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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年2月号

列島縦断ネットワーキング【兵庫】

「いつでもどこへでも、出かけたいときに、出かけたいところへ…」
~視覚障害者の一人旅を支援して~

海士美雪

ジェイボス誕生まで

視覚障害者の2不自由と呼ばれるものに、情報の不自由と行動の不自由があります。80%以上が視覚から得られるという情報収集の不自由さと、単独で外出しようとする時の不自由さです。

まず、情報の不自由の解決に向けて、日本アイ・ビー・エム株式会社(以下IBM)の社会貢献により、点訳ソフトの開発が行われました。これにより、パソコンでの点訳が可能となり、点字プリンターがあればどこからでもデータが引き出せるネットワークが1988年に「てんやく広場」(後のサピエ)としてスタートしました。そして、行動の不自由の解消の一助になればと、これもIBMの社会貢献で、インターネットを駆使した外出支援ネットワーク「あゆみの広場」が1995年に構築されました。その担い手として、1996年10月に全国視覚障害者外出支援連絡会(JBOS=以下ジェイボス)が、当時全国に点在していた、9つの手引きボランティアグループが繋(つな)がって、誕生しました。

メールの活用

ジェイボスの活動ツールは、インターネットメールです。設立した20年前には、メールを主なツールとしていたボランティア活動は、まだ少なかったと思います。事務局から、あるいは加盟団体間の連絡もメールで、書面総会もメーリングリストを活用して行なっています。ただメール(文字)の限界も自覚していて、隔年で顔を合わせる交流総会を開催しています。活動を継続するためには、このアナログのコミュニケーションが必須だと考えて大事にしています。

ユーザーの依頼も、80%以上がご本人からの携帯も含めたメールです。直接目的地の加盟団体に依頼メールを送信して、団体内部のコーディネートでボランティアが見つかると、その旨メールで返信します。依頼を受ける基準としては、同行援護などの制度活用が可能なら、制度優先でお願いしています。制度で対応できないケースは、各団体の基準に照らし合わせて判断しています。ジェイボスの統一基準は特に設けてはいませんが、判断に迷うようなケースは、メーリングリストに発信して、メンバーの意見を求めることもあります。

ほっこり心が温まる旅のエピソードを、メーリングリストを介して共有することも活動の励みになっています。

多様な依頼

全国31都道府県にある36団体のネットワークで、年間延べ約300~400件の依頼をコーディネートしています。生活に必要な外出は同行援護等制度の利用ができても、余暇を楽しむための外出には、目的・時間帯などに制約が生じる場合もあります。映画を観に行きたい、ショッピングがしたい、そして一人旅もしたいという生活の質を高める部分でこそ、ボランティアが関わっていくべきとの理念の下で活動しています。

旅の目的としては観光が多いのですが、スポーツ大会への参加、他府県の医療機関での受診、研修会への参加、受験、同窓会や交流会への出席など多岐にわたっています。関西から東京ディズニーランドに新婚旅行で行きたいというご夫婦の依頼もありました。B級グルメを堪能したいというユーザーは、地元のボランティアも知らないお店情報をゲットしてこられました。お迎えするボランティアは、安心・安全の確保は当然ですが、旅という非日常的な場面で、ユーザーの想い出に残るような一期一会を心がけています。

ジェイボスの旅

一人旅のきっかけづくりとして、オリジナルツアーの企画運営も行なっています。「さわる・聴く・匂う・味わう」などをキーワードにしてプログラムを作ります。ジェイボスの旅に初めて一人で参加して自信がつき、以来あちらこちらへ出かけておられる方もいます。

2016年11月に、設立20周年を記念して大阪の旅を実施しました。まず、映像作成を通じて、バリアフリーを進めるボランティア活動を行なっている、バリアフリーシアター実行委員会とコラボレーションをして、旅の音声ドラマをCDで作成しました。参加者には事前送付し、イメージを膨らませてきてもらいました。

当日、参加者・ボランティア総勢50人が、トラベルイヤホンを装着することにより、音声ガイドや誘導がスムーズになりました。触ったり、聴いたりするポイントが多い四天王寺参拝と、昨年の大河ドラマの主人公真田幸村終焉の地、安居(やすい)神社にも立ち寄りました。そこで幸村最期の音声ドラマを共有したところに、幸村の亡霊が現れ大騒ぎになりました。この旅の想い出は、音のおみやげCDとして、後日送付して参加者に喜んでいただきました。今回、新しい旅のスタイルに、チャレンジすることができてうれしかったです。

一人旅を支援すること

この20年間で多くの視覚障害者がジェイボスを通して一人旅をすることにより、公共交通機関やホテルなど宿泊地の対応が、良くなったと自負しています。何より、当事者が動くことが大きな力となります。バリアフリーを目指して、当事者と一緒に社会を変えていくことも活動の目的のひとつだと思っています。昨年多発したホームからの転落事故なども、周囲が少し気遣えば防げたこともあったのではないでしょうか。ユーザーに同行する中で、白杖の携帯や盲導犬と共に動くことが、一般の方たちへの啓発の役目も果たしていくことができればと考えています。

ジェイボスは旅行社ではありません。旅のプランはユーザーが立てて、自助努力がどこまでできるかを考えてもらいます。手取り足取りの一方的な支援ではありません。目にはなっても手にはなりません。安全確保のため荷物は持ちません。各団体の基準にもより多少異なりますが、同行するボランティアの交通費、食費、連絡費などの必要経費は実費弁償という形で、受益者負担となります。こうしてボランティアとユーザーは対等の関係性を保ちつつ、協働してよりよい質の高い活動を目指しています。

これから

まだまだ、全国を網羅しているとは言い難いのですが、「いつでもどこへでも、出かけたいときに、出かけたいところへ…」をコンセプトに、全国を一人旅で訪ねていただける、ネットワークを目指しています。手引きのボランティア活動を行なっているグループや、それを包括している組織などで、インターネットメールでコーディネートができる皆様に、ぜひお申し出いただきたいとお待ちしています。

※JBOS=Japan Blind person Outdoor Support association
URL:http://jbos.jp/
Eメール:office@jbos.jp

(かいしみゆき 全国視覚障害者外出支援連絡会(JBOS=ジェイボス)事務局長)