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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年4月号

障害者差別解消法施行から1年:どこまで浸透しているか?
~自治体を中心に~

松波めぐみ

はじめに

障害者差別解消法(以下、解消法)が施行されて1年。自治体が解消法に取り組んでいるかどうかを評価する指標として、職員向け「対応要領」作成の有無、専門の相談窓口があるか等がある。これらは今後の調査が待たれる。

本稿の中身は、私が近隣の自治体での研修の仕事を通じて、また個人で関わっている活動(=京都府の条例(注1)を積極的に活用していくための障害者団体のネットワーク)のなかで、実際に体験してきたこと、感じたことに限りたい。

1 増えた職員研修や講座

もともと法制度にまったく詳しくなかった私が、研修講師を引き受けるようになったのは、京都府において6年越しで条例づくり運動に関わってきた経験によるところが大きい。「条例(や法律)ができることは何の意味をもつのか。障害のある人は何ができるようになるのか。社会はどう変わるのか」について、さまざまな障害種別の人、家族、支援者、企業関係者、行政職員らと話し合ってきた。「差別ではないか」と思う出来事があった時に相談できる公的な窓口ができ、再発防止を期待できるという点では、解消法も地方条例も共通している。

施行の前年から、「障害者差別解消法について」「合理的配慮とは何か」といった表題での研修の機会が激増した。研修先は行政、小中高・大学、福祉関係団体、企業等であり、他にも市民講座等、2年間で130回を超えた。解消法に「啓発活動」の規定があるとはいえ、正直なところ、法律の影響力にいまだ驚いている。

施行前は、「とりあえず全職員に最低限のことを教えてほしい」といった研修依頼が多かった。解消法がこれまでなかったタイプの法律であるがゆえに、自治体の担当者も戸惑っていたのだろう。施行を経て、最近では「窓口で市民に対応する職員に向けて、合理的配慮の具体例を多めに話してほしい」「事例検討(ワークショップ)をやってほしい」といったリクエストを伴った依頼が増えてきている。

2 温度差、さまざま

「はじめに」で、「対応要領」作成の有無が一つの指標になると述べた。しかし、研修で西日本各地の自治体を訪れてきた私の実感として、「対応要領」が作られているからといって、職員全体にその中身を周知させようとしているとは限らない。説明会が開かれても、説明する職員自身がよくわかっていないため、形式的な場になっていたという声をしばしば聴いた(むろん、それではまずいと考えたからこそ外部講師による研修を開催したのである)。

打ち合わせの席で担当者と話していると、よくこんな話を聞く。――「対応要領はぶあついし、ただドサっと配られただけでは、目を通すこともしない職員が大半でしょう」「うちだけじゃなく、近隣の自治体でも、(内閣府がつくったカラフルな)解消法パンフレットはけっこう出回っているけれど、部署にもよりますが、“障害のある人に何か対応しないといけなくなったらしい”ぐらいに思っている職員が多いでしょうね」

確かに、まだまだそういう段階なのだろうと思う。内閣府や都道府県が作成した解消法のパンフレットを開いてみても、「聞こえないお客さんには筆談しましょう」といったような、場面がイメージしやすい箇所が読まれがちではないだろうか。

「合理的配慮」についても、「この障害の人には、こうしてあげればよい」というかたちで、マニュアル的にとらえている人が多いように思う。本来の「一人ひとり必要なものは異なるので、本人の意思を大切に」「建設的対話を通して調整する」といった合理的配慮の趣旨が伝わっていない(誤解されていた)と感じることも、研修中ひんぱんにあった。

さらに、自治体や企業関係者の一部からは、「法律ができることで、障害のある人が無理な要求をしてくるのではないか」という懸念もよく聞かれる。予算の限界を思えば不安になることはわかるが、過度に心配しているように思えることも多い。

3 有効に解決がなされるために

法施行に伴って相談窓口が開設されていても(あるいは地方条例に基づく窓口があっても)あまり機能していない、相談件数が非常に少ないという話もしばしば聞いた。また、相談にあたる職員が、解消法やその背景にある考え方について理解不十分と思われる事例も残念ながらしばしば聞く。

おそらく、解消法という法律が始まったことの意味を、障害のある人自身が最も実感できるのは、相談窓口が有効に機能した時であろう。「悔しい思いをしたけれど、相談してよかった(同様の差別は二度と起きないだろう)」と思えるような事例を積み重ねてこそ、法律の意義は浸透していく。そうした好循環をつくりだすためには、相談担当者が先進自治体の経験から学んだり、「合理的配慮」のあり方を障害当事者を交えて話し合ったり、「好事例」をうまくアピールしたりといった「しかけ」がさらに必要だと思う。

(まつなみめぐみ 大阪市立大学非常勤講師)


(注1)「京都府 障害のある人もない人も安心していきいきと暮らしやすい社会づくり条例」。策定の過程で障害当事者が活発に参加し、初の「障害のある女性(複合差別)」に関する条文が入った。解消法施行より1年早い2015年3月から施行されている。