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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年3月号

平成29年度障害保健福祉関係予算を親の立場から見て

久保厚子

はじめに

当会は、知的に障がいのある人たちとその家族及び関係者を構成員として、すべての都道府県に育成会が組織されている団体である。知的障がい者の「人権擁護」と「政策提言」を中心的活動として行なっている。

また、会員の中には親子の高齢化に伴い、重度障がい者や高齢障がい者の住まいの場、安心して暮らせる地域生活支援など多くの課題がある。このような立場での視点から、平成29年度の障害保健福祉関係予算の概要を見ていきたい。

障害福祉人材の処遇改善

従来の福祉人材の処遇改善からキャリアアップの仕組みによる処遇改善は、利用者にとってさらに質の高い支援につながるものとなり、歓迎すべき視点である。また、福祉職員にとってもキャリアアップは、有資格者として生涯どこででも通用するものである。

医療的ケア児に対する支援

医療を必要とする障がい児の施策が進められてこなかったために、地域における教育や、日常の生活で利用できなかった通所支援事業の受け入れができるようになることは、児童期から成人までの教育・福祉・医療の連携をさらに進める大切な体制につながることであり、予算規模は小さくても、重要な新規整備であると受け止めている。

また、発達障がい児・者の支援手法の開発と人材育成においても、医療・保健・福祉・教育・労働の連携の下で適切な支援について、特に医療との関わりを中心とした人材育成と手法の開発は、高齢化問題にもつながるものとして大いに期待が寄せられる。

地域での住まいの場と就労の場

地域の生活の場としてグループホーム等の設置が望まれているが、予算の施設整備費が少なく、各地で地域での住まいの場の整備が進んでいない。また、多様な暮らしのあり方を作るために、親が残した家を活用したシェアハウスのあり方や、公営住宅を活用した世帯用や一人暮らしの住まいの場の整備について推進が必要である。そのうえで、空き家を利用したグループホームの設置は、消防法によるスプリンクラー設置の義務によって家の持ち主の了解が取れない場合も多く、寄宿舎扱いでの規制は、地域の住まいの場の推進にハードルとなっている。

一方で、就労支援では、以前から課題となり利用が難しかった休耕田が農地法や農業法人法が規制緩和されたことと、平成29年度予算での農福連携による就労支援が増額となったことで、放置されている農地の活用と、専門家による指導・助言によって、高齢の農家と障がい者双方の所得保障につながる施策として期待できる。

高齢化問題

平成29年度の予算には、急速に進むことが予想される高齢障がい者にかかる項目が目立たない。現状は、毎年高齢化が進み、家族の最大の心配事となっている。

障がい者は早くから心身の機能低下が始まり、障がいが重度化していくことを考えると、障がいのあるわが子が高齢期を迎えようとしている今、地域での安心・安全な暮らしが担保されるのか、親の自分が他界した後の、高齢で重度化したわが子の暮らしがどのように支えられるのか、終末をどこで迎えるのかが、現在の地域生活支援では見て取れないために不安が増大している。

地域での暮らしと医療の連携も、現在は安心できる形とはなっていない。知的障がい者の場合、認知機能・生活経験・意思決定・早い高齢化・大きな個人差など多岐にわたる課題を抱えている。そのため、障がい福祉と介護福祉の連携とネットワーク、障がい者の認知症支援システムの構築、高齢障がい者の支援のための研修など、明確な高齢障がい者を支える制度と財源が望まれている。

障がい児・者の芸術文化の支援

芸術文化活動の支援の推進事業により、全国で10か所の文化・芸術活動の拠点が整備・推進され、平成29年度予算でもさらに増額されたことは、障がい児・者の文化・芸術を通した社会参加の推進になると評価できる。

加えて、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて、27の全国の障がい者団体が結集して「2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けた障害者の文化芸術活動を推進する全国ネットワーク」を設立して活動を行なっている。全国各地での文化・芸術の行事や国際交流を通して、2020年東京オリンピック・パラリンピックを契機にさらに全国ですそ野を広げ、素晴らしい作品の発掘と障がい者の社会参加と生きがい、さらには所得保障につながるものと大きく期待している。

(くぼあつこ 全国手をつなぐ育成会連合会会長)