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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年3月号

列島縦断ネットワーキング【滋賀】

表現は自由だ!
~湖南ワークショップグループの活動~

湖南ワークショップ実行委員会

1 はじめに

「湖南ワークショップ」は、主に滋賀県の湖南圏域に在住する障害のある人と、プロのダンサー、福祉施設スタッフ等によるダンスチームです。

2002年から、糸賀一雄記念賞受賞者へ障害のある当事者からのお祝いセレモニーとして、「糸賀一雄記念賞音楽祭」が始まり、現在では6福祉圏域で、打楽器・合唱・ダンス等、ナビゲーター・サポーターとともに、表現活動・ワークショップを行なっています。

私たちの湖南ワークショップでは、ダンス(身体表現)を行うようになり、この音楽祭に、2004年から「湖南ダンスワークショップ」として出演を続けています。

2 メンバーについて

湖南ワークショップのメンバーは異なる事業所に所属しており、にっこり作業所(通所)や蛍の里(入所)が主ですが、他の事業所に通所する人たちを含め、総勢29人(障害のある人は23人)です。

住まいの場は、家庭・施設・グループホームなどさまざまで、生活スタイルも違います。にっこり作業所の方は9人で、毎回、家族の送迎で練習に参加しています。他の作業所の方は4人で、福祉サービス等を利用して参加しており、蛍の里の方10人は、支援員と一緒に余暇活動の一つとして参加しています。

また、ワークショップのメンバーは障害が重度な方が多く、身体障害、知的障害があり、動きや理解にも違いがあります。

この活動が生きがいとなっている人、言葉の理解は難しいけど「ワークショップ」ということが分かり動き出せる人、早くから「(今日は)踊りやなあ」と職員などにその楽しみを伝えている人、毎回活動を楽しみに週末を待っている人など多様です。

家族も、活動の場で自らを開放・表現しているダンサーとしての姿を見て、その姿が普段家族には見せない様子であることから、そのことを喜びに感じ、共に成長できていると感じています。

メンバーは、このワークショップの中では「ありのままの自分」を出し、それが尊重されていると感じていると思います。10年を超える活動の中で、人間関係が育まれ、経験が積み上がってきています。この楽しさを感じ、さらに「発表の場がある」ということが、活動継続の張り合いに繋(つな)がっているのです。

3 活動について

月2回程度、地域のコミュニティーセンターや参加メンバーの所属する福祉施設の多目的室に集まり、練習を重ねています。主には、次のステージ発表を視野に入れ、ダンスを創作しています。練習中に新たな発見があるとダンスに取り入れることも多いです。一人ひとりがさまざまな個性を持った人たちなので、その日で違った形があります。

大切な発表の場である「糸賀一雄記念賞音楽祭」で、昨年はフランスから招聘したアーティストの方と共演し、大きな刺激を得たようでした。

5年ほど前から、全国の障害関係職員等の研修会アメニティーフォーラムでもパフォーマンスイベントとして出演しています。ここでは観客席が目の前で、とてもドキドキするステージですが、その緊張をパワーに変え、力強いダンスができたように思います。

また、年に数回参加者の親御さんたちを招待して公開練習等もしています。日ごろの成果を出し切れる場とあって、メンバーにも笑顔が多くみられ、やる気満々でこちらもよいダンスをしようと力が入ります。

ここまで「練習」と言ってきましたが、現場にあるのは楽しむことを大事にした共有の場だと思っています。誰かが動けば誰かが座る。誰かが跳ねれば誰かが手を上げる。自由な表現で不思議とそれが絵になり、ダンスになってステージになります。そこでは、障害のあるなしにかかわらず誰もがダンサー・表現者で、全く対等で双方向の身体と身体のコミュニケーション(交感・交流)が織りなされています。そして、楽しむこと、それが体現できていることを感じてもらいたいのです。

4 ナビゲーターより(第15回音楽祭を終えてから抜粋)

2016年は湖南ワークショップにとっては13回目の音楽祭でした。長い時間をかけて育まれ醸し出された極上のステージ発表で、本番はまさに素敵な事件の連続でした。近い未来、湖南ワークショップが世界に飛び出していく夢と希望、そして宿題をたくさんいただいた音楽祭でもありました。

今回の一番の収穫は、長年培ってきた状況を習慣化するという振付の方法とコンタクトのあり方が、世界でも勝負できる、武器になり得ることが見えたことです。

今はまだ、未完です。だからこそ、自分たちが信じてきたことをもっともっと信じて、もっともっと伸ばしていきたいと決意しています。まずは、ナビゲーター・サポーターから伝える身体を磨き、ダンサーさんたちを巻き込みながら、一人ひとりの身体から聞こえてくる波動や音を注意深く聴きとり、誰も真似できない湖南のダンスを丹念に編み込んでいきたいと思います。私たちは来年に向けて、すでに今日からスタートしています。

5 障害者の文化芸術国際交流(コナンからナントへ コナント)

なんと(ナント)!!今年、湖南ワークショップはフランスに行きます!

第10回の糸賀一雄記念賞音楽祭が、フランスからアーティストを招聘したことがご縁となり、2017年のフランス・ナント市と日本の障害者の文化芸術国際交流事業に招聘されることになりました。この事業の目的に、文化芸術は選ばれた人だけのものではなく、人間に普遍的なものであることを人々に示すこと、人々の価値観や見方を変革すること、社会に新たな考察を生み出すこと等があります。

今回、重度の障害のある人たちが織りなす湖南ワークショップのダンスがその一翼を担うのですが、メンバーはワークショップを積み重ねていくだけで、特別な気負いを感じることなく、その時々に感じていることを伸び伸びと自然に表現すると思います。

毎回のワークショップがみんなにとって「音楽祭」であり、その延長線上に「糸賀一雄記念賞音楽祭」があり、「フランス・ナント市と日本の障害者の文化芸術国際交流事業」に繋がっているように思います。

6 おわりに

糸賀一雄記念賞音楽祭での発表をきっかけに、この活動を続けてきた湖南ワークショップも、13年が経過しようとしています。

この間メンバーも少しずつ変わりながら、湖南圏域で暮らす仲間が集いダンスを繰り広げてきました。

メンバーが表現者(ダンサー)として活躍する湖南ワークショップの場が、仲間を意識して心と心の繋がりを紡いでいく素敵な時空間となり、さらには、素朴にそのひと時を楽しむことができる居場所であり続けることを願っています。今後も「湖南ワークショップ」が作り上げていく無形の文化をみんなで応援したいと思います。