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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年3月号

解説 障害者差別解消法 第10回

障害者差別解消法と自治体の差別解消条例の意義

崔栄繋

■障害者差別解消法と意義と課題

障害者差別解消法(以下、差別解消法)が施行されて1年。障害者だから、といってタクシーやバスなどの乗車拒否を受けたり、障害者は危ないからなどの抽象的な理由で部屋の賃貸を断られたり、学校での活動に親の付き添いが求められたり、「特別扱いできない」と支援を断られたり…。障害を理由にサービスの提供などを拒否したり、サービスなどの提供に当たって場所や時間帯を制限したり、障害者には就けない条件付けはしてはいけないこと(=不当な差別的取扱い)、障害者が障害のない人と実質的に平等な機会を得るための物理的環境や時間や場所、ルールや慣行の変更や調整をしなければならないこと(=合理的配慮提供義務)という日本国内の市民すべてが守るべきルール(法律)ができたことは大きな意義がある。「不当な差別的取扱い」や「合理的配慮の不提供」といった障害を理由とする差別をなくすための法的な土台が整備されたことで、行政機関や民間事業所ではさまざまな取り組みが進んでいる。

しかし、バージョンアップすべき課題もたくさんある。主な課題として、以下、3点あげる。

まず、法律に明確な「障害を理由とする差別の定義」がないことである。基本方針に不当な差別的取扱いの概念が書かれてはいるが、内容の面でも権利条約が定めている「障害に基づく差別」の定義には不十分である。法律の定義がないことで事例についての客観的な判断基準が不明確となり、たとえば、通勤や通学、通院などの分野横断的な複雑な事例の判断に支障を来す恐れがある。

次に、教育や労働、各種サービスの利用、医療などの分野ごとの差別禁止規定と合理的配慮規定がないことがあげられる。分野の特性から、禁止される差別や必要な合理的配慮は法律本文に盛り込まないと複雑事例の判断に困難を来し法律としての規範性が弱くなる。

そして、脆弱な紛争解決の仕組みである。自治体が相談体制を整備し、既存の相談機関を利用して問題を解決するとなっている。各相談機関が障害者の権利にどれだけ精通しているか大いに疑問があり、相談たらいまわしの恐れがある。事例の共有や検討、たらいまわしを防ぐためのネットワークとなる障害者差別解消支援地域協議会(以下、協議会)の設置ができることになっている。協議会の設置は重要だが、協議会自体の法律上の権限は強くない。

■自治体の差別解消条例

そこで、これら差別解消法の課題を補完するという点で重要となるのが自治体の条例である。2007年に施行された「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」を皮切りに、現在、全国で大体30程度の自治体で障害を理由とする差別を禁止する条例が作られており、差別解消法が制定された2013年以降も続々とできている。多くの条例が法律にある規定をさらに強化する上乗せや法律にない仕組みを入れ込む横出しを行なっている。

たとえば、千葉県など多くの自治体条例では「何人も障害を理由に差別してはならない」という趣旨の差別禁止規定があり、これが私人間における差別行為にも網をかけることができるようになる。また、障害に基づく差別の定義は、長崎県の「障害のある人もない人も共に生きる平和な長崎県づくり条例」が特に充実している。また、千葉県や明石市の条例は民間事業者に対しても、合理的配慮の提供は過重な負担にならない限り義務化されている。差別解消法では努力義務である。

さらに明石市では合理的配慮の提供に当たり、市からの補助金を出す仕組みを条例で定めた。画期的なことだ。現時点では年間で350万円の予算内で申請に合わせて補助金を出している。

また、紛争解決の仕組みとして、千葉県など多くの自治体は広域相談員や専門相談員を配置し、ワンストップで相談に乗る体制を作っている。そして、解決困難な事案について調整委員会を設置し、相談や助言、あっせんを行う仕組みを持つ。鹿児島県のように条例で差別解消法の協議会を設置し、協議会にあっせん機能を持たせている場合もある。上乗せ、である。

実際の事例を挙げてみよう。熊本県の「障害のある人もない人も共に生きる熊本づくり条例」によるものである。発達障害の子どもに関する相談事例で、「近所で解体工事が始まり、騒音で子がパニック(自傷行為)を起こす。業者と交渉し一定の配慮は得られたものの十分ではない」という相談事例である。条例に基づいて、業者に状況確認すると納期や違約金の問題があり、業者も対応に困っていた。双方からの要望に基づいて相談員があっせんに入り、最終的には三者で話し合い、子どもの放課後の預かり先が確保できる日は工事を行い、確保困難な日は工事を早めに切り上げることで双方が合意し納期内に工事も終了した、という解決事例である。これは厳密には差別の問題になるかは微妙だが、条例によって、幅広く対応できている好事例である。

差別解消法を見事に補完している例である。

■法律と条例で差別解消

差別解消法は、差別を解消し、障害の有無によってわけ隔てられない共生社会(インクルーシブ社会)の実現が目的である(第1条)。そのためには、身近な地域で差別や生活のしづらさをなくしていくこと、地域を変えていくことが一番重要である。そのためには、法律と条例の二本立てで取り組む必要がある。

(さいたかのり DPI日本会議)