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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年4月号

具体的な取り組み

情報保障と成長支援 京都産業大学における障害学生支援

渡邉あい子

文系・理系合わせて9学部23学科が京都・上賀茂の1キャンパスに集約されている京都産業大学は、13,000人を超える学生と、約1,300人の教職員が集う大規模な総合大学です。1拠点の強みを生かした多彩な教育プログラムの展開や産学協働教育を特色としています。

本学での障害学生支援は今年13年目を迎えます。

障害学生教育支援センターの業務

本学での障害学生支援は、「障害学生教育支援センター」(以下、「センター」)が中心的役割を担っています。センターの業務は主に、授業や試験における合理的配慮の検討とコーディネート(学部等との連携調整)、障害学生支援サポーターの養成と派遣、学内のバリアフリー推進、関連する学生支援部門との連携などです。

本学の2016年度の障害のある学生の在籍率は学生全体の0.85%(高等教育機関での全国平均(2015年度)0.68%)であり、視覚・聴覚障害や精神障害(発達障害含む)など多岐にわたっています。障害があるなどの理由により、修学上の困り事や悩みを抱える学生には、センターのスタッフが日々相談に乗り、コーディネートを行なっています。入学前からの相談や受講の様子を心配した教員からの紹介、学生相談室経由など相談経路はさまざまですが、センターでは、いわば学生本人の「意志の表明」(合理的配慮のスタートライン)までのプロセスを重要視しています。とりわけ発達障害のある学生への配慮・調整は、個別性が高く、「何をどこまでどうしたら」がつきまとい支援を組み立てる側も試行錯誤を求められますが、何がバリアになっているのか、大学でできること、本人にも工夫してもらわねばならないことを整理し、学生自身が自らのニーズを言語化できるように支援しています。

徹底した情報保障

本学の障害学生支援のスタンスは、「障害のある学生もない学生も同じように学べること」であり、徹底した情報保障が本学の特長であると言えます。ほぼ毎年、聴覚障害学生の入学がありますが、入学前のガイダンスから、受講するすべての授業、授業以外のガイダンスなどでも学生サポーターによるパソコンテイクサポートを行なっています。また新たな試みとして、一部の授業では手話通訳者の配置を行いました。学内資源が不足する場合は、遠隔文字通訳サービスや地域の資源を有効に活用しています。

また、発達障害(疑い含む)の学生には、必要に応じてポイントテイクサポーターを派遣します。この支援が有効かどうかのアセスメントを行い、情報保障を超えて学びのフォローが必要と考えられる場合は、より大きな支援の枠組みである修学支援担当者とで情報共有し、たとえば、その学生の特性にあった学習法などを検討することも少なくありません。合理的配慮と学習まわりの支援は、今後どのように体制を組んでいくかが課題です。

理系×視覚障害学生への支援における試行錯誤

情報保障では、情報の同時性が何より大事です。点字学習する視覚障害学生への情報保障では、授業がスライド中心の進行である場合、ブレイルセンスでの読み取りが可能なようにテキストデータ化しますが、数式や図形の多い理系文献を点訳するには、数少ない理系点訳団体へ依頼しなければならず、学生の早目の受講準備と担当教員による点訳の優先順位付け等の調整も欠かせません。また、実験科目では、使用する機器の仕組みの事前理解や実験過程ではTAやサポーターが数値を読み、その結果から次の作業を視覚障害のある学生が指示して進めたりと、見えないからできないのではなく、危険に配慮した環境で最大限参加できるようにしてきました。完璧ではなくとも、その場でできることをする、ヒトとモノの環境を整えておくことが重要です。また、今年度からは大学院での支援が始まります。文献量、専門性が高まり、よりフレキシブルな支援方法の検討を要することになります。

支援体制の再構築
―教職員対応ガイドラインの制定

昨年は、障害者差別解消法施行を受け、「教職員対応ガイドライン」の制定に向け、学内での議論を重ねてきました。「差別」「合理的配慮」「事前的改善措置」の定義付けや「どこまでしなければならないのか」「具体的にどうしたらいいのか」「過重な負担とは」といった、「何がわからないのか」「どこに不安を感じるのか」についての理解を深めてきた1年間でした。ややもすると、紛争解決などは対立軸で捉える視点につながってしまう側面がありますが、建設的対話によって行われる調整が合理的配慮であり、“どうやったら教育がきちんと届けられるか”という教育サービス提供者としての開かれた態度と同じであることが伝われば、おのずと理解は得られていくのではないでしょうか。

むすびに

意志の表明までのプロセスを支援し、学生自身が必要とする配慮・調整を自ら表明しマネジメントしていく力や、日々発展する支援技術を使いこなしながら情報を得ていく態度を身に付けることは、社会に出て活躍していくことを見据えた成長支援とも言えるでしょう。

さまざまなバリアに遭遇すると、私たちが前提としてきた学び方が果たして絶対要件だろうかと自問する日々ですが、障害学生支援は、教育方法の探求の一端をも担う大きな可能性のひとつと言えるのではないでしょうか。

(わたなべあいこ 京都産業大学障害学生教育支援センター)