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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年4月号

具体的な取り組み

京王バスにおけるバリアフリーの取り組みについて

柏木洋祐・山本克己

会社の概要

京王電鉄バスグループは5社からなり、約900両のバス、約2,200人の社員の手により、新宿、渋谷などの東京都内23区西部から調布、府中、八王子、多摩ニュータウンなど、西は高尾山の麓までの京王線、JR中央線沿線に路線バスを運行するバス事業者です。現在、年間約1億人のお客様にご利用いただいております。

ハード面のバリアフリー

弊社路線バス車両のバリアフリー化は、ツーステップバスが主流であった1994年から始まり、同年に初めてワンステップバスを導入したのに続き、1995年には車いす用スロープを備えたワンステップバスを導入しました。当時バス事業は赤字でしたが、車両メーカーの協力を得て、障害者や高齢者の要望に応(こた)えた利便性とコストに見合った車両を導入しました。

1998年には初めてノンステップバスを導入し、以降、路線バスは原則としてノンステップバスを導入しています。

2017年2月末現在、路線バス722両のうち、97.6パーセントにあたる705両がノンステップバスとなり、残る17両もワンステップやリフト付きのバリアフリー対応車両であり、すべての路線バスで安心してご利用いただけます。

近年では、車内の設備にも工夫を凝らしています。2015年導入の新車より「リトラクター式車いす固定ベルト」を採用し、車いすをご利用のお客様が乗車した際の固定を簡単かつ迅速に行うことができるようになりました。これは車いすに掛けるためのフックが付いた巻き取り式のベルトで、自動で巻き戻り、任意の長さでロックするものです。これにより、固定に要する時間を従来型ベルトに比べ大きく短縮することが可能になりました。既存車への交換も実施しており、2016年度末までに198両(路線バス車両のうち27.4パーセント)がリトラクター式ベルトとなりました。

車いすの固定は『時間がかかり他の乗客に迷惑がかかる』との当事者の方からの声を聞いています。一方で、固定しないと、不慮の急ブレーキなどでお怪我をさせてしまう可能性があり、安全にかつ気持ちよくご利用いただけるための設備だと考えています。

ソフト面のバリアフリー

ここまでは車両や装備について触れてきましたが、バスを運転し応対するのはやはり人であり、お客様の介助を行うのも乗務員です。障害者や高齢者に対して適切な対応ができなければ、せっかくのハードも十分に活用することができません。

弊社では、お客様対応のマニュアルを定め、まず新入社員時に教育を行い、その後、年次による定期研修を実施しています。また、全乗務員が受講する年間6回の安全教育では、定期的に障害者や高齢者への応対について、弊社にお寄せいただいた当事者の方の声を交え、さまざまな障害についての内容を盛り込み、教育を行なっています。

2010年度からは、交通エコロジー・モビリティ財団が主催する「交通事業者向けバリアフリー教育訓練(現・交通サポートマネージャー認定研修)」を毎年10~20人程度の乗務員や運行管理者に受講させています。この研修では、多くの障害当事者に講師を務めていただき、参加者が対話をしながら実習できる貴重な機会として捉えています。

乗務員側にも障害者への応対について「何かしたいのだけれど、どのように介助すればいいのかわからない」との声があります。本研修では適切な接遇介助の方法はもちろん、「コミュニケーションを取りながら対応することの大切さ」に改めて気づかされます。

受講した乗務員からは「さまざまな障害をお持ちの方がいることが理解できた」、「見た目ではわからない障害があるということに驚いた」、「お互いの立場でわからなかったことが研修を通じて理解しあえるようになった」といった声を聞いています。最近では、乗務員自ら受講したいと声が上がるようになりました。2016年度までに受講したのは84人と、会社全体で見ればまだわずかです。しかし、少ないながらも受講した乗務員は、現場で実際のお客様対応に役立てているほか、管理者においては社内で展開する教育に大きく役立てています。

最後に

車両面のバリアフリーは一定レベルに到達しているものの、ソフト面はまだまだ改善の余地があると感じています。

現在バス業界は、軽井沢スキーバス事故などを受け、安全運行、乗務員の健康管理といった取り組みの強化を求められています。また、乗務員のなり手不足という課題もあります。

このような状況の下、乗務員に対する教育は、まず交通事故を起こすことなく安全に運行するという大きな目標に取り組みつつ、乗務員自身の健康管理、接遇教育、バリアフリー教育と限られた時間の中でバランスよく教育を行い、すべてのお客様に「安全・快適」に気持ち良くご利用いただけるよう努力していく所存です。

(かしわぎようすけ・やまもとかつみ 京王電鉄バスグループ安全技術部 安全推進・サービス向上担当)