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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年2月号

工夫いろいろエンジョイライフ

実用編●趣味のガーデニング、他●

提案者:塩谷靖子 イラスト:はんだみちこ

塩谷靖子(しおのやのぶこ)さん

ソプラノ歌手・エッセイスト。8歳で完全失明。東京文化会館でのリサイタル等、出演多数。第6~8回「奏楽堂日本歌曲コンクール」入選、「太陽カンツォーネコンコルソ」(クラシック部門)第1位、「全日本ソリストコンテスト」入賞、「小諸・藤村文学賞」入選、「文芸思潮エッセイ賞」最優秀賞、他。CDに「わかれ道」「千の風2」、著書に「寄り道人生で拾ったもの」(小学館)。http://www.nobuko-soprano.jp/


趣味のガーデニング

辺りが静まった夜更け、私はベランダに出て花がら摘みをする。枯れた花を摘み取ることで新しい花が咲きやすくなるのだ。マンションの3階にあるわが家の狭いベランダには、50種類ほどの植物が寄せ植えやハンギングにしてある。枯れた花に指が触れるとカサッという乾いた音がするので、それと分かる。全盲の私にとって、この微かな音をキャッチするには昼間より深夜のほうがいいのだ。雨上がりで花や葉っぱがぬれていると、この音はしない。湿度の低い静かな夜なら、直径3ミリくらいの枯れた花も「ここにいるよ」とささやいてくれる。今から10年前に、100円で買った10センチほどのエンジェルトランペットの苗は数年で天井に届くほど伸びた。フレアースカートのような大輪の黄色い花を枝もたわわに咲かせ、妖艶な香りを漂わせる。この写真は、2年前に亡くなった夫が生前に撮影してくれたもので、60輪ほどの花が夕闇に咲き、遠くには駅ホームの明かりが写っている。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真はウェブには掲載しておりません。


お掃除革命

全盲者にとって、掃除というのは見えない敵を退治するようなものであり、どのくらい退治できたかの確認も難しい。ホコリというものは、触覚で捕らえるには細かすぎるからだ。掃除の出来上がりを人に見てもらえば、「隅のほうがちょっとね」とか、「テーブルの下が汚いね」などと言われる。だから、掃除をしようというモチベーションもなかなか上がらないことになる。

そんな思いをしながら、何十年も重い掃除機を引きずってきたが、2年前にわが家にやってきたロボット掃除機「ルンバ」が、私の掃除を180度変えてくれた。掃除の前の部屋の片付けと、掃除の後のルンバのメンテナンスさえ行えば、ルンバは忠実に敵を退治してくれる。さらに、一人暮らしの私に、ルンバはペットの役割もしてくれるのだ。しかも、訪問者が口をそろえて「きれい、完璧」と言ってくれるから、掃除はさらに楽しくなる。また、ダスト容器に溜まったゴミに触れば、「こんなにゴミが取れた」という達成感に浸ることもできる。

「あっ、お掃除ロボットだ!真ん丸でかわいいね」。孫がやってきて、そう言いながらルンバに駆け寄った。「お掃除ロボットより良ちゃんのほうがかわいいよ」と言って孫を抱き上げる私である。


買い物は携帯で

その昔、近所に八百屋や肉屋や魚屋があった頃は、買い物も楽だった。店員に、「キュウリちょうだい」「シジミある?」などと会話しながら、それらを取ってもらえたからだ。でも、今はスーパーに行くしかない。スーパーには、ガイドヘルパーさんにお願いして一緒に行くこともできるが、それだと好きな時に行くのが難しいので、私は、視覚障害者のためのサポートを利用している。

また、買い忘れのないように、こんな工夫をしている。私の音声パソコンには「買い物リスト」というファイルがあり、そこには、食品、日用雑貨、文房具、薬品など350品目ほどが、1行に1つずつ書いてある。その中には、1年に1度くらいしか買わないようなものも含まれている。紛らわしいものは商品名で書く。それらを新規メールに貼り付け、その日の買い物に必要なものだけを残し、あとは削除する。行頭の2・3文字の音声を聞くだけで品目が分かるので、3行読むのに1秒ほどで済む。つまり、作業時間は2・3分ほどもあればいい。そのようにして作ったリストを、自分の携帯にメールで送る。

その携帯を持ってスーパーに行き、サービスカウンターに電話すると、係りの人がスーパーの入り口まで迎えにきてくれる。その人に携帯を渡し、一緒に店内を回りながら、商品をカートに入れていく。大きさや数量や鮮度なども触って確認させてもらう。

このような視覚障害者のためのサポートは、多くのスーパーに広がりつつある。実にありがたいサービスと感謝している。