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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年4月号

具体的な取り組み

法律施行後の取り組みと今後の展開

浅井令史

障害者差別解消法が施行されて1年を経過した。名古屋市における法施行前から現在に至る取り組みを紹介し、その中から課題点等を挙げていきたい。

本市では、平成26年度から健康福祉局障害福祉部に障害者差別解消担当主幹を設置し、法施行に向けた準備及び施行後の事業を行なってきたところである。

基本的な考え方として、他都市での先進的な障害者差別禁止に関する条例について、障害者団体等から市独自条例制定の要望がある中で、法に規定する体制作りを優先してきたところである。まずは、障害者施策推進協議会の下に「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律施行準備部会」を設置し、検討を重ねてきたが、その中でも、本市の特徴である、障害者差別に関する相談及び紛争防止等の体制整備について述べさせていただく。

国の基本方針では、「新たな機関は設置せず、既存の機関等の活用・充実を図ることや相談窓口の明確化、相談や紛争解決などに対応する職員の業務の円滑化・専門性の向上などを図り体制を整備する。」とあるが、既存の区役所など福祉窓口や障害者基幹相談支援センターを相談窓口とすることは当然として、相談窓口の明確化が重要であり、紛争解決に向けて、ワンストップで専門的に対応する相談機関の設置が必要であるとの検討結果となり、それに基づき、「障害者差別相談センター」を設置する方向となった。

この相談センターは委託事業として平成28年8月から開設した。統括責任者の下、センター長含む相談員5人体制で運営されており、相談業務(調査・調整を含む)の他に、相談窓口職員の人材育成、市民や事業者向け啓発などを行なっている。相談業務では、相談者である障害当事者の声を傾聴し、また、その相手方となる民間事業者への対応も含め、訪問調査を基本として、客観的な事実確認から始まり、両者間での調整を行い、建設的な話し合いを通じて、対応している。その紛争解決のために重要な仕組みとして、相談センター内に学識経験者、弁護士、事業者団体関係者、障害当事者などを委員とする「連絡調整会議」を設置しており、相談センターへの相談について、「差別事例なのか」、「どう解決するか」など、統一的な対応の方針を決めていくものである。

相談状況として、平成29年1月末現在で、障害者差別にあたると判断した相談件数が57件(その他含めると全体では198件)であり、相談員はその解決に向けた対応に追われている状況である。現場からの声として、「差別事例かの判断が難しい。」、「差別事案でなくても、本人が差別として相談される例も多く、納得していただくことが重要。」、「民間事業者は、法理解に差があり、事業者の管理部門では法理解が進む状況であるが、現場レベルでは、店員など末端職員まで周知が行き届いていない。」、「連携先である他市町村には、相談窓口は存在しているが、相談実績がない市町村もある。」などの報告を受けている。

名古屋市における相談及び紛争防止等のための体制(イメージ)
図 名古屋市における相談及び紛争防止等のための体制(イメージ)拡大図・テキスト

この状況を受けて、課題点を挙げると、やはり、法の周知が十分でないことである。本市でも、平成26年度から内閣府と地域フォーラムを共催するなど、毎年、市民向けの講演会の開催や広報誌の発行などに取り組んできているが、平成27年度に実施した市民モニターアンケート調査では、「法を知っている。」、「法の名前は知っている。」という割合が約20%であった。法の周知は重要であり、効果ある啓発活動の実施は、今後、「障害者差別解消支援会議」(法における「障害者差別解消支援地域協議会」)での重要議題として、取り組む方針である。

また、相談センターの設置により、わかりやすく気兼ねなく相談できる体制を整えたところであるが、それにより、多くの相談事例が集積できる点も重要と考え、より相談窓口の周知・明確化を図る必要があろう。

最後に、条例の関係であるが、基本的には、条例の有無や法規定に対する取り組み内容で都市間格差がないことが求められるべきだと考える。しかし、本市の現状は、相談センターに差別相談が日々入る状況であるし、「障害や差別の定義」、「紛争解決の実効性」など、先行施行された条例に盛り込まれた内容(愛知県条例との整合性を図ることを含む。)について、議論をする必要があると考える。そこで、1月開催の障害者施策推進協議会では、平成29年度から、条例に関する部会設置の方向性が示された。

今後は、条例の必要性を議論していく中で、市民参加の場や民間事業者などへのヒアリングなど、さまざまな機会を設定し、その過程でも障害者差別解消の考えを広めていくことができればと考えている。そして、法施行3年後の改正も見据えながら、より良い法のあり方に寄与できるよう、本市の独自の部分を大事にして、取り組んでいきたい。

(あさいれいじ 名古屋市健康福祉局障害福祉部主幹(障害者差別解消・福祉都市推進))