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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年2月号

ほんの森

句集 まほろば
ヤマト福祉財団小倉昌男賞受賞者を讃えて

花田春兆 著

評者 小倉一郎

書肆アルス
〒165-0024
中野区松が丘1-27-5-301
定価(本体1000円+税)
TEL 03-6659-8852
FAX 03-6659-8853
http://shoshi-ars.com/

ヤマト福祉財団小倉昌男賞

働く障がい者の生活向上(給与などの労働条件の改善)や障がい者の日常生活の良き相談相手となり、生きる自信と喜びをもたらしている人を対象に公益財団法人ヤマト福祉財団が広く推薦を募り、毎年2人の方に贈っている賞だそうである。

俳人花田春兆さんは第3回以来、受賞者に対しその功績を讃える句を書き贈呈を続け、それを纏(まと)めたのが本書である。

以前に受賞者のことを載せた記事のコピーを頂いたことがあり、花田さんが讃えた数句しか知らず、本書の序文で藤井克徳氏が書いておられる花田さんの文学、歴史、評論、陶芸について私は全く存じ上げなかった。

花田さんご自身が障がいを抱えておられ、そのことが俳句や随筆を書くということに向かわせたのかも知れぬと勝手に推察している。何より1ページ1ページごとに書かれている受賞者のエピソードと花田さんの温かいまなざしに心をうたれる。

私の姉が障がい者であったから障がい者の気持ちが解(わか)るなどというつもりはない。

障がい者でなければ解らないことは多い。

花田さんの俳句は人の歴史、その悲しみ喜びを内包し、それは自身の発露なのであろう。

人には歴史がある。人の歴史を尊重し、人の痛みを理解する。と言っても、夏になれば海に出かけ日焼け薬を肌に塗りこんがり焼いても肌が黒いことで差別されている人のことにまでは思いは至らない。

むろん咎(とが)めることは出来ない。人間とはそういう生きものである。

鬩(せめ)ぎ合い、愛し合い、憎み合い、だが本書には、助け合い励まし合い、讃え合う人々が多く出てくる。

第8回 山田昭義さんに贈った句。

暖炉築く自ら寒さ知るゆえに

山田さんは1970年代から公共施設にエレベーターやトイレを整備することを訴え続けた方だそうだ。また、修道院の葡萄畑を利用してワイナリー事業を始められ障がい者の仕事を支援しているそうだ。人の痛みを理解する、が自ら寒さ知るゆえに、に如実に表れている。

第16回には花田さんに対して小倉昌男賞の特別賞が授与された。これに対し、花田二句を書かれており、お祝いとして、

生きて来し卒寿の幸をかみしめよ

と自身に言い、「ありがとう」として、

生きて来し卒寿の幸に酔う今宵

と喜びに浸っておられる。

私が久々に酔った1冊である。

(おぐらいちろう 俳優、俳人)