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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年3月号

当事者活動・支援活動

“地域の中で自分らしく暮らす”
地域活動支援センターともにおける失語症の会の活動

佐々木健悟

当センターは、地域活動支援センター事業1型として2008年4月より運営しています。『障がいがあってもなくても、誰もが住み慣れた地域の中で、自分らしく暮らしていける地域づくり』を目指しています。2つの拠点があり、住宅街の中の余暇活動の拠点「今川センター」と、駅前徒歩30秒で、障がいのある方が働く練習をし、地域の方々が利用できる店舗(昼はリサイクルショップ、夜は立ち飲み処)の「駅前センターほっぷ」があります。そして、失語症の会は開所当初から、今川センターにて開催してきました。

当センターのある浦安市では「失語症自主グループ 青空の会」が活動していました。設立の理由として、失語症の集団訓練の医療保険の適応がなくなった状況(反対運動により、2年後に保険適応が復活したのですが、2年間のブランクは大きく、多くの医療機関が集団訓練をいまだに復活させていない状況もあります)に対し、実際は、退院後の言語訓練、グループ訓練が重要であり、ご本人の生活圏域で同じ仲間と集まる場所の必要性を求めたためでした。支援者は、言語聴覚士・理学療法士で構成され、月に1回のグループ訓練を実施していました。

そんななか、ご本人や家族のニーズも多様化を見せ、月1回の訓練だけでなく、普段の生活場面で直面する課題に対応するために力を付ける・経験を積む・行動してみる等、地域で生活していくためのスキルを再度身に付けるきっかけとなる場所の必要性が表出し、もう一度、住み慣れた地域で安心して暮らしていけるように、地域の社会資源との連携を求めました。そして、当センターでの失語症の会設立に至ったのでした。

当センターにおける失語症の会の特徴は、ご本人と専門職員に加え、失語症者である当事者の方で回復度の高い方のボランティアでの参加があることです。当事者ボランティアは、言葉が出なくてもゆっくりと待つ・理解しきれなくても手法を変えて理解を促すなど、当事者ならではの配慮を自然に穏やかに行うことができます。そこから安心感が生まれ、行動・チャレンジしようという気持ちが生まれることを促します。専門職員も、専門家の指導のもと、進め方の相談、失語症への理解を深める勉強をして臨んでいます。

当初は、4~5人のグループで活動しており、外出やクッキー作りなどを行なってきました。ゆっくりと参加者のペースで、成功体験を積み重ねることで、失っていた自信を少しずつ取り戻せるようにと活動してきました。

そんななか、当事者ボランティアの多くが、リハビリの一環で取り組んでいた「カメラ・写真」の活動について実施提案があり、カメラで写真を撮る活動が脳への刺激としてリハビリの効果があるという情報も考慮し、活動に取り入れていくことになりました。

活動の進め方は、各自が日頃写真を撮り、失語症の会の際に写真を持ち寄ります。この時点で、リハビリの効果があるのですが、当センターにおいては、ここからが活動の主眼となります。持ち寄った写真について「いつ、どこで、何を撮った写真なのか、紹介する時間」を設けます。

次に、写真について、いいと思ったことを参加者から一つずつ発表してもらいます。ご本人を急かしたり、多くヒントを出したり、質問を過剰にすることはありません。ご本人の言葉をゆっくりと、最後まで言い切れるよう待ちます。出てきた言葉を拾い、答えに繋(つな)がる質問をするなど、答えていけるようにサポートすることもあります。

写真は、駅前センターほっぷに展示します。発表の場があることで目的意識が強まります。飾る写真は、参加者の意見も聞きながら、ご本人が中心となり、気に入っている、自信のある写真を選びます。そして、最後にタイトルを決めます。タイトルは、想像力と言語力を駆使するので、当事者ボランティアの方に助けてもらうことも多いですが、最終的にはご本人が納得して決め、発言できるようにしています。

まずはご本人が安心感をもって参加できることが重要です。安心感から、次の活動への意欲が生まれます。また、成功体験を積むことにより、自信が芽生えてきます。この自信も次の活動への意欲となって、前進するきっかけとなるのです。この活動は、当事者の方にとって、外出するきっかけ、楽しみ、自信を取り戻すなどの効果を上げます。

また、年2回、失語症の会写真展も開催しており、そこも発表の場となります。そして、地域活動支援センターともでは、写真展やほっぷでの展示において、他に二つの効果を期待しています。一つは、地域の住人の方に失語症という障がいを知ってもらい、理解を広げること。写真と共にパネルなども展示して、理解を促します。二つ目は、地域に暮らす失語症の方やそのご家族が、失語症の会という活動の場を知り、その場に繋がれるようになることです。理解される安心感と、活動の場があることで、暮らしやすい地域を作るのです。

今後は、活動の継続に加え、医療ソーシャルワーカーと連携し、医療とは違う、地域における失語症の方の活動の場が存在することを知らせしていく活動も進めていき、多くの失語症の方が、地域で自分らしく輝いて暮らしていけるきっかけを広げていきたいと思っています。

(ささきけんご (社福)パーソナル・アシスタンスとも 地域活動支援センターとも相談支援専門員・主任支援員)