「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年4月号
当事者の声
一般社会への普及啓発を
―障害者差別解消法の「現在位置」
鷺原由佳
私は15年前から統合失調症と診断されている精神障害者である。夫婦ともに精神障害をもち、地域で暮らしている。障害者差別解消法施行から約9か月後の2017年1月、こんな出来事があった。
掛け金が手ごろなことから、とある保険に夫婦で加入しようとして、申し込み問い合わせ先に電話したところ、精神科への定期的な通院と継続的な服薬を理由に加入を断られてしまったのだ。その後、保健所、消費者センター、法務省「みんなの人権110番」などに電話相談をしたが、結局、今も加入できないでいる。
保健所の保健師に私が「保険会社の内規で保険に入れないのは、障害者差別解消法での間接差別にあたりませんか」と問うたところ、「障害者差別法ですか?(筆者注:そんな法律はない!)知りません。加入は諦(あきら)めてください」と、取り合ってもらえなかった。さらに、「保健師は医療職だから法律のことはわかりません。そんなに法律、法律というのなら弁護士をご自分で雇ってください」とも言われた。
正直、これが現実なのだなとガッカリした。2016年3月から5月にかけて、全国各地で盛大に「障害者差別解消法の施行を祝うパレード」が開催された。多くの障害当事者が喜びと期待をもって施行の日を迎えたと思う。私もその一人であった。しかしながら、一般社会のみならず、障害者の支援にも携わるであろう保健師にすら「知りません」と言われてしまうのが、障害者差別解消法の「現在位置」なのだと思い知らされた。
社会へ広く、この法律の存在と意義を広げなければならないという危機感を抱いている。せっかく法律ができても、社会へ周知徹底されなければ実効性の確保も難しいからだ。法律そのものの課題(紛争解決の仕組みが不十分、行政サイドの作成した対応要領・対応指針の内容が私たち障害当事者の声とかい離(り)している部分がある、など)に加え、これから先、私たちが取り組んでいくこととして、この法律の普及啓発を積極的に行うことが挙げられる。
障害者差別解消法を絵に描いた餅にしないためにも、精神障害者が件(くだん)の保険に加入できる日を迎えるためにも、この法律の「現在位置」を認めたうえで、広く社会の理解を得られるような普及啓発活動を進めていかなければと考えている。
(さぎはらゆか DPI日本会議)