「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年4月号
当事者の声
障害者差別解消法施行から1年、期待と課題
高梨憲司
障害当事者でもあり、千葉県条例の策定に関わった者として、この1年を振り返ってみたい。
現状についてみると、大企業や関心の高い企業において対応指針の策定や職員研修などが積極的に行われている一方で、市町村レベルでは対応要領の未整備や地域協議会の未設置の自治体も多く、中小の事業者にあっては法の存在を知らない者さえいると推測される。しかし、千葉県が実施した県政に関する世論調査によると、障害者条例を知る者の割合が法制定によって8%ほど上昇しており、国民の間では障害者に対する関心が高まりつつあるように思われる。2020年のパラリンピック開催はこうした動きに強い追い風になると期待される。
一方、これまで社会から冷遇されても半ばあきらめてきた障害当事者にとって、法の施行によって社会の理不尽さに声を上げる根拠を得たという点で、法の意義は極めて大きい。すでに、盲導犬同伴の視覚障害者に乗車拒否をしたタクシー会社に行政指導が行われたり、相次ぐ視覚障害者のプラットホームからの転落事故に国を挙げて対策が検討されているなど、これまでにあまり見られなかったような対応がなされている。
今後の期待として、インクルーシブ教育の進展、障害のない人と同等の地域生活を保障するために必要な福祉サービスの提供とハード面を含めた移動環境の整備、障害のない人と同等な情報保障の実現、各人の能力にふさわしい雇用と職業開発・能力を十分に発揮しうる労働環境の整備、国民の障害者に対する理解の進展、共生社会実現に向けた障害当事者による社会貢献活動の6点を挙げておきたい。
反面、法では話し合いによる解決を前提としており、諸外国にみられるような第三者機関としての救済機関が設けられていない。そのため、法の実効性(正当な理由や過重な負担の判断、話し合いによる解決の限界等)、差別事案に対する救済の在り方、各自治体間・分野間における合理的配慮に関する格差の増大、事業者(行政機関を含む)と障害当事者間との紛争の増加等が予想される。
いずれにしても、法の目指すところは共生社会の実現である。この法をいかに育てていくかは、障害当事者はもちろん国民すべての責任である。時間はかかるであろうが、建設的対話を積み重ねることによって、いつの日か、誰もが暮らしやすい社会の実現に近づくことを期待したい。
(たかなしけんじ 千葉県障害のある人の相談に関する調整委員会委員長)