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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年4月号

当事者の声

進む合理的配慮、そしてまだまだ追いつかない個々の意識

倉野直紀

全日本ろうあ連盟は、2014年9月1日から2016年3月31日まで、聴覚障害者への差別の実態調査やアンケートを全国的に行い、生活・交通機関・警察・医療・教育・職場とさまざまな場面にわたる事例を取りまとめました。この実態調査やアンケートから、「視覚的な情報保障がない」「蔑視的な対応や態度をされた」ことが、場面は違えども、共通する聞こえない人への差別となっていたことがわかりました。

しかし、昨年4月から施行された障害者差別解消法により、差別的取扱いの禁止や合理的配慮の提供の義務化により、社会にも変化がみられるようになりました。

たとえば、会社での研修や大学でのゼミなどへの手話通訳者の配置、公共交通機関や公共施設、金融機関や飲食店などの窓口へコミュニケーションボードや磁気ループ、遠隔手話通訳サービス等が設置されるなど、視覚的な情報保障や意思疎通支援の取り組みが以前より積極的に進みつつあり、また、演劇や舞台の観劇の際にも、タブレットなどで役者のセリフを文章に変えたものを見られるなど、文化の分野でも広がってきています。

自治体や企業の職員研修でも、聴覚障害者を講師に招き、障害や配慮方法(手話や要約筆記)について学ぼうと、地域の聴覚障害者団体に講師依頼が急増したために講師が足りないという、うれしいような、困ったような悩みも聞かれるようになりました。

このように社会は少しずつ変わりつつある一方、地域や街の中での個々とのやり取りにおける「蔑視的な対応や態度」の課題はまだまだ残されています。これらの個々とのやり取りは法の範囲の対象外となり、また、差別解消相談窓口でも対応ができず、法の谷間に陥ってしまいます。そのため、「法ができても何も変わらない」「窓口担当者も範囲外だと対応してくれなかった」という不満も多く聞かれるのです。

法の趣旨や自治体や事業者の合理的配慮の義務化のみがクローズアップされていますが、社会や地域で暮らしていく上では、個々とのやり取りは重要なものとなります。だからこそ、障害者に寄りそいながら、地域や街の人、障害者やその家族などの意識を変えていく取り組みを、今後推進していけるよう私たちも取り組んでいきます。

(くらのなおき 一般財団法人全日本ろうあ連盟理事)