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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年4月号

具体的な取り組み

特例子会社の運営を通して思うこと

有田信二郎

当社は1991年に、山口県宇部市に設立された宇部興産(株)の特例子会社である。『保護より機会を!』の趣旨の下、地元のリーディングカンパニーとして障がい者雇用の促進に積極的に取り組んでいる。

近年、障がい者の一般就労はかなり前進してきたが、その大きな転機は、2006年に国連で採択された障害者権利条約であり、その後の国内法の整備へと繋(つな)がってきたと思う。その流れの中で制定された障害者差別解消法、並びに改正障害者雇用促進法が昨年4月より施行となり、企業においても大きな関心事となっている。

その中でも最も大きなものは『合理的配慮』という新たなる概念である。「配慮の義務化」、これが企業の意識変革の引き金になっているように感じる。以前は「できる範囲で」で済まされていたことが、過度な負担にならない限り義務として便宜を図らなければならなくなった訳で、企業にとっては大きな意識の変革を余儀なくされる。

当地域では、10年ぐらい前からいろいろな企業・事業所が自由に話し合える場(企業部会と呼称)を作り、障がい者雇用を促している。特例子会社である当社に蓄えられた経験やノウハウを周囲の企業に提供することで、地域での雇用推進を図るものである。

ここ数年は、この合理的配慮が一つの大きなテーマとなっており、何をなすべきか、「過重な負担」とは何なのか、その判断基準は…等々の話し合いを続けている。「過重な負担」に関しては、国の指針において6項目の基準が示されているが、これらはある意味で金銭に換算できるものだと思う。

一方で、障がい者雇用を進める上で最も重要な要素のひとつに『人の心』がある。この部分においての合理性をどのように判断するのかが課題であり、厚生労働省編纂の『合理的配慮指針事例集(第三版)』を参照しながら、今後も事例を積み重ねていく必要があるだろう。

次に、当社並びに親会社での取り組みを紹介する。前述の通り、当社は特例子会社として設立されたこともあり、他の特例子会社と同様、物理的バリアフリーの面では当初より多くの配慮が為(な)されている。ただ、これらの配慮は一度やれば良いというものではなく、時とともに改善していく必要がある。

誰しも加齢により働き続けるためのニーズは変化していくが、障がいがあればそのニーズもより鮮明となる。たとえば、スライドドアの開閉にはある程度の力が必要だが、車椅子使用者の加齢とともに体力が落ちてきて、より少ない力で開けられるような改造が必要となってくる。発達障がいのある社員の中には、当初は問題が無くとも、長い年月の経過とともに不適応の傾向が強く出てくる者がいる。

一方で、同様な発達障がいであっても、時とともにより馴染んでくる者もいる。これらはほんの一部分だが、働き続けるために必要な配慮は常に変化が要求されるものだ。ただ、『配慮の先回りは厳禁』である。つまり、周囲が想像で配慮を考え、それを当事者に押し付けるようなことは駄目だということ。ニーズは個別性が非常に高いものなので、当事者からの発信が必須であり、それに基づく合理的な配慮を為すべきということだ。

親会社の宇部興産では、以前より当社と連携しながら障がい者雇用を推進している。新たに工場サポートチームやビジネスサポートチームを立ち上げ、チーム雇用の形態での推進も図っている。なお、これらのチームは、特例子会社である当社の知識・ノウハウを活用し、宇部興産が直接雇用・運営しているものである。この動きは宇部興産グループ内にも広がり、各グループ企業でも直接雇用が進みつつある。このような形態は、特例子会社の役割としてあるべき姿の一つだと思う。

最後に、『合理的配慮』にはいろいろな課題があるが、次の2点について述べる。1点目は「就労中における介助」、もう1点は「安心の担保」である。

1点目は制度の盲点だと思っている。障がい者雇用の促進が図られるなか、重度の方々の就労が進みつつある。また、加齢により身体機能の低下を伴ってくる方々もおられる。これらの人たちの中には、就労中に他人による介助が必要となる人もいる。たとえば、トイレ介助が必要な社員が居(い)た場合、そのトイレ介助は合理的配慮の範疇かどうか?私見だが、同僚社員が義務としてやるべきことでは無いと思う。

一方で、福祉制度は勤務中には活用できないと聞く。では、そのような人が一般企業で働き続けることは無理ということになってしまう。現実に即した制度の改変が必要だろう。

2点目は、前述の『配慮の先回りは厳禁』と関連するものである。障がいへの配慮は個別性が高く、本人からの発信が必須である。このことは、当該法にも記載されていることだが、本人発信はそう簡単にできることではない。そこで、前提条件として『言っても大丈夫という安心の担保』が重要となり、企業として取り組むべきテーマである。

その他にも、聴覚障がい者への情報保障(手話通訳者の配置)も大きな課題であるが、それらを含めて、今後とも丁寧に解決していく必要があると思っている。

(ありたしんじろう 宇部興産(株)特例子会社 リベルタス興産顧問)