました。最初は女性ばかりの作業所だと聞いて、不安だらけで、とてもイヤでした。なぜなら、以前の職場で、女性だけの部署に配属され、女性特有のネチネチしたいじめに本当に疲れていたからです。でも、通い始めると、職員のきめ細やかな気配りや、仲間とのたわいもない会話に、そんな不安はなくなりました。時にはイヤなこともありましたが、そのたびに相談できる環境にあることで、大きなモメ事にならずに済んできました。男性が居ないことで、色恋沙汰でモメる事もなく、女性同士ならではの、ほんわかした空気感と笑いに包まれているサリュなのです。時が過ぎ、作業内容も職員・利用者も変化しましたが、そのようなサリュの持つほっこりした感じはそのまま。変な気を遣わず、皆のびのびとサリュを楽しんでいると思います。

今後の展開

最後に、サリュが大切にしていることは、こころの病気を持つ女性たちに、働くことを通して自信や誇りを得て、いきいきと生きてほしい、病気のあるなしにかかわらず、人と人とが自然につながり、その「つながり」を感じながら生きていくことができる社会にしたい、サリュの商品を通じて社会を変えていきたいという思いです。

サリュの商品を通じて社会を変えていくとは、クオリティの高い商品を作り、お客様に喜ばれる商品を提供することに尽きます。そして、多くの人の手元に商品が届くことで、精神障害に対するイメージの変化や、まだ自信が持てず自分の殻に閉じこもっている女性らが、病気を治すという苦労ではなく、「ここで働いてみたい」・「わたしも商品作りに携わってみたい」と意欲や希望が湧くことで元気になり、自然と病気や障害が小さくなることを期待しています。

次に大切なことは、はじめの一歩が踏み出せた人には、日々の作業を通じて、その人の可能性と能力を最大限に引き出すことです。その一環として、一般就労やピアスタッフ育成などにもチャレンジし続けていきます。変化することは大変なことですが、サリュという組織やそこに関わる個人が社会の一員として認められ、女性だけの事業所という存在が重要な社会的資源の一つであることを知ってもらうことで、多くの女性をサポートしていきたいと考えています。

(よしかわようこ NPO法人Salut理事長・せばたまき 同副理事長・チコ 同利用者)